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「容疑者が落ちたぞ!」
「捜索班! 急げ! 川に落ちた!」
堤防の上は一瞬で騒然となった、警察官達の怒号が飛び交い、無線がけたたましく鳴り響く
「ターゲットが川に転落! 捜索班、至急配置! 流れが速い、急げ!」
報道陣は我先にとカメラを構え直し、フラッシュが連続して光る、テレビクルーのレポーターがマイクに叫ぶ
「ただいま、容疑者の伊藤真希が川に転落! 状況は緊迫しています!」
カメラマンが堤防の縁に身を乗り出し、濁流に呑まれた真希の姿を追うが、彼女の影はすでに水面に消えていた
川の流れは速く、夕暮れの光を反射しながら轟々と音を立てて下流へと駆けていく
真希の落ちた水面にはわずかに泡が浮かぶだけで彼女の姿は見えない、ヘリコプターのローター音が一層激しくなり、サーチライトが川面を切り裂くように照らし出すが、濁った水は深い
俊太は晴美に晴馬を渡し、猛ダッシュで捜索隊と一緒に下流に渡った、腕に血を流しながら
晴美はやっと我が子を腕に抱きしめ、涙と嗚咽で体を震わせながら地面に崩れ落ちる
「晴馬・・・晴馬・・・」
彼女の声はか細く、川の轟音にかき消されそうになる
「生きているのかよ・・・」
康夫はそう言って晴馬ごと晴美を抱きしているが、呆然と川に消えた真希の姿と晴美を交互に見つめる、川の流れはあまりにも速く、真希の運命を不気味なまでに曖昧にしていた
堤防の上に残されたのは血の滴と、未だ鳴り止まないサイレンの音・・・
川の濁流は冷たく、まるで全てを飲み込む闇のようにうねり続ける
そこから真希が発見されたのは1時間後、遥か下流の浅瀬に水草にひっかかっていた