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防具屋の次に訪れたのは、先日ルークが訪れた武器屋だった。
ここは普通の武器ではなく、魔法剣に使う剣を売っているらしいんだけど――
……神器作成のヒントが何かあるような気がして、一度来てみたかったんだよね。
「こんにちは」
「いらっしゃい。
おう、この前の兄ちゃんじゃねぇか。今日は彼女連れか?」
「ち、違いますよ。今日は――
……えぇっと、仲間と一緒に来ました」
ルークが一瞬詰まったのは、私を仲間に含めるのか躊躇したんだろう……と、少しおかしくなる。
そんなにはっきりした主従関係じゃないんだから、もっと気楽にしてくれても良いのに。
「そうか、お仲間か。
この前兄ちゃんには説明したんだが、うちは魔法剣が専門だ。
こっちのお嬢ちゃん方は……魔法剣なんて使うのか? まさか、使わないよな?」
「ええ、使いはしないのですが……。
今日は、アイナ様がこちらに伺いたいと仰いまして」
「アイナ様? ……『様』? えーっと、こっちのお嬢ちゃん?」
そっちはエミリアさんです。
そういえば『はったりをかます服』は防具屋で着替えてきたから、今はエミリアさんの方が立派に見えるんだよね。
……くっ、服装って大事!
「私がアイナです、初めまして」
「ああ、こっちのお嬢ちゃんか。
俺はこの店の主、アドルフだ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「それにしても……あんたら、どういう関係? 本当に仲間?」
……まぁ、今の流れだと良く分からないよね。
折角なので、三人それぞれ簡単に自己紹介をする。
「……なるほど。
凄腕の錬金術師に、その家来の騎士。
それと途中参加のプリーストか。なかなか面白い組み合わせじゃないか」
珍しいものを見るかのように、アドルフさんは頷いて言った。
「そんなに珍しいですか?」
思わず聞いてみると――
「……いや、そもそも錬金術師が旅をしてる時点で珍しいだろ?
普通は工房や研究室で、薬なんかを作っているだろうし」
確かに……!
私はどこででも作れるから、全然気にしたことが無かった……。
「それで、その家来になった騎士だろう?
いや、何で錬金術師の家来になってるんだ? ……って感じだな」
笑いながら言うアドルフさんに、ルークは複雑そうな顔をしている。
「そしてそこに、プリーストの登場だ!
……あ? いや? これは別に不思議でも何でも無いか……」
「えぇっ!? わたしも不思議な感じになりたいです!」
何故か文句を言い始めるエミリアさん。
プリーストはパーティに必須だし、どんな組み合わせの中でも不思議は無いのだろう。
「まぁ、仲が良さそうなパーティで何よりだ。
……それで? 話を聞いて、ますます魔法剣が関係ないように思えるんだが」
「あ、それはですね。私が錬金術で作りたいものがあって――
魔法剣が参考になると思ったので、お話を聞きたかったんです」
「ほぉほぉ、なるほど。
するってぇと、アーティファクト系の錬金術をやるんだな」
……アーティファクト系?
良くは分からないけど……アクセサリみたいな感じのやつかな?
今まで作ったのは、薬、爆弾、ダイアモンド原石……くらいなものだけど、そういう分野もあるんだね。
ひとまず、今は話を合わせておくことにしよう。
「はい、そうなんです。
それで、魔力の流れる経路っていうのに興味がありまして」
「なるほどな。どこまで錬金術に応用できるかは分からないが、話くらいはしてやろう」
「わぁ、ありがとうございます!」
……その後、アドルフさんは作成途中の刃を持ってきて、色々と説明をしてくれた。
簡単にまとめると……剣を打つときに、通常の金属の中に特殊な金属を挟んで、それを折り込みながら打っていくらしい。
テレビで見たくらいの知識だけど……日本刀を作る工程に似ているのかな?
日本刀ほどには折り込まないで、数回程度で終わらせるらしいのだけど……。
そしてその折り込ませる特殊な金属というのは、アドルフさんはルーンメタルという鉱石を使っているらしい。
本来であればミスリルが最も適しているらしいのだが、店売りの武器に、そんな高価なものは使えないとのことだ。
「ちなみにアドルフさんは、ミスリルを扱ったことはあるんですか?」
「ああ。貴族筋の依頼で年に5、6回は触っているぞ」
「結構やってるんですね!
……それにしても、依頼主はやっぱり貴族ですか」
「何せ、ミスリルは値段が高いからな。
逆に言えば、職人を選ぶ素材だから……技術料は多く頂戴できるんだ」
「な、なるほど……」
「ただな、さっき言った作り方だと、確かに魔力の伝導は普通よりも高いんだが……それが最高、ってわけでも無いんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。折り返しを入れる分、それだけ金属が薄く薄くなっちまうからな。
やっぱり、ある程度の厚みはあった方が良いのさ」
「とすると、どうすれば?」
「魔力の伝導に関して言えば、細工で通した方が良いな」
「……細工で、通す?」
「簡単に言うと……こう、剣の刃があるだろ?
この真ん中に細い溝を掘って……それで、そこにミスリルの部品をはめ込むんだ。
後はそれをどうにか本体に馴染ませれば、それが一番効率が良くなるんだな」
「なるほど。金属を薄くしないで、棒を通すような感じですね。
それは技術的に難しいんですか?」
「もちろんさ。俺以外でも何人かは出来るっちゃ出来るが、依頼をするなら俺が一番良い。
刀鍛冶は当然ながら得意だが、そういう細工も得意だからさ」
「へぇ……。多才なんですね」
「おう。だから、もしミスリルを手に入れて何かを作りたくなったら、必ずうちまで持って来るんだぞ」
アドルフさんは強い自信と共に言い切った。
……ここまで自信を持って言えるのは、それだけで尊敬できる。
今までの経験と実績に裏打ちされた、後光のようなものを感じてしまう。
「分かりました、心に留めておきます。何かあれば必ず!」
「絶対だぞ!」
「ちなみに、さっきお話した……細工で作ったような剣は、あるんですか?」
「うん? 完成品は無いが、途中のものならあるぞ?」
アドルフさんは奥から作りかけの刃を持ってきて、それを見せてくれた。
「は~、なるほど。こういう感じで作るんですね……」
「ここら辺は、完全に鍛冶屋の領分だからな。
錬金術師がやっても上手くはいかないだろう」
確かに、私も先日試してみたけど……剣なんて、最低限のデザインでしか作れなかったからね。
こういう職人技は完全にお手上げた。
「それにしても、完成品はとても素敵そうですよね。私も1本、欲しいなぁ」
技術の粋を凝らして作られた剣は、美術品にも成り得る。
目の前にあるのは作りかけの刃だけど、それでも言い難い魅力を感じてしまった。
「欲しいなら作ってやるぞ?
今は暇な時期だから、2週間もあれば大丈夫だろう」
「え? ちなみにおいくらで……?」
「デザインを先に決めなきゃいけないが、金貨30枚にはなるかな?」
……金貨30枚か。
ダイアモンド原石を売ったお金があるから、いける……けど……。
うーん。冷静に考えれば、ここは止めておくところなんだけど――
……いや、でもこれ、絶対に買っておかなきゃいけない気がする。
私のスキルのひとつが、ひたすら叫んでいるような気がする。
ちらっとルークとエミリアさんの方を見てみると――
……二人とも、『えっ、買うんですか?』っていう感じの目で私を見ている。
あああ、その気持ちも凄い分かる! でも――!!
「え、えーっと、少し考えてからで良いですか?」
「ああ、安い買い物じゃないからな。
もし作るとしたら、大まかなイメージも持ってきてくれると助かる」
「分かりました!
作るにせよ、作らないにせよ、決めてからまた来ますね」
「はいよ。しっかり相談して決めるんだぞ?」
……その後、私たちはお礼を言って武器屋を後にした。
「あのー、アイナさん? 本当に剣を買うんですか?」
「衝動買いをするには高価なものですし……。
使い道があまりないのなら、見送るべきでは無いでしょうか」
エミリアさんとルークから、買うのを控えるように進言される。
うう、確かにそうなんだけど……。
それは分かるんだけど……。
でも、私の中の『創造才覚<錬金術>』がめちゃくちゃ反応してるんだよー……。
これ、買わなきゃいけない気がするんだよー……。