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山城たちが放った火炎瓶が、闇を切り裂く弧を描いて中臣のセダンを包囲した。
アスファルトの上で爆ぜるオレンジ色の炎が、降りしきる雪夜を真っ赤に焦がし
防弾仕様の車内からPMCの兵士たちが這い出してくる。
だが、訓練されたはずの奴らの動きには、明らかな戸惑いが生じていた。
彼らが守るべき「法」も、彼らが逃げ込むべき「闇」も、今の新宿からは完全に消失していたからだ。
ここにあるのは、ただ怒りと炎が支配する無秩序な戦場だけだった。
「……いたぞ。真ん中の車、後部座席だ」
志摩が瓦礫の隙間に身を潜め、冷徹な手つきで銃を構える。
炎の照り返しの中、重厚なドアが開き
屈強な男たちに抱えられるようにして一人の男が姿を現した。
中臣代議士。
かつてテレビの画面越しに、傲慢なまでの正義を説いていた威厳は微塵もなかった。
振り乱した髪、恐怖で引きつった青白い顔。
奴は、自分が万能だと信じて疑わなかった「システム」が音を立てて崩壊していく悲鳴を聞きながら、生まれたての小鹿のように震えていた。
「中臣ィッ!」
俺の咆哮が、燃える路地裏に激しく響き渡る。
反応した兵士たちが一斉に銃口を向けるが、志摩の放つ正確無比な援護射撃が奴らの頭を抑え、足を止める。
「黒嵜…っ、貴様、まだ生きていたのか!しぶといドブネズミが!」
「ああ、地獄の底から這い上がってきたぜ。拓海の冷たい体をお前が見捨てた時も、親父を『檻』に閉じ込めた時も……俺はお前のすぐ後ろに、その影の中に、ずっといたんだよ」
俺は両手に二振りのドスを握り締め、雪と火花が舞い散る中をジグザグに突っ切った。
一人の兵士が銃身を棍棒代わりに格闘戦を挑んでくるが
俺は親父から受け継いだドスでその鉄塊を撥ね退け、返す刀でもう一振りのドスを奴の膝裏へ叩き込んだ。
「ぎゃあああ!」
鮮血が純白の雪を汚し、俺の体温を急激に奪っていく。
だが、中臣との距離が縮まるにつれ、俺の心臓は爆音のような高鳴りを上げた。
これは恐怖じゃない。
二十年分の怨嗟が、ようやく出口を見つけた歓喜だ。
「やめろ、来るな!私はこの国の、この街の王だぞ! 私という秩序がいなければ、この国は……!」
「お前がいなくても、明日は必ず来る。……だが、お前にはもう、明日の朝日は拝ませねえ」
俺は中臣の胸ぐらを鷲掴みにし、燃え盛るセダンのボンネットへと力任せに叩きつけた。
熱気が肌を焼き、髪の焦げる臭いが鼻を突く。
中臣の絶望に満ちた悲鳴が、新宿のビル群に木霊した。
「……拓海に謝れ。…親父に、魂を削って詫びろ」
俺が逆手に持ったドスを高く振り上げた、その時だった。
背後から地響きのような重厚なローター音が押し寄せ、突風が炎を煽った。
上空から放たれた強烈なサーチライトが、俺と中臣を「標的」として真っ白に照らし出す。
『黒嵜和貴!中臣代議士から離れろ!繰り返す、即刻離れろ!これは国家安全保障局の直属部隊だ! 抵抗は一切認めない!』
絶望を塗り替える、さらなる巨大な「壁」の出現。
だが、俺は眩い光の中で、ただ静かに笑った。
震える中臣の喉元に、冷たい刃の感触をゆっくりと押し当てる。
「志摩……最高のフィナーレだと思わねえか?」
空からは死を弔う雪が降り、地上からはすべてを焼き尽くす炎が上がる。
そして俺の心には、ようやく、漆黒の静寂がしんしんと降り積もっていた。