テラーノベル
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目が覚めたら、知らない部屋にいた。
きょろきょろと周囲を眺める。
「リンネ……目が、覚めたのかい」
シュメリの声が聞こえる。
隣に目を向けたら、シュメリがベッドから起き上がっている所だった。
「良かった」
シュメリが僕を抱きしめた。
心なしか、動きが鈍い。
「シュメリ、ここ、どこ?」
「魔術師団の治療室だよ。僕らは今、入院中だよ」
「入院……?」
そう言われて、少しずつ思い出した。
シュメリの魂の治療をしてから、僕は寝ちゃったんだ。
「シュメリ、怪我は? 背中は、大丈夫なの?」
「私は平気だ。リンネのほうが、むしろ……」
「そうなんだ、良かった」
僕はシュメリを抱き返した。
背中に手を回して、ぎゅっとする。
「いっ……」
シュメリが短い悲鳴を上げた。
背筋を伸ばして痛みに耐えている。
「やっぱり、まだ痛いんだね。ごめん」
出血が止まらないほどの大怪我だった。
背中一面を切り裂かれたような大きな傷だった。
すぐに治るわけがない。
「私より、リンネだ。魔力切れで寝込んでいたんだよ」
「僕、魔力使い切っちゃったんだ」
「あの時、魔花が開かなかったら、どうなっていたか」
シュメリがまた僕を、ぎゅっと抱きしめた。
「魔花、開いたよ」
「開いてくれて、良かった」
「気持ちも、わかったよ」
シュメリが腕の中の僕を見下ろした。
顔が熱くて、シュメリを見られない。
「シュメリの気持ちも、わかったんだ。僕もシュメリを失いたくないって、思ったから」
まだ猫魔の姿だった時、肉球に棘が刺さって怪我をした。
あの時、「失いたくない」と泣いたシュメリの気持ちが、やっとわかった。
「リンネ……」
シュメリが優しく僕を抱く。
嬉しくて恥ずかしくて、心臓がドキドキした。
「ならば余計に、もう無茶はしないと約束してくれ。私の気持ちは、変わっていないよ」
「うん、僕、シュメリも自分も、大切にする」
でも、あの時だけは無茶したかったんだ。
そうでないと、シュメリが死んじゃうと思ったから。
「入るぞ」
ノックもせずにバルトが入ってきた。
「お見舞いにもらった果物持ってきた……リンネ、起きたのか」
起きている僕を見付けて、バルトが目を見開いた。
「うん、今、起きたばっかり」
持っていた果物の籠をベッドの足元に置く。
シュメリから僕を奪って、バルトが抱きしめた。
「無茶しやがって、この馬鹿」
絞り出すような声だ。
胸が苦しくなった。
僕はバルトにしがみ付いた。
「ごめんなさい、バルト」
きっと誰より心配をかけた。
何度謝っても、足りない。
お股ポテト
29
はるにし
72
「生きてたから、許してやる」
バルトの目が潤んでいる。
「あの……僕、そんなに死んじゃいそうだったの?」
あの時は、ただ眠かっただけで、痛くもなんともなかったのに。
「魔力、カラカラだったんだぞ。魔花じゃなかったら、死んでた」
「そうなんだ」
かなり怖い話だ。
「丸一日、昏睡していたし、起きなかったらどうしようかと」
バルトが深く息を吐いた。
その目が、シュメリに向いた。
「シュメリも、離床の許可は出てねぇぞ。ベッドに横になれ」
バルトがシュメリの肩をグイグイと押す。
怪我を気にしてか、押し方が優しい。
「わかったよ。バルトは厳しいんだから」
シュメリが珍しく不貞腐れた言い方をした。
動きがぎこちないから、まだ痛みが強いんだ。
シュメリがゆっくりとベッドに戻った。
「お前だって、リンネがいなかったら死んでいたんだぞ」
「その言葉は、ぞっとしないね」
シュメリが顔色を悪くした。
「それを言うなら、騎士団と魔術師団、全員だ。リンネが森に来て、屍狼の巣を見つけてくれなかったら。親狼を倒してくれなかったら、恐らく全滅していた」
「そんなこと……誰かが見付けて、退治したと思う」
僕は偶然、知っていただけだ。
「親狼が核を三つも持つフェイクを準備していたなんて、思わなかった。親狼の核の位置を右目だと見抜くには、見えていないと難しい」
そういわれると、そうかもしれない。
僕は見えていたから、すぐにわかったけど。
普通は右胸にあるから、見えない人は胸を攻撃する。
「精魂師のリンネだから、倒せた魔獣だな」
バルトまで、シュメリに同意している。
そんな風に褒められると、恥ずかしい。
(だけど、嬉しい。役に立てた)
「騎士団長として、改めて礼を言うよ。ありがとう、リンネ」
シュメリがベッドの上で僕に向かって頭を下げた。
隣でバルトが同じように頭を下げる。
「え、えぇ! やめてよ。僕は、そんなんじゃなくて」
僕は慌てて首を振った。
「ただ、シュメリとバルトに早くお屋敷に帰ってきてほしかっただけなんだ」
危険な目に遭ってほしくなかった。
怪我して欲しくなかった。
また三人で、いつもの生活がしたかった。
それだけなのに。
「本当に、それだけか?」
バルトが頭を上げて、僕を見詰めた。
「あ……えっと。シュメリを、愛しているから。生きていて、欲しかった」
するりと、言葉が零れ落ちた。
途端に恥ずかしくなって、顔が熱くなった。
「……そうか」
バルトが微笑んだ。
その顔が、安心しているように見えた。
「リンネ、それを今、言うのは良くないね」
シュメリが僕に手を伸ばそうとして、悶絶している。
背中が痛かったらしい。
「ごめん。でも、本当だから」
僕も恥ずかしくて、俯いた。
「良かったな、シュメリ」
バルトが軽くシュメリの背中を叩いた。
「いっ!」
シュメリが仰け反って悲鳴を上げた。
「これは嫌味かい? 舅の虐めかい?」
「俺の大事な息子を持ってくんだ。これくらい、許せよ」
バルトが、持ってきた籠を漁った。
「今はイチャつきたくてもイチャつけないだろ。リンゴでも剥いてやるから、大人しく食ってろ」
バルトがリンゴの皮をむき始めた。
「食べる! お腹空いた」
「飯もあとで準備してもらうから、待ってろ」
「はーい」
良いお返事をして、僕はバルトのリンゴをワクワク待った。
「やれやれ、いつもと変わらないね」
困ったようにシュメリが笑う。
その顔はどこか嬉しそうで。
二人を眺めて、僕も嬉しくなった。
コメント
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うわぁああああ第54話読み終わったよ…!!😭💕✨ リンネが目覚めてからの三人のやり取りがもう尊すぎて胸が苦しい…!「失いたくない」って気持ちがやっとわかったリンネの成長と、それを聞いて悶絶するシュメリと、バルトの「大事な息子」発言が全部良すぎるんだが?!バルトがリンゴ剥いてる日常シーンとのギャップに涙出そうになったよ…あなたの書くキャラたちの距離感が本当に好きです、次の話も楽しみにしてますね🌸