テラーノベル
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「……確かにレティシア様が仰られていた通りだと思います。あの方には重大なお役目があり、姫様ほどの自由はありません。姫様が皇帝陛下とご懇意にされている事を羨むお気持ちも理解できますし、先日お一人で帝都に来られた事については、抜け駆けととられても仕方ありません」
私は忌憚なく〝事実〟を口にするジョゼの言葉を聞き、改めて彼女への信頼を深めた。
彼女がただ主人を褒めるだけの侍女だったなら、今の私はいなかった。
「レティシア様にはある程度、姫様を非難する理由がございます。……ですが問題はそこではなく……」
そこまで言い、ジョゼは溜め息をつく。
「なに? 気になるから教えてちょうだい。直すべき点が分かるかもしれないし」
蔑ろにされ続けて被害者意識が根付いてしまったけれど、私だけが被害者でない事は理解している。
振る舞いを間違えた時もあっただろうし、嘲られるのを怖れて公の場に立たなくなった事は、王女として責められるべき行為だ。
これ以上失望されないように、ジョゼの忠告はきちんと聞きたい。
そして反省点を見つけ、改善していけたらと思っている。
そう思っていると、彼女は小さく息を吐いてから続きを口にした。
「……問題は、一連の会話をしていた時のレティシア様の態度です。……いつも通り寛容な聖女殿下と言えばそうなのですが、……私にはどうも、それを利用して姫様のお立場を悪くしているように感じられました」
私はドキッとして呼吸を止める。
本当は私もそう感じていたけれど、「被害者意識でレティを悪者にしてはいけない」と思っていたからだ。
でも、もしもレティが意図的に私を貶めていたなら、害意があっての事だ。
(信じたくない。レティは私の半身だもの)
私が俯いて沈黙したからか、ジョゼはハッとして取り繕った。
「申し訳ございません。邪推が過ぎました」
「……ううん、いいの。考えすぎるのはやめましょうか。どんな意図があってああ言ったかは、本人に聞いてみなければ分からないし」
「そうですね。まずは今回の訪問の目的を無事に果たし、陛下との縁談が進められる事を祈りましょう」
「そうね」
問題は沢山あるけれど、まずは魔石の呪いに向き合わなければ。
(一つずつ解決していけば、きっとなんとかなるはず。アルフォンス様は私と結婚したいと言ってくださったし、その言葉を信じなければ)
私は両手でお湯をすくい、パシャッと顔を洗う。
そして鏡に映った自分の顔を見て、一つ頷いた。
**
翌日は宮殿のロングギャラリーに飾ってある絵画が入れ替わったからと、美術品を楽しみつつお喋りをした。
アルフォンス様もレティも忙しい身だけれど、帝都まで来た以上、二、三日の滞在で帰る訳にいかない。
彼としても、誰もが恩恵を授かりたいと思う聖女を独り占めしているのだから、相応のもてなしをしなければ格好がつかない。
皇帝は聖女を呼び出し、賓客として十分に歓迎したあとお願い事をした、と言われるぐらいでなければ、周囲が認めないだろう。
「いつ来ても素敵ですね」
高い天井に精緻な模様が描かれたロングギャラリーには、豪奢なシャンデリアが下がり、アクトゥル大陸のあちこちから集められた美術品が飾られている。
定位置に皇族の肖像画があるのは変わっていないけれど、その他の絵画は入れ替えられている。
後ろから宰相や侍従、貴族たちがしずしずとついて歩くなか、アルフォンス様は絵画を説明しながらゆっくりと歩く。
……のだけれど、レティはぴったりとアルフォンス様の隣を歩き、頬を染めて彼の精悍な顔を見上げている。
(……恋する乙女の眼差しだわ)
二人が並んで歩く姿を見て、後ろから「お似合いだ」と囁き合う声が聞こえる。
私は彼らの間に割って入るなんてできず、数歩離れた所を歩いていた。
(分かっていたけれど、結局こうなるのね)
アルフォンス様との結婚を諦めた訳ではないし、レティが相手でも彼を譲る気はない。
けれどレティの気持ちを知ると、どうしても落ち込んでしまう。
午前中はロングギャラリーで過ごし、昼餐をとったあと午後は広大な庭園を散歩した。
その間、私はずっと顔に笑みを貼りつけていた。
レティと比べられるのはいつもの事なのに、アルフォンス様が側にいるだけで、心理的な負担は一際大きくなったように思えた。
**
さらに翌日の昼間はアルフォンス様に所用があり、私とレティは別行動で過ごす事にした。
私はかねてからカール様のご様子が気になっていて、許可を得てお見舞いに向かう予定を立てた。
レティは聖女の加護を受けたいと望む人に応えるらしい。
私はカール様が好む白百合を基調とした花束と、焼き菓子を手土産にした。
彼は帝位を退いたあと、中央宮殿から馬車で十五分ほどの距離にある離宮で暮らしている。
私は慎ましやかな印象のある、若草色とアイボリーを基調としたデイドレスに身を包み、十時半過ぎに馬車に乗った。
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