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「俺が、ずっと追いかけてきた人を見間違えるはずがありませんから」
その言葉に、胸の奥が冷たく沈んだ。
「……じゃあ、隣の部屋へ引っ越してきたのも、僕に近づくためだったんですか」
「はい。あなたに会いたかったからです」
即答され、柊吾の指先が震えた。
「会いたかった。それだけですか? それとも、朝倉奏を見つけて、手に入れたかった?」
「……最初の俺は、その二つを区別できていませんでした」
瑞樹は目を伏せた。
「以前、祖母の介護の話を少ししたのを覚えていますか」
「……はい」
「祖母は若年性のアルツハイマーでした。家族で世話をしていましたが、実際には母に負担が偏っていた。祖母が少しずつ人間らしさを失っていくことを、母は受け入れられなかった。父は自分の母親なのに、すべてを母に押しつけ、仕事に逃げていました。兄の大樹も、介護を担うような性格ではなかった」
瑞樹の声は静かだった。静かすぎるせいで、その奥に沈められた疲弊がかえって生々しく伝わってくる。
「家の中は、崩壊寸前でした。母は眠れず、父は見て見ぬふりをする。当時の俺はまだ無力で、知識もなくて……母の助けになりたかったのに、何をすればいいのか分からなかった」
柊吾の脳裏に、真理子の姿が浮かぶ。
食事をしたことを忘れ、同じ話を繰り返し、さっきは自分の顔さえ分からなかった母。あの変化を受け入れられず、苛立ち、声を荒らげた自分。
瑞樹もまた、誰かが壊れていく家の中に立っていたのだ。
「そんな絶望の真ん中で、俺はあなたの歌に救われたんです」
瑞樹はゆっくりと顔を上げた。すがるようでいて、遠い記憶を見つめるような瞳だった。
「画面の中で輝いているあなたを見るだけで、荒んでいた心が少しずつ軽くなっていった。明日も起きて、できることをしようと思えた。同世代のあなたが頑張っているから、自分も逃げてはいけないと思ったんです」
「だから、福祉の道へ?」
柊吾が尋ねると、瑞樹はわずかに頷いた。
「高校から、その道を学ぼうと決めました。俺が大学に入った頃には、祖母はもう亡くなっていましたが……あの家で何もできなかった自分を、ずっと許せなかった」
自嘲のような笑みが、瑞樹の唇に浮かぶ。
「でも、それすら本当は、自分を救ってくれた朝倉奏という光にすがりついていただけだったのかもしれません」
その笑みがゆっくり消えていく。
「あなたが突然、表舞台から姿を消した時、俺の中の時間が止まりました。どこかで生きているのか。なぜ消えてしまったのか。理由も分からないまま、俺はずっと画面の向こうの幻影を探し続けたんです」
柊吾の胸が、どくりと鳴った。
コメント
1件
いやあ……瑞樹の告白が重くて、でも優しくて、胸がぎゅっとなりました。介護家庭の話が生々しくて、彼が「朝倉奏」を追いかけてきた理由が一気に腑に落ちた。ただの執着じゃなくて、自分を救った光を探すための十年だったんだなって。最後の「柊吾の胸がどくりと鳴った」で、これからどうなるのか、すごく気になります。
#三角関係
霞花怜
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寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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