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(杏寿郎目線)
昨日は、初めて下弦の討伐任務があった。一昨日の柱合会議に、父上の代役として出席した際、お館様に「自分が柱たり得るというのなら、言葉だけでなく実力で。そしたらおのずと皆認めてくれる。」と、言われたらにはと張り切って任務に挑んだが、まさかあそこまで十二鬼月が強いとは…よもやよもやだ!しかし、甘露寺も自分の呼吸を見つけたと言っていたし、住民も守りきれる範囲は守りきったのでこれはこれで良いだろう!ただ、守りきれる範囲だけではだめだ。全員を守り切れるほど強くならなければ。そんなことを考えながら、早朝、いつもやっているように鍛錬しようと寝床から降りると、
「…ーっ!」
全身の激痛に、思わず声が漏れる。胡蝶から安静にとは言われていたが、ここまで痛いとは…。不甲斐ない…。胡蝶に見つかる前に布団に潜ろうと思ったが何しろ片腕が折れているので力をかけようともかけられない。どうしようかと考えていたところに、丁度薬を持って、きよちゃんが来てくれた。これで胡蝶に怒られなくて済むと思ったのも束の間、床にいる俺を倒れていると勘違いしたのか、
「れれれれ、煉獄さん!だ、大丈夫ですか!?すぐに胡蝶様をお呼びしますね!」
と言って、走っていってしまった。
「よ、よもや…」
その後、倒れていると聞いて急いで来てくれた胡蝶に、「実は…」と床にいる説明をした結果、
「まったく、これだから困るんですよ?言いつけを守らない男どもは。」
と、言いながら拳をで宙を殴る素振りをしている。相当呆れられてしまったようだ。申し訳ないと思ったのは、俺は宇髄ほどではないがガタイはまあまあ良い方だ(と思う)から、女性が簡単には持ち上げられるはずもなく、胡蝶とアオイ、なほ、きよ、すみの5人でも持ち上げられず皆んな頭を抱えていた。任務に出ている胡蝶の継子もいたら持ち上げられたかもしれないと考えたが、どうしようもない。仕方なくアオイがため息をついて
「仕方ないですね、患者様に手伝ってもらうなどあってはならない事ですが、別室で治療中の甘露寺様をお呼びします。」
と言って別室に走って行った。
しばらくして
「師は…煉獄さん!」と、笑顔で松葉杖をつきながら甘露寺がやってきた。怪我をしたとは聞いていたが、杖をつくほどの怪我とは思っていなかったので驚いた。
「甘露寺!そんなに大怪我だったのか!?」
「え!?あ、これは違うの!脚の怪我は、ちょっと犬に噛まれただけですんだの。…えっとその、コレは………」
「先ほど足が痺れてしまって歩けないとの事でしたので、松葉杖をお貸ししたんです。」
赤面して、黙ってしまった甘露寺に変わってアオイが説明してくれた。それを聞いて、俺の隣にいた胡蝶が笑いだし、俺も釣られて笑ってしまう。
「なるほど、そういうことか!甘露寺は、人を笑顔にする天才だな!だが、少し休んだぐらいで足が痺れてしまうとは情けないぞ。休養が明けたら、また強化鍛錬からだ!」
「そうですよ。『休養が明けたら』です。煉獄さんも、怪我なさってるんですから、鍛錬など始めずにしっかり治して下さいね!」
「…むう」
アオイに厳しい口調で言われて項垂れた俺を見て、何がおかしいのかアオイも甘露寺も笑い出した。狭い病室に人が集まるのは、少し息苦しくも感じるが、鬼殺隊の、厳しく辛い日々よりもこんな笑いが続く日が増えたらどんなに幸せだろうかと思った。しかし、なんだか眠く…
「ふふふ、………煉獄さん?どうかしましたか?」
いち早く異変に気づいたのは胡蝶だった。「なんだ?」と言おうとしたのに口が動かず、笑っていたアオイさんも呼吸ができていない俺を見て血相を変えた。
「しのぶ様、これは…」
「アオイ、処置箱と縫合箱を持って来て下さい。なほたちは手ぬぐいを出来るだけ多く持ってきて。早く!!甘露寺さんは病室に戻っていただいてもよろしいですか?」
「でも、師範が…」
胡蝶は心配する甘露寺を落ち着かせ、なんとか部屋に戻した。
そして、意識が朦朧としてきた俺を見て、「煉獄さん、動かないでください。おそらく昨日の任務の際にできた傷…縫合しておいた腹部の傷が開いたようです。衣類にこんなに血が滲んでいたのに気づけなかった私の落ち度です。」と、簡単に状況
を説明すると「失礼しますね」と言い、左袖をめくって何かを注入した。
ここから先は、あまり覚えていない。気がついたときには正午を回っていた。
流石にあそこまで迷惑をかけたので、寝床からは動かないようにしようと思っていたが普段こんなにのんびりと過ごすことがないので何をして暇を潰せばよいかわからなかった。炎の指南書でも持ってきていればと思ったが、要がいないので持ってきてもらう事もできない。
その時、隣の部屋から要の声がした。病室とはいえ、部屋なので多少の声は筒抜けだ。こんなことをして良いのだろうかと思いながらも、興味があったので聞き耳をたてた。
「カアアアアア!千寿朗から蜜璃に伝言!伝言!」
「あら?師範じゃなくて私でいいの?」
「…蜜理に伝言!『蜜璃様こんにちは、任務お疲れ様です。本当は兄上に伝言をと思っていたのですが、兄は昏睡状態とのことでしたので蜜璃様に兄への伝言を頼んでもよろしいでしょうか。兄は、鬼殺隊になられてからというもの、任務の忙しさに追われ、あまり家に立ち寄ってくださることがなくなりました。隊士でもない私がこんなことを言うのは如何わしいかと思われますが、兄の容態が落ち着きましたら次の任務に行く前に一度家に顔を見せていただきたい、と。蜜璃様、よろしくお願いいたします。』との事!」
千寿郎…。千寿朗はまだ子供だ、普通の家なら勉学に励みながらも母父に愛され、守られるべき歳だ。父上は未だ立ち直れず、俺は任務の連日。柱に昇格したからには、より一層家に帰れることは減ってしまう…。
「…分かったわ、煉獄さんの容態が落ち着いたら伝えるわね」
蜜璃のつぶやくような返事は、すでに容態が落ち着き次第次の任務に行けという指令が俺に来ていることをわかった上での返事だった。
俺は、深呼吸すると自分の傷を覗いた。糸が取れないよう、二重に縫合されている跡は痛々しいものの、すでに瘡蓋状になっており簡単に出血はしなそうだ。
胡蝶の鴉が庭の木に止まっていると言うことは、胡蝶本人が薬を買いに出かけているのだろう。
「スウーッッ!」
少々傷が痛むが、呼吸を使えば気が紛れる上に早く戻って来られる。約束を破るようなことを柱になるような人がしてしまうとは不甲斐ない、
「胡蝶、すまない。」
俺は、病室の窓から抜け出した。思っていた以上に窓の外の警備は緩く、そのまま道端に出ることができた。しかし抜け出して一つ後悔した。
「よもや…道がわからない」
いつも任務の時は要が案内してくれたり、鬼の気配や殺気で場所を特定できたが、今回ばかりは自分の勘で動くほかない。蝶屋敷に来るまでの間は意識がなかったからか、道が一切分からなかった。しかし、蝶屋敷は前回の怪我の時、鬼殺隊の本部からあまり遠くなかった覚えがある。本部まで行ければ場所がわかるのだが…としばらくは考えていたが、逃げている身でいつまでも止まっているわけにもいかないので歩き出す事にした。
「スウウウー…ゲホッガハッ!」
やはり、弱った体に呼吸はこたえるようだった。しばらく歩くと、前に世話になった藤の家紋の家があった。ここまでくれば道はわかる。俺は全集中の呼吸をやめ、炎の呼吸にする事にした。全集中の呼吸の倍以上の加速ができる。
「ゴオッー…!」
普段より弱いものの、少しずつ速度が上がる。その呼吸が炎をかたどった瞬間、鬼よりも早い速度が出る。
…が、すぐに止まれないのと景色が見にくいのが難点だ!気づくと屋敷を通り過ぎていた。
「よもやっ!」
急いで屋敷の前まで戻る。しかし、このような怪我をした様を父上にお見せするわけにもいかない。しばらく考えた末、俺は裏戸から入る事にした。裏戸は普段千寿郎が買い出しの際しか使用しない小さい扉だ。元々は牛乳配達の方の出入り口だったが、母上が亡くなられてから配達を断ったっこともあり、今は知る人もほとんどいないだろう。
裏口に周り、そっと戸に触れると、戸はギイと小さくうなって開いた。夜以外は鍵を閉めないというしっかりした性格なのにここだけは不用心だった母と同じ性格の千寿郎を見ると、なんだか懐かしくも寂しくも感じた。
「千寿郎?」
食卓に千寿郎の姿は見えなかった。洗濯をしているのだろうか
「千寿郎…?」
しかし、千寿郎の姿はどこにも見えなかった。もしかしたら買い出しに出ているのかも知れないと思った俺は、千寿郎が帰ってくるのを台所で待つ事にした。=
台所には、新しいさつま芋が準備されており、母が作っていた糠漬けも同じ手法で千寿郎が受け継いでいるようだった。釜戸には真新しい木炭が置いてあり、父上の飲まれた酒の瓶も中を洗って乾かしてある。ここで見る、全てのものに今更発見があるなんて、俺は今までどれだけ千寿郎に全てを任せっぱなしだったのだろう。まだ子供である千寿郎が文句も言わず家事を一通りやり通すことができるのは、俺がいない時、家の主人をしてくれているからだろうか…いや、文句を言わなかったのではないな「言えなかったんだ」…。
しかし、いつまで待っても千寿郎が帰ってくることはなかった。外は通り雨が降っており、干してある洗濯物が雨に打たれていた。俺は、庭に出たら父上に見つかってしまうのではなどと思いながら、急いで庭に出た。その時ー
「…千寿郎?千寿郎!!」
井戸のよこに千寿郎が倒れているのを見つけた。真っ青な顔で硬く瞼を閉じて倒れている千寿郎を見て、全身が震え上がった。倒れている千寿郎が、亡くなった母上=の姿と重なって見えたのだ。
「千寿郎!しっかりしろ、千寿郎!」
気づけば俺は、父上に見つかるなんてことは頭から飛んでいっており、ひたすら千寿郎の肩を揺すりながら叫んだ。あまりの恐怖に足がすくんで、まともに立っていられないほどだった。俺がいない間に何があったのだろうか?もしかしたら、このまま死んでしまうのではないだろうか?
「…っ!千寿郎…!起きてくれっ!」
「…う……」
千寿郎が小さくうめき声をあげて、うっすらと瞼を上げた。
「…!、分かるか?千寿郎。千寿郎?大丈夫か?千寿郎!!」
「あ、兄上…!?」
千寿郎から、返事が返ってきたことでやっと俺の焦りはおさまった。毎日、鬼を滅しているにも関わらず、いざ家族となったらこんなに焦ってしまうものなのか…不甲斐ない。
千寿郎は、井戸に手を掛けて起きあがろうと上体を起こした。よかった、動けるのか。と、胸を撫で下ろしたのも束の間、
ズルッ
洋服の擦れる音とともに、千寿郎の体が大きく井戸に向かって傾いた。
「…え?」
千寿郎が状況を理解する前に、体が井戸に吸い込まれていった。
「ー千っ!!!」
慌てて手を差し伸べたが、千寿郎はそれを掴むことができないままくらい井戸の中に落ちていく。俺は、無我夢中で井戸の中に飛び込んだ。千寿郎より重い俺は、先に落ちた千寿郎に追いつくことができ、その体を抱きしめた。
バシャ…ドッ!
「ぐっ…!!」
底に叩きつけられた衝撃で、傷口が開いてしまったようだ。耐え難い痛みが全身を走り、水中で呼吸の止血ができない俺の傷からは生暖かい血が溢れ出ているようだった。
「せ…千、寿郎…」
落下の恐怖から、ずっと目をつぶったままだった千寿郎がかすかに目を開けたのがわかった。どうやら意識はしっかりしているようだ。
俺は、千寿郎を抱えて水面に向かって泳いだ。しかし、水から出ても井戸の口までは細い石垣状の空間になっている。
片手で千寿郎を抱えた状態で、この石垣を登ることはほぼ不可能と思えた。しかし、考えている暇などなかった。俺の腹からはひどく血が流れている。あまり腹に力を込めると、出血がひどくなることは一目瞭然だった。
『やむを得ない。呼吸を…』
「音の呼吸、壱の型…轟‼︎」
ドゴオオオ!という物凄い爆音とともに、誰かが俺を掴んで井戸から引きずりあげてくれた。
乱暴にも、引きずり出されて直ぐに地面に叩き付けるように落とされたが、腕の中にいる千寿郎には傷ひとつ付かなかったようだ。
………だが俺は…
「ん?お前、この前柱合会議に居た、ド派手なやつじゃねえか!」
ふらつきながら声のした方を見ると、屋敷の屋根の上に音柱が座ってこっちを見ていた。
「あ…… 宇随殿…。」
俺が答えると、あちらはつまらなそうな顔をして降りてきた。
「なんだよ、この前会議で見かけた時は派手なデカい声してたじゃねえか。…ん?なんだお前、血がー」
「すまない、げんか…い……だ。」
俺の意識はそこで途切れた。倒れた俺の体を、間一髪で支えてくれた気がしたが、もうそこから先は…覚えていなかった。
「おい、起きろ。」
はっと我に返って、起き上がると宇髄殿が目の前にいた。何かを俺の口元に当てている。
「おい、口開けろ。」
それは口を少しでも開ければ、口に入れられてしまいそうな距離で、それが何かわからない俺は首を横に振った。
それを見てため息をついた宇髄殿は、俺の頬を力強く押さえると無理やり口を開け、口の中に何かを入れると直ぐに水で流し込んだ。
「ゲホッ、ガハッ…!何をするんだ!」
そう言って立ち上がると…体から痛みがなくなっていた。
どういうことか訳もわからず、もたついている俺を見て宇髄殿は大笑いして言った。
「だろ?なんてったって、神である俺様直々調合した痛み止めだからな!なのに、お前寝てても口開けないしどうしようかと思ったわ。どんだけ意志かてえんだよ!あーおもしれー!」
「す、すまない。宇髄殿のおかげで助かった。」
「あー、その呼び方止めてくんね?お前も柱になった訳だし、立場も一緒なわけだ。もっと気軽に呼んでもらっていいから」
「すまない…では音柱でどうだろうか!」
俺は思い切って敬語をやめてみたが、あまり気に食わないような顔をしているから、怒られる覚悟をして
「宇髄!これからは君をそう呼ばせてもらおう!」
と言うと、宇髄はニッと笑い
「ド派手な呼び方と声だな!じゃあ、改めてこれからよろしくな。煉獄!」
名前を親方様や父上以外の人から呼び捨てにされたのは、初めてでなんだか気恥ずかしかったが、自分の価値を認められたような気がして嬉しかった。
しかし、ふと千寿郎のことが気になった。
「宇髄、そういえばさっき井戸から出してくれた俺の弟はどこにいるか分かるか?」
宇髄は一瞬、本当に一瞬だけ固まった後、笑って
「…弟。ああ、すまん。大した怪我もないみたいだったしそのまま置いてきた」
と言った。
「そうか、怪我はしてなかったか…。なら良かった。ところで…」
「ん?」
「ここはどこだろうか!?」
思い切って、さっきから気になっていたことを聞いてみた。目が覚めた時に、一番不審に思ったのはここが蝶屋敷でないことだ。あたりは木と草ばかりで、治療するためにわざわざこんなところに普通、運ぶものだろうか?
「あー…、森。」
「森ってことはわかるが、なぜこんなところに…」
そう言いかけた時、鳩尾に鋭い痛みが走った。思わず顔を顰め、目線を下ろすと腹からはまだ出血が続いていた。
「煉獄、そんな酷いなら俺様が縫合してやろうか?」
「え゛…」
予想の斜め上を行く返事に、思わず声が漏れる。柱は、そんな医療行為を難なくこなせるのが普通なのだろうか。と、宇髄の目を凝視していると
「俺は、元忍の宇髄天元様だ。自分の傷とか兄弟の傷を縫うなんて朝飯前のことだからな。でも煉獄、お前なら呼吸で止血できそうなものだけどなぁ〜」
そうか、呼吸を使えば良いんだと気付かされた。
「宇髄、呼吸をつかったら俺はそのまま蝶屋敷に戻ろうと思う。痛み止め、感謝する。」
俺がそう言って、頭を下げると宇髄は笑いながら
「ああ。気いつけろよ!」
と言って一瞬でどこかに消えてしまった。元忍と言っていたが、もしかしたら何かの本で呼んだような忍法などが使える人なのだろうか…。
「…よし、行くか!」
そういうと、俺は体の重心が丹田に集まるように構え、大きく息を吸った。
「ごおおぉぉぉー…」
さっき呼吸を使った時よりも、何倍も体が動かしやすかった。
『もっと集中しろ、呼吸を燃やせ、燃えたぎる精神を全て足に集中させろ、燃やせ、燃やせ、…心を燃やせ!!』
「もしもーし?絶対安静と言いましたよね?どこに行っていらしたんですか?💢」
目の前に胡蝶が顔を近づけて問う。思わず、顔をそらしたくなるほどの怒りが、その目からは感じとれた。
「すまない!つい…」
「つい、なんですか?」
「むう……。」
気迫に押され、何も言い返せなくなった俺をみて胡蝶は大きくため息をつくと
「先ほど、お父上が血相を変えてこちらに来ましたよ」
と教えてくれた。
「父上が…?」
思わず聞き返してしまった俺の前に座ると、胡蝶は俺のベットの足元に腰かけ、羽織から一枚の紙を取り出して俺に差し出した。………
「これは………」
「千手郎君が甘露寺さんに送った手紙です。読まれますか?」
おそらく、この手紙というのは「兄に早く帰ってきてほしい」という内容のあの手紙で間違いないだろう。そのために、俺は家に帰ったのだが…結局千寿朗を助けただけで挨拶すら交わすことはできなかった。
俺が俯いていると、胡蝶が羽織からもう一枚の紙を取り出した。
「煉獄さん、こちらに見覚えは?」
お世辞にも丁寧に畳まれているとは言えない和紙だった。
「いや、その文は見たことがないが…」
「その文『は』、ですか。」
胡蝶が俺に問い返してきたのを見て、俺は胡蝶に気づかれたと思った。そして、どうやらその感は的中のようだった。
「すまない、実はー…」
と、言い始めた俺は、突然耐え難い眩暈に襲われ…
「…煉獄さん!?」
そのまま眠りについてしまった。
次に目が覚めたのは、個室ではなく大部屋だった。俺が厠に行こうと起き上がると、隣のベッドから歓声が上がった。
「師範!よよよよかったです!」
「甘露寺!?まだ治ってないのか?」
思わず問い返した俺に、甘露寺は話し始めた。
その後は何事もなく退院までは、宇髄殿やその奥方、胡蝶の継子が様子を見に来てくれた。(逃げないように)千寿朗には心配をかけたことや事の経緯を説明した手紙をカラスを通じて送ってもらった。先日倒れていたのは、日射病だったらしいのでそれにも気をつけるようにと書き足して。父上にも俺の身勝手な行動で、鬼殺隊全体に迷惑をかけたことのより煉獄家の名を濁したことを謝り、千寿朗の体調にも気遣ってやってほしいと送った。
要が手紙を届けて帰って来る。
爽やかな春の風に乗って、桜の花びらが病室に入ってくる。
胡蝶の調合してる薬の香りと、庭で家事を手伝いながら楽しそうに笑う菜穂、きよ、すみ。
そして、眩しい日の光。
この世の中は、鬼が住むには綺麗すぎる。なのに、
ー…ああ、今日も夜が来る。
[これは、煉獄杏寿郎が最後に蝶屋敷で治療を受けた一週間の物語。]
end