数日ぶりにヴェリアに戻ってきた。
パーカーさんとヴェリアに行った日から1週間も経っていないのに、なんだか久しぶりに戻ってきたような気がした。
重い足で前に進む。相変わらず死体には血吸蝶が群がっており、腐敗臭が町中に広がっていた。
こんな所にアルゴちゃんがいるなんて想像できない。想像したくない。
死体を避けながらアルゴちゃんが住んでいた家へ向かう。彼女が家にいて欲しい気持ちと、ヴェリアの方にいて欲しい気持ちが混ざり合う。
考え事をしながら歩いていると、あっという間に彼女の家に到着した。
数回ノックをし、扉を引く。
玄関からは彼女の姿は見当たらない。恐る恐る中へ入る。彼女の家に来るのはこれで6回目くらいだろうか。不安を紛らわそうと無駄な思考をする。
「アルゴちゃーん、いるー?」
一階を見て回ったが、アルゴちゃんは見つからなかった。2階を探そうと階段の方へ向かった時、一匹の血吸蝶が2階へ羽ばたいて行くのが見えた。おそらく開けっぱなしになっていた窓から入ったのだろう。蝶のいる二階には行きたくなかったが、アルゴちゃんを見つけるために、私は階段を登った。
「アルゴちゃーん」
返事は返ってこない。二階は部屋数が少なく、一階よりも探しやすかった。手前の部屋から一つ一つ見て回る。最後に彼女の部屋が残った。少し緊張しながら、彼女の部屋の扉を開けた。
「アルゴちゃん?」
初めて彼女の部屋に入った時、私は”青い”と思った。なぜなら彼女の部屋は、青いものが部屋中に飾られていたのだ。
青い海の写真、青い花の写真、青い瓶、青い絵。彼女は本当に青が好きなのだと思った。
だが今は赤い。 血吸蝶が本棚の下に群がっていた。
外で死体に群がっている蝶の数に比べたら数が少ないが、それでも数十匹はいるはずだ。
蝶を追い払うために大きい音を立てる。蝶は音に驚き開いていた窓から出て行った。
私は蝶が出て行ったのを確認し窓を閉めた。先程まで蝶が集まっていた場所に視線を移す。
少し汚れたブランケットが、何かに被せてあった。中が気になりブランケットを退ける。
そこには アルゴちゃん がいた。
「……アルゴちゃん?」
彼女に駆け寄る。声をかけても反応しない、寝ているかと思って体を揺らしてみたが目を覚さない。
「アルゴちゃんっ!」
息をしていなかった。
蝶にさされてしまったのだろうか?でも、彼女はいつも少し大きめのコートを着ていて肌の露出が少ないので、さされる箇所が限られている。私は蝶にさされた跡がないか確認する。すると、彼女が足から出血している事に気づいた。傷はそこまで大きくないのに止血できていないのは、おそらく血吸蝶の毒のせいだろう。
慌てて彼女の足の止血を試みる。止血の仕方なんて知らないが、とにかく必死に傷口を抑えた。血が止まったところでアルゴちゃんが生き返るわけではない。ただ、彼女の死を受け入れられず現実逃避したいがために必死になっているだけなのだ。
「なんでまだ止まらないの……?止まって、止まってよ…お願い」
しばらく傷口を抑えたが、血が止まる様子はなかった。
アルゴちゃんから手を離し、手のひらを見る。鮮やかな赤が、指先までべっとりと付いていた。
改めて実感する。アルゴ・クラストは死んだのだと。
不安などで強張っていた体から力が抜ける。青く可愛らしかった彼女の部屋には、いつのまにか血の匂いが広がっていた。
コメント
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アルゴちゃぁぁぁぁんんんん!!!!