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『まだだ、シックス。そちらからでは視界で確認出来ないだろうが、よく音を聞け。どんなに警戒している相手でも、生物が動けば絶対に音が立つ』
4cardからの指示を受けながら、模擬ステージを進めていく。
今手に持っているのは、大きめの銃。
M4って名前の、彼も使っているアサルトライフルのカスタムモデル。
そんな物を、可能な限り短く持ちながら身を潜めていれば。
隠れている向こう側の部屋から、パキッと何かを踏みつける様な音が聞えて来た。
集中、焦るな。
壁一枚挟んだところに、敵が居るのが分かる。
しかも、一人じゃない。
聞えて来る個所、回数、距離。
全てを音で把握しろ。
全部正確に、とまでは流石に無理だけど。
それでも、何人くらい相手が居るのかって事が分かるだけでも全然違うのだから。
そして4cardは、こういう実戦形式の際。
私に教育する所だけは声を上げてくれるが、それ以外はだんまり。
つまり、突入のタイミングは全て私に託されているという事。
静かに息を吸い込んでから……入口付近に相手の脚が見えた瞬間。
「……っ!」
物陰から一気に攻め込み、先頭の相手に向かって連射。
でも、フルオートはいらない。
私じゃ無駄弾の方が多くなってしまうから。
セミオートに設定したまま、ハンドガンの時と同じ要領で一人目を無力化。
そのままその人を盾の様にして、相手の脇から銃口を出す形で室内へ向かって更に射撃。
これによって、先頭の人に続いていた数名が慌てて此方から距離を取ろうとするが。
「遅い!」
盾にしていた相手を正面に押し出し、それと同時にライフルから一旦手を放す。
スリングと呼ばれるベルトを肩に回しているので、その辺に落としたりはしない。
なので一旦背中の方へと雑に放り投げ、そのままハンドガンを引き抜いた。
近くから順に……では、駄目だ。
4cardから教わった。
相手をちゃんと、しかも瞬間的に確認しろって。
どの順番で誰を倒せば、此方が被害を受けないのか。
コレを瞬間的に判断出来る癖を付けないと、単独強襲など危険でしかないのだと。
そんな訳で、後続の人達をいっぺんに視界に収めた後。
本能的と言える感覚で撃つ順番を決め、連続で引き金を絞った。
室内には此方の射撃音だけが響き、相手は怯む。
まだ、倒した訳じゃない。
リアルの世界でも、人間っていうのは適当な場所に銃弾を受けても死んだりはしないものらしい。
だからこそ、一人に対して何発もの銃弾を浴びせて確実に仕留める。
そうしないと、自分達が犠牲になるから。
映画の様な連続ヘッドショットなんて夢のまた夢。
当然私にもそんな事は出来ないので……コレは、牽制でしかないのだ。
「ふっ!」
短く息を吐きながら姿勢を落とし、倒れ込んだ相手の視線から外れる事を意識する。
動きは止めず、まだ姿勢を崩し切っていない相手に近付き、額に一発。
これが綺麗に決まれば良いが、そうでない場合は弾を惜しまずに腹を撃てと教わっている。
そして、当たったかどうかは発砲した時点で判断する事。
ソレが出来なければ……確認している最中に他の人から撃たれてしまうから。
なので引き金を絞った瞬間から他の敵へと視線を向け、すぐさま横に跳んだ。
こっちにも敵が転がっている事を知っているから、記憶を頼りに。
まるで横向きに寝そべる様な体勢になりながらも、倒れ込んでいた次の敵に向かって発砲。
コレで、また一人無力化。
『シックス!』
「問題、ないっ!」
此方が他を対処している間に、最初の牽制から復帰した残りの連中が体勢を立て直し。
近くで銃を向けて来たので、滑り込んだ体勢のまま思い切り足を振った。
立ち上がっていた相手の足首を蹴り飛ばし、向こうは派手にその場で転倒。
完全に地面に倒れ込む前に、敵の身体へ抱き付くみたいにして急接近。
これも、彼からの教え。
生物とは、“近すぎる”相手に対して対処が絶対に遅れるものだと。
一度思考し、どう引き剥がすべきかを考える。
その間に……。
「くっ!」
短く息を零しながらも、相手に抱き付いたまま銃を構えて連射。
しかしながら、狙うのは“その向こう側”に居る相手。
ゼロ距離に居る相手がまだ生きているのに、それでもしがみ付いたまま他の敵に目を向ける。
正直、物凄く恐怖を感じるけど。
それでも、私の敵はこの空間に居る全てだから。
残る相手を銃撃して、抱き付いていた相手から身を離した瞬間、顔面に数発。
すぐさま立ちあがり、先程攻撃して倒れ込んでいた者達に対しも、武器をライフルに持ち替えてからそれぞれ頭に一発ずつ。
その後すぐさま物陰に飛び込み、マガジンを替えてから周囲に銃口を向けてみるが……敵の気配、無し。
とはいえ油断せずクリアリングをして、完全に敵が居ない事を確認した後に。
「クリア」
そう声を上げてみると、無線からは溜息の様な、深い息を零す様な音が聞こえて来てから。
『見事だ、シックス。よく制圧出来たな』
4cardの声が聞こえ、本日の訓練は終わりを迎えた。
つ、疲れたぁぁぁ!
◆
「本当に凄いな、シックス。つい最近まで銃の事を全く知らなかった素人とは、とても思えない動きだ」
「あ、ありがとうございます……これも全部、フォーのお陰です」
訓練を終え、ログアウト前の雑談をしている時。
ふと、思い付いた。
「あの、二つ程フォーに聞きたい事がありまして」
「あぁ、どうした? なんでも聞いてくれ。リアルの事でも良いぞ? 困った事があったら、頼ってくれて良い。嫌じゃ無ければ買い物の荷物持ちでも、家具の搬送だって手伝うぞ? 俺はそれくらい、シックスの事が気に入っているからな」
なんだか、物凄くニコニコしている4card。
彼の教えをしっかりとこなせる様になるたびに、この人はどんどん私に対して甘くなっている気がする。
多分、教えた事を吸収してくれるのが嬉しいってタイプの人なんだと思うけど。
ほ、本当に先生みたいだ……もしかして、リアルでも教員とかやってたりするんだろうか?
まぁ、それはひとまず置いておいて。
「本日兄から……あ、えぇと。私の担当サポーターから言われたんですけど、何でか“octopus8”が私に興味を示してくれたみたいで……女の人らしいんですけど、フォーは彼女の事何か知っていますか? どんな人なのかとか、何も知らないで顔を合わせるのは……ちょっと、怖くて」
件の内容を彼に相談してみると、4cardはフムと顎に手を当ててから。
「すまないが……彼女の事は、俺もあまり知らない。それこそ、“表面上”のデータと言うか。皆が知っている様な印象の様なモノしか記憶していないな。当然、直接話した事も無い」
「そ、そうなんですね……ちなみに、他の人でも知っている情報って、どういうものなんですか?」
さらに質問してみると、彼は少々渋い表情を浮かべてから。
怖がらせるつもりはないんだが……なんて前置きをして、語ってくれた。
「以前“silent”と名乗っていた影響もあってか、とにかく彼女は喋らない、しかし声を上げないという訳では無いんだ。“octopus8”と改名した理由は不明だが……普段あの賞金首は、所謂“シスター”の格好をしている」
「シスター、ですか? えぇと、あの、祈りを捧げる?」
ガンサバは、周囲に紛れるゲームなのだ。
だとすればあまり特徴的な見た目をしてしまうのは、かえって不利になる印象しかないのだが。
そんな恰好をしている人、居るんだ……。
でも一般のプレイヤーなら、結構不思議な格好をしている人達も居るし。
そういう意味では、目立たないのかな?
いやでも、私達賞金首だしなぁ……とか何とか、こちらも首を傾げてしまったが。
「そんな彼女が得意とするのは、爆発物だ。しかもきっちりと計算されたかのように、フィールド全体を巻き込むトラッパー。事前準備がモノを言う戦闘スタイルだからこそ、前回のチーム戦ではあまり活躍出来なかった様だが……正直、戦闘映像を見てゾッとしたよ」
「と、言いますと?」
戦闘のプロである4cardに、ここまで言わせるプレイヤーって……いったい何。
私やsevenは、“ゲームならでは”の動きだからこそ興味を示したみたいだし。
そうなって来ると、octopus8も実戦経験がある人物だったりするのだろうか?
なんて、色々な想像をしてしまったが。
「もしも彼女が“テロリスト”だった場合、多分リアルの戦闘部隊は“事前に止める”事が絶対条件になる。普通の人間だったら絶対に覚えきれないであろう量の爆発物を、まるで全部見えているかのように遠隔操作で、しかも絶妙なタイミングで炸裂させるんだ。それだけじゃない……建物の中で8と出会った場合は、絶対にそこで戦うな。例え本人をキル出来たとしても、間違いなく“生き残る”事は出来ない」
「な、なんか……滅茶苦茶怖いんですけど……どうなるんですか?」
「建築物の構造を全て理解しているかのように、綺麗に狙った建物だけを爆弾で解体するんだよ。まるでダイナマイトを使った、建築物解体のプロだな。つまりその場で戦えば、結局最後には倒壊に呑まれる。そんな彼女は、ユーザーからは“爆音のシスター”なんて呼ばれた事もあったらしい」
いや、いやいやいや。
怖いよ、全然素性が見えてこないよ。
元々の名前が“silent”なんて名前なのに、二つ名に爆音着いちゃったよ。
しかも本人は喋らないし、聖職者みたいな格好しているのに皆殺しスタイルですか。
普通に怖いけど!? 本当に何でそんな人から私興味持たれたの!?
もはや想像するだけでも恐ろしく、その場でガタガタと震え始めてしまったけども。
「まぁ、戦闘スタイルは人それぞれ。それこそ、リアルでは建築家という可能性だってあるからな。しかしあの執念というか、ゲーム中の様子は……いや、あまり怖がらせても仕方ないか。相手だって、俺達同様“ただのプレイヤー”なんだ。事前情報だけで怖がってやるのは可哀想だ。話してみれば、意外と気が合うかもしれないぞ?」
とか何とか、ハッハッハと4cardは笑っているけど。
爆弾魔でシスターで、更にはフィールド全体を使ってまとめて相手を撤去する人に呼び出しを貰っている私は、どうすれば良いんですか。
などと、プルプルと身体が震えてしまう思いだったのだが。
「それで、聞きたい事のもう一つは?」
「ふぇ? あ、あぁハイ。そっちはもっと単純で、男の人ってどんな食べ物好きなんだろうなぁって。フォーは好きな食べ物ありますか?」
「角煮、だな。アレは旨い、アレがあったら何杯でもご飯が進む」
「おぉ、角煮」
ムキムキウォーリアーは角煮が好き。
それくらいだったら簡単だから、時間があれば作るけども。
明日はお弁当だし、角煮は合うんだろうか?
まぁ、いいか。
もしも今度また賞金首の顔合わせとかあったら、持っていってみようかな。
などと考えつつも、本日も二人揃ってログアウトするのであった。
コメント
1件
あおいです🌷 今回も本当に惹き込まれました…!シックスの成長が、訓練の一連の動作のひとつひとつに表れていて、読んでいて誇らしくなるような気持ちになりました。「教えを吸収してくれるのが嬉しい」という4cardの甘やかし具合、めちゃくちゃ良いですね。教官と教え子の距離感が、どんどん信頼に変わっていくのが尊いです。 そしてラストの「爆音のシスター」の話、急にホラーっぽくなって笑ったけど怖い(笑)。シックスの震えが目に浮かびました。でも最後の角煮の話題でほっこり。ああいう緩急が好きです。