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朝日が6人の寝顔を優しく照らしている。
みことはまだすちといるまの間に寄り添ったまま、眠そうに目をこすっていた。
すちは腕をゆっくり動かしてみことを起こさないように体勢を整える。
こさめは寝ぼけ眼で伸びをしながら、「おはよー!」と元気よく声を出す。
ひまなつは「眠い…」と小さく呟いた。
らんはいつも通り、コーヒーを手に取りつつ、家族の様子をそっと見守る。
やがて、みこともゆっくりと目を開ける。
「……おはよう」
か細い声だが、昨日の夜とは違い、少しだけ安心した表情が見える。
すちは微笑みながらみことの手を握る。
「おはよう。朝ごはん食べよう」
いるまも「朝ごはん、用意できてるぞ」と声をかける。
こさめはにまーっと笑い、
「みこちゃん、起きたー! 一緒に食べよ!」
ひまなつも「今日も学校かー」と微笑む。
らんは少し首を傾げながらも、「みんなで食べるのが一番だな」と静かに頷いた。
リビングのテーブルには朝食が並び、6人はぎゅっと集まりながら席につく。
みことはまだ眠そうだが、すちといるまの隣に座り、ほんの少し笑みを見せる。
こさめが「今日も一緒に行こうね!」と手を叩くと、らんもひまなつも自然と笑顔になり、家族の温かい空気に包まれた。
奏家を出発し、6人は歩きながら学校へ向かう。
朝の光に包まれ、街は通学する学生でにぎわっている。
みことは普段通りの無表情だが、学校の門が近づくにつれ、表情がさらに硬くなり、虚ろな目になっていく。
昨日のいじめや教室での出来事がまだ心の奥に残っているのだろう。
「……なんかあったら、俺のとこ来い」
いるまはみことの横に立ち、少し険しい表情で声をかける。
みことは小さく頷く。
「まずは挨拶からだよ!」
こさめが元気よくアドバイスし、にこっと笑う。
みことは無表情のまま、ほんの少しだけ視線を上げて頷いた。
「じゃあ、いるまになんかあった時は俺に頼れよ?」
ひまなつはにやりとしながら言う。
「何もねぇよ……」
いるまは視線を逸らし、照れ隠しのように返す。
「じゃあ、こさはらん兄ちゃんを頼るねー!」
こさめは満面の笑みで言い、らんは微笑みながら 「任せとけ」とこさめの頭を優しく撫でた。
6人はそれぞれが支え合う気持ちを胸に、少しずつ心を落ち着けながら学校へと向かう。
みことはまだ無表情だが、そばにいるすちやいるま、そしてこさめたちの存在に、少しだけ安心感を覚えていた。
学校の門をくぐると、今日もまた新しい一日が始まる。
みんなで歩む日常の中で、少しずつ、みことの心も色づき始める――そんな予感があった。
教室のドアを開け、みことは無表情のまま静かに入る。
昨日のことがまだ心に残っているが、今日はちゃんと教室に入ろうと決めていた。
席に向かう途中、あのカッターで切られた男子の前に立つ。
男子は一瞬たじろぎながらも、口を開いた。
「……何だよ、き、昨日のことは…」
みことはいつもの無表情を崩さず、ほんの小さな声でつぶやくように言った。
「……おはよ」
男子は驚き、目を大きく見開く。
一瞬の静寂の後、少しぎこちなくも、「お、おはよ!」と返した。
そのやり取りを見ていた周囲のクラスメイトたちはざわめきながらも、みことの声の小ささと控えめさに、少しずつ心を惹かれていく。
無表情だけど、確かに言葉を交わした――その事実だけで、みことは少しだけ前に進んだのだと感じられた。
みことはそのまま席に着き、深呼吸を一つする。
まだ心の傷は残っているけれど、今日の「おはよ」は、みことにとって大きな一歩だった。
そのぎこちないやり取りに、周囲の何人かも微笑み、ささやき声で
「奏くん、昨日より変わった?」
「声、聞いたの初めてかも」
と話す。
みことはすちやいるま、こさめの存在を感じると、少しだけ肩の力が抜ける。
昼休みになると、こさめが、にこにこしながら誘いに来る。
「みこちゃん、今日も一緒にお昼食べよ!」
みことは無言のまま小さく頷き、こさめのもとへ向かう。
いるまも少し距離を置きつつ見守りながら、 「困ったことがあったら、俺に言え」
と小声で声をかける。みことは再び小さく頷いた。
こうして、みことは無理に表情を変えることもなく、少しずつクラスでの居場所を作り始める。
声は小さくても、挨拶や頷きといった些細な行動が、少しずつ周囲との心の距離を縮めていった。
少しずつだが、みことの心が学校という場にも開かれていく――そんな一日だった。