20
リィファの「行きたいところ」は、自らの落下現場だった。道を知るシルバがリィファを先導して向かった。
リィファの背丈の二倍近くの門を抜けて、二人は敷地の外に出た。
周囲の森は、十歩ほど先から始まっている。既に闇が訪れているために森の空気は厳かで、人間を寄せ付けないものがあった。
「ちょうどこの辺りだな。お前は銀一色の服装で地球から落ちてきて、八卦掌で俺たちを攻撃してきた――って、ぼんやりとは覚えてるんだったか」
静かに告げたシルバは、隣に立つリィファに顔を向けた。リィファは、神妙な面持ちで頭上の地球を眺めている。
「やっぱり不安だよな。自分のルーツがわからないと」
同情を籠めて呟くと、リィファは「はい」と、囁くような返事をした。
シルバもゆっくりと空を見上げた。たくさんの星が、静謐な輝きを見せている。
「話してなかったが、俺は孤児だ。お前みたいに特殊な出自じゃないが、親が誰かははっきりしない」
リィファはさっと振り向いた。シルバに向ける両目は、普段より僅かに見開かれている。
「でもみんな、同じなんだよ。自分がどこから来て、何のために存在するのかわからない。それでも生活を続けてって、周囲と関わり合って、年齢を重ねて。最後には死ぬ。その中で、生きてく意味を見出していく。そういうもんだ」
二人は見詰め合ったまま動きを止めた。遠くから、梟の鳴く声が聞こえる。
「また知ったような口を聞いちまったか。どうも、雰囲気に中てられるな。さっきの台詞は忘れてくれ。人生講釈なら、もっと年上の人間から受けたほうが良い」
視界の端で、リィファが薄く笑った気がした。
「うふふ。先生って謙虚なんですね。とってもためになりましたよ。それになんとなく、これからやっていけそうな気もしてきました。ジュリアさん風に言うと、『センセー・パワーの発揮』ってやつですね」
穏やかな口振りのリィファから、茶化すかのような返答が来た。
「パワーうんぬんはともかく、元気が出たんなら良かった。これから色々あるが、俺もジュリア、トウゴさんも付いてる。まあどうにかなるだろ」
シルバは、やや楽観を混ぜて答えた。
寂しげな風の音が、耳に響いてくる。
「にしても、地球はどうなってるんだろな。人間はみんな、月に逃げて来たって話だが、あの単一色の服の連中はそこまでの脅威とは思えない。俺たちの予想も付かない何かが、地球に起こったのかもな」
言葉を切ったが、リィファからは返事が来ない。
「それじゃあ、そろそろ……」と、シルバが帰宅を促そうとすると、「――あそこ」と、リィファは小声とともに指を差した。シルバが見遣ると、二十歩ほど離れた位置で、少女が天空を仰ぎ見ていた。
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