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【1か月後】




調停室は冷たく静まり返っていた・・・


長方形のテーブルの両側に晴美と康夫が向かい合って座っている



晴美は目の前の書類に視線を落としたまま動かず、康夫は背筋を伸ばして硬い表情で前を見据えている



両者の間には、互いの弁護士が書類の束を手に、事務的にページをめくる音だけが響く



窓の外から差し込む光が部屋に薄い灰色の影を落としていた



晴美の弁護士が眼鏡の縁を軽く押し上げながら落ち着いた声で口を開いた



「・・・DNA鑑定の結果、「次男の晴馬」ちゃんの父親は、康夫さんだと判明しました、しかし・・・双方のご意思により、これから離婚協議書類の作成に入らせて頂きます・・・その前にもう一度お二人の意思を確認したいと思います、お二人の意思は変わりませんか? いかがですか?」



弁護士の声は穏やかだが、言葉には有無を言わさぬ力がこもっていた



「離婚します」



先にハッキリ答えたのは康夫の方だった



「私も同意見です、離婚します」




晴美も目を上げずに答えた、弁護士が軽く咳払いをして、書類を手に取った



「では・・・離婚協議書の作成手続きに入ります・・・まずは、晴美さんに三人のお子さんの親権について確認させていただきます、お子さん三人の親権は、事前の話し合い通り、晴美さんがお引き受けになる事に成ります・・・次に、財産分与についてです、現在お住いの住宅は、お二人のご意向により売却の方向で進めます、売却益は双方の合意に基づき、晴美さんがお子さん三人を養育する負担を考慮し、晴美さんが7割、康夫さんが3割で分配されることで問題ございませんか?」



「はい、問題ありません」


「私も問題ありません」




弁護士は素早く書類にメモを書き加えて続けた



「次に養育費についてです・・・康夫さんには三人のお子さんの養育費として、月額12万円を晴美さんにお支払いいただくことで、事前に合意いただいております。この金額は、康夫さんの現在の収入と生活状況を考慮したもので、双方の合意に基づいております・・・次に預貯金については、双方の口座残高を確認済みです、晴美さん名義の口座に25万円、康夫さん名義の口座に150万円がございます、これを均等に分配し・・・」




弁護士の言葉がだんだん晴美の耳から遠くに聞こえる・・・



結局晴馬は康夫の子供だった、あんなに悩んだのがバカらしくなったと同時に晴美は安堵したのか三日間泣き続けた、でもそれが判明しても今更どうにもならなかった、二人の未来は完全にこれですれ違ってしまった



あれから晴美は三人の子供を連れて実家に帰った、康夫も自分の実家に帰り、仕事を辞職した・・・なぜなら連日レポーターがあの家に押し寄せているからだ、すっかり「W不倫の末に誘拐された子供がいる家」で有名になってしまった



あの家がこれから売れるのかもわからない



細川捜査官が「あなたの家に忍び込んでいた『どろぼう猫受付嬢』を訴えるのは当然の権利ですし、今セクハラで裁判を控えているご主人の援護射撃にもなります」


とアドバイスをくれたので、晴美は遠慮せずに百武桃花にはそうするつもりでいた



晴美のたった1回の過ちの和樹とのあの30分よりも康夫の裏切りの方が罪は重いのだろう


実祭連日雑誌を騒がせている晴美達の記事は康夫の方が悪く書かれている


康夫は若い娘が好きで、今の晴美には魅力を感じてなくて、三人目の子供は欲しくなくて、親友と浮気をした晴美を許さないと・・・




離婚が成立した後・・・弁護士事務所を出た所で二人はお互い向かい合った




「ひとつだけ聞いていい?」


「いいよ」


「あなたは百武桃花を愛していた?」


フンッ

「思い出したくもない」




今の彼に対する仕打ちならそう考えるだろう、不倫相手の桃花は康夫にむりやり交際をせまられたと言ってるのだ、それでもどうしても聞きたくて晴美はもう一度康夫に聞いた




「どんな子だった?」




しばらく考えて・・・康夫は切なそうにため息をついて言った



「彼女は・・・俺を尊敬の眼差しでよく見てくれていた、そこで思ったんだ・・・君も俺と付き合っていた時はよくこの目をしてくれていたなって・・・」



晴美はじっと康夫を見つめた




「君は?どうして和樹と?」





晴美もため息をついた



「私達が激しく喧嘩をした夜・・・子供達を連れて実家に帰ったことがあったよね・・・」


「うん・・・三日後に俺が迎えに行った時?」



「和樹に会いに行ったの、どうしてあなたがあんなに私に意地悪な事を言うか・・・何が悪いのか分からなかったから、和樹が何かあなたから私の事を聞いていないかと思って」


「うん・・・」



「二人でお酒を飲んだわ、そして和樹は私の頭を撫でたの・・・」




もう一度じっとお互いの考えを探る様に二人は見つめ合った




「君は・・・付き合っていた頃、よく俺に「ヨシヨシして」ってせがんでたな」



「それが理由よ・・・」



「そうか・・・」






そして二人は言った





「さようなら・・・元気で・・・」


「あなたも・・・」







二人はお互い背を向けて反対方向に歩き出した、もう二度と同じ家に帰る事はない






幾度もヒビが入ってそれを修正してきた花瓶の様な晴美と康夫の結婚生活は・・・





みごと粉々に砕け散った


ママ友の子供を私は誘拐する【第4回テノコン・ショートドラマ特別賞】

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