テラーノベル
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なぜ母さんは、父さんが働いていた施設に元貴を預けたのか。
これだけはいまの俺にも分からない。ただひとつ考えられるのは、母さんなりの謝罪だったのかもしれない。
「滉斗、母さんには内緒だ。今日は元貴は絵本を読んでたぞ」
そうやって毎日のように、父さんが内緒で教えてくれる元貴の様子に安心したり、そばにいてやりたかったと悔やんだり。
元貴は産まれたときからいろんなものに敏感だった。音、光、味、触覚。小さな物音でも、ちょっといつもより明るいだけでも泣くし、服も着てくれるやつはだいぶ少なかった。
それらをすべて母さんに任せてしまったから、母さんは限界だったし、父さんも止められなかったんだろう。
いつか俺が大きくなったら、必ず俺が元貴を迎えに行く。そして、母さんたちが愛せなかった分を、俺の大切にしてやる。そう決めたのは、元貴がいなくなって3ヶ月が立つ頃だった。
しかし、神様は、優しくなかった。
「すまん、本当にすまない」
「嘘でしょ……どうするのよ、借金もあるし」
そんな会話を聞いたのは、元貴がいなくなって3年ほどしたある日の夜だった。母さんになにを話してるのかを聞くのはできなくて、父さんから施設をクビになったことを聞いた。
「滉斗すまない、もう父さんは守れない」
父さんがあんなに項垂れていたのは、元貴がいなくなった日以来だった。
お世辞にも裕福とはいえない俺たちは、ある金持ちから借金をしていた。母さんは専業主婦、父さんも職を失った。これでは借金を返せないし、俺の教育費どころか、生活費すら足りない。
「滉斗、荷物をまとめなさい」
その言葉を聞くまでは、そう時間はかからなかった。
雨の降る夕方。車なんてないから、歩いて向かった先は、有名な金持ち、藤井家の屋敷。父さんたちが借金していた人たちらしい。
「君が滉斗くんか、今日から頼んだぞ」
たくさんの黒い服を着た人に囲まれて、俺に向かってそう言ったのが、藤井家の当時のトップ、藤井たつやだった。
言ってることはひとつも分からなかったけど、当時の俺でも、両親に捨てられたことだけは分かった。
「では早速、これに着替えてもらおうか」
父さんたちがいなくなったあと、俺に手渡されたのは、みたことないくらいビシッとしたキラキラの服だった。その時俺は、あぁ使用人じゃなくてよかった、そう思ったのを覚えている。
「今日から君は、藤井滉斗だ。藤井家のなに恥じない働きをしてくれよ」
ぽん、というよりはドンッと肩を叩かれ、俺の藤井滉斗としての生活が始まった。
藤井家の生活は知らないことだらけで、大森家の頃の荷物は全て捨てられた俺には、着方の分からない服がたくさんと、全く読めないどこかの国の神話の分厚い本がたくさん渡された。
「そんなこともできないのですか?それでは藤井家に傷が付きます」
使用人を含め、大半の藤井家の人に、俺は嫌われていた。
そりゃそうだろう。純藤井家のやつらは俺と比べ物にならない学習をしてきてる。そんなやつらからしたら、俺なんてなにもできない出来損ないだ。
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#ご本人様には関係❌
コメント
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若井さんが大森さんの孤児院服を死守したのも、自分と同様の辛さを感じさせないため…と考えると、若井さんの兄弟愛を感じました!! それにしても大森家、不運すぎます… 若井さんの過去が辛すぎる… 続き楽しみにしてます!