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「『数日ぶりだね、妖術師。突然で申し訳ないが、君に“連続殺人事件”の容疑者の調査を行って欲しい』」
東京の中心となる東京駅から、徒歩数分で到着する建物の屋上。
本来なら封鎖されているその場所は、人並みを超えた身体能力を持つ妖術師にとって、誰にも邪魔されない最高の隠れ家となっていた。
そしてその屋上で、つい先程まで研いでいた『太刀 鑢』を見つめながら、地面に置いたスマホへと意識を向ける。
スマホの画面に表示されている名前は『永嶺 惣一郎』、行く宛のない妖術師を拾った人物であり、『Saofa』の創設者の一人でもある。
「―――連続殺人事件の容疑者?」
「『あぁ、そうだ。最近起きた殺人事件は既に知っているだろう?その容疑者が“偽・魔術師”なのではないか、と上から指摘されてね』」
そんな彼からスマホ越しに伝えられたのは説明の通り、二日前から起きている『連続殺人事件』の犯人が偽・魔術師かどうかの調査だった。
「『被害者は術師と関わりがある人物が五名。どの被害者も心臓を何度も刃物で刺された痕跡があり、殺人の現場は四国・中国・関東に別れている。…………確かに、これが二日で起きているんだ、容疑者も何らかの術師である可能性が高いだろうね』」
たった二日で、三つのバラバラな場所で起きた殺人。
最初は警察も、同一人物による犯行は低いと話していたが、被害者の同一点や殺害方法などが非常に酷似していた為、同一人物の犯行と見て捜査を開始した。
二日経った今でも、警察側は手がかりとなるモノは何も掴めず、犯人も分からず終い。
「『相手は術師、ましてや偽・魔術師かもしれない人物だ。易々と見つかるはずも無い。………結局、犯人の捜査を中断した警察側は、なくなく私たち“Saofa”に協力を仰いだって訳さ』」
そして犯行現場にSaofaが介入した際、うっすらと魔力が残留している箇所を発見。
回収した魔力をSaofaの解析班に受け渡した結果、犯人は『偽・魔術師』の可能性が高いと判断したのだ。
「犯行の状況、偽・魔術師って断定した経緯は分かった。けどよ、警察ですら犯人の居場所を探し出せなかったのに、俺らで見つけれるモンなのか?」
例え、相手が偽・魔術師であろうとなかろうと、身を潜ませている場所が不明となれば、こちらは手も足も出せない。
まさか、日本全土を歩いて回れなんて言うわけじゃないだろう。
「『見つけられるとも。その為に、君と同行するよう、彼女に言ってあるからね』」
その瞬間、惣一郎の発言が終わった後、俺の背後から扉を開ける音が聞こえる。
ギギッと重く響く金属音を無視し、持っていた『太刀 鑢』を鞘から抜いて、扉の方向へと飛び出した。
「―――ッ!!」
風を切り、扉の向こうに居る人物の首元へと、刃を極限まで近付け、寸前で止める。
「―――誰だテメェは、ここは俺のテリトリーだ。邪魔ァすんならどんな術師でも殺…………す?」
………止めたのだが、刃ではなく、刃を向けられた側の喉が遠く離れた。いや、離れたというより、後ろへと倒れ込んだ。
目の前で尻もちを着いた人物の膝を見ると、酷くガクガクと震えている。
被っていたモコモコの帽子とメガネが外れかけ、同じくモコモコの白いロングコートを着ている、女性だ。
そしてその眼にはうっすらと涙が浮かび上がり、余りの恐ろしさで数秒後には、その場で気絶してしまった。
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―――惣一郎との電話から三十分後。俺の領域内へと侵入してきた人物は、未だ気絶したままだ。
惣一郎曰く、コイツは術師でもなんでもないただの人間であるにも関わらず、生まれた時から“超能力”に似た力を持っているらしい。
妖術、魔術、錬金術、秘術、奇術、呪術。そのどれにも該当しない『未知の力』だ。
「………魔法。なんて事はねェよな」
遥か昔に、魔術と妖術が生まれるより前に、魔法というモノが存在していた。いや、現に今も存在し続けている。
その『魔法』というのは、術師が使える妖術・魔術を含むその他の術の下位互換に過ぎない。
才能があれば、一般人ですら扱える手頃な超能力。
いま俺が使っているのは、その『魔法』をベースにして妖力を上乗せ、魔法式と妖術の元となる術式を掛け合わせた『可逆妖術』だ。
………もし、この女が魔法を使えるとした場合、惣一郎は性格上絶対に“そう”言うはずだ。
妖術でも魔術でも、魔法でもない別の力。
そんなもの、本当にあるのか疑わしい。
「……………っは!!」
「―――よォ、やっと起きたか。随分と呑気なヤツだなお前」
まぁ、そうさせたのは俺なんだが。
目覚めた女はぐるりと辺りを見渡し、自分に置かれている状況を呑み込む。
どうやってここに来たか、何をしにここに来たか、そしてここでなにが起きたか。その全てを、完全に思い出したようだった。
「………あ、あの。妖術師、さんですよね?」
「見りゃわかンだろ。薄汚い灰色の髪にモッズコート来てる術師なんて、妖術師しか居ねェよ」
「………そ!!その……な、なな永嶺さんに!!…お願いされてここに、来たんですけど……」
なんだコイツ。妙に俺を警戒してる。
そんなに妖術師ってのが怖いのか。コイツは魔術師じゃ無いんだから、俺に怯える必要なんてないはずなんだが。
「………取り敢えず、落ち着け。話はゆっくりと聞いてやるよ」
「………あ、ありがとう。ございます……」
俺は影から一本のペットボトルを取り出し、女の方へ投げる。
ついさっきコンビニで買ったただの水。一本200円した、どうなってんだ最近のコンビニは。
その渡した水を受け取り、女はゴクゴクと飲みながら少しづつ落ち着きを取り戻していた。
なら、本題に入っても問題は無さそうだ。
「で、お前が惣一郎さんが言ってた助っ人か?」
「助っ人……なんて大層な者じゃないですけど。そうです、妖術師さんの力になれるだろうから同行してくれ、って言われました」
あの惣一郎が推薦するレベルとなれば、その未知の力は相当なものかもしれない。
「じ、自己紹介が遅れました!!私の名前は『観澄 晶』です!!昔から、なんですけど………私、人探しが得意……なんです」
「―――観澄って言や、テレビ番組に良く出てる、オッサン霊媒師の」
「………っそうです!!その人が私の父親です!!」
『観澄家』となれば、テレビを観てる人の大半は知っている名前だろう。
真冬でこんな寒いってのに、最近のテレビ番組は“ホラー”の分野が流行りつつある。その一環として、霊媒師をゲストで呼ぶことが多々ある。
その時に呼ばれる霊媒師こそ、『観澄』という名前の男だ。
過去に、その霊媒能力を用いて行方不明者を探し出したとかなんか。
「その……私自身に霊媒能力はないんです……でも、何故か、人の居る場所は薄らと分かるんです……」
「人の居る場所、か」
霊媒師の役目は、霊的存在とコミュニケーションを取り、その情報を現世へと伝える為の橋渡しを行う。
そんな能力を持つ家系で、人を探す事に特化するとなれば、
『魂、だな。人間にも幽霊にも、魂は必ず存在する。守護者的存在の我でも、魂はカタチとして残っているからな』
………狂刀神。急に喋ったと思えば、守護者とかほざいてやがる。
お前に守護して貰った覚えなんて無いんだがな。沙夜乃の時も俺の身体をボロボロにしやがったクセに。
「………そうか。わかった、いやイマイチ詳しくは理解してねェけど、役に立つンならそれで良い」
「………信じて、くれるんですか?」
子犬のように、目をうるうるさせながらこちらを見つめて来ている。
「………信じるも何も、お前、俺が何処に居るか分かってここに来たンだろ。それも惣一郎さんの助言も無しに」
惣一郎は、俺の居場所を誰かに教えたりしない。
ごく稀にだが、俺と行動を共にする術師は居る。その全員が俺を見つけられず、結局、現場で合流する事になる。
と、思ってたんだが。まさか、なんの手がかりも無しに、俺の居場所を突き止めるヤツがいるとは思わなかった。
『観澄』の力は、少しだけ信用出来る。それを知れただけでも今は良い。
「………。」
観澄はポカンと呆けた顔をしながら、その場でペタリと座り込んだ。
『ほれ、喋らなくなったぞ。こういう時に何か声を掛けてやるのが、英雄の妖術師と呼ばれた貴様の役目じゃないのか』
煩い狂刀神の声を無視して、俺は一人焦り始める。
………なんだ、なんか俺マズイ事でも言ったのか。 女の扱い方なんて知らないし、氷使い相手には毎回こんな感じだったと思うんだが。
「………す、すいません。まさかそう言ってくれる人が、居るなんて思わなくて……」
両手で顔を押さえ、溢れ出る涙を見せないようにしながら、観澄はその場で泣き始めた。
どうやらこれは悲しみの涙じゃなくて、嬉しみの涙だったようだ。………こうも目の前で泣かれると、少し困るな。
観澄の発言からして、これまでの人生で“信じる”と言われた事が無いのだろう。
霊媒師の家系なら、胡散臭い力を信じて貰えないのはごく当たり前の事。
「それは、家族にも。か?」
「……………。」
沈黙、それは拒否ではなく、肯定の沈黙だった。
代々受け継いで来た霊媒能力、それが欠けた人間。そして霊媒能力かどうか怪しい、魂を視る力。
本人が理解出来ていない、言葉で説明が出来ない力なら、霊媒師は名乗れない。
「―――お前は何をしにSaofaに入った」
本題からは逸れてしまうが、どうしても聞きたかった。そんな人間が、どうして魔術師殲滅を目論む組織である『Saofa』に入ったのか。
テレビのように表上で活躍が見られる訳でもない。裏で勝手に戦い、勝手に死に、一般人に何も理解されず朽ち果てる。
それが魔術師殲滅組織『Saofa』だ。
そのSaofaに入った彼女は、何を望む。
「………私は、私の存在意義が欲しい。家での私は存在していないのも同然、だから私は、私がここに居ていい理由が欲しい」
「―――そうか」
自らの居場所探しか。それこそ、居場所を探すなら、その力が適任だと思うのだがね。
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