21
「もう夜だってのに、一人で何をしてるんだ? 親はいないのか?」
シルバの口から、思わず疑問が飛び出た。すぐに少女へと早歩きで近づいていく。
三歩分の間を空けて、シルバは立ち止まった。リィファと似た身体つきの少女の観察を始める。
第一印象は、「おとぎ話から飛び出てきたお姫様」だった。宙の一点を凝視する大きな目は愛らしく、鼻筋の描く曲線は優美である。背中にまで至る金髪は、黄金さながらの輝きだった。
身に纏う上下一体のローブは、足のぎりぎりまでを覆っている。色は透き通った白で、ところどころに緻密な模様を内包した銀のラインが入っていた。
少女の作り物めいた美しさに圧倒され、シルバは声を失った。すると隣にリィファが並んだ。
「獣が出るし、危ないよ。綺麗な夜空だし、いつまでも見ていたい気持ちもわかる。だけど、早く帰ったほうが良いよ」
リィファの穏便な忠告に、少女は滑らかに振り返った。聖女のように純正な笑みを、リィファに固定する。
「リィファ、あなたはわかっているはず。私の眺める星は、神星。完全で崇高な、私たちの故郷」
詩の一節を口にするかのような調子だった。すぐにリィファは、不思議そうな面持ちになる。
「どうしてわたしの名前を知っているの? わたしは、あなたのこと何にも……」
リィファの台詞は、徐々に勢いを失っていった。やがてはっとした面持ちで固まる。
「そう。私の名前は、フラン。あなたと浅からぬ因縁にある者。今日の邂逅はここが終点。また会いましょう」
深い声音で囁いたかと思うと、フランは唐突に掻き消えた。混乱するシルバは周囲を見回した。だが、フランの姿はどこにも見当たらなかった。
「何だったんでしょう。わたしとは、昔からの知り合いって風だったけど。わたしの記憶と何か関係があるのかしら」
リィファは呆然と呟くが、見当も付かないシルバは、無言で立ち尽くすのみだった。