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放課後の教室は、音がやけに響く。椅子を引く音、ドアが閉まる音、誰かの咳払い――全部、遠くのものみたいだった。
いつもより少し遅く帰るふりをして、俺は席を立たない。誰にも気づかれないように、そうしている。
今日もまた、日下部が机の落書きを見て笑っていた。
笑ったふりかもしれない。あいつは、よくそうやって、”笑う”ことでやり過ごす。
俺は、それを見て、また黙った。
窓の外には、夕陽が沈みかけてる。
きれいだった。だから、ふと思った。
この教室の中で、何人が本当に生きてるのかな、って。
死んでるみたいに笑ってるやつ。
黙って従ってるやつ。
何も見なかったふりをするやつ。
そして、命令して、笑って、支配して、踏みつけて、平然としてるやつ。
俺も、そのどれかだろうか。
わかんねえ。
でも、あのとき、蓮司が俺を見た。まっすぐに。
あの目は、知ってるやつの目だった。
全部知ってるくせに、知らないふりをしてる目。
だから、たぶん俺も、どこかで壊れてる。
椅子に座ったまま、俺は机の下で爪を立てる。
自分の太ももに、ゆっくり、傷をつけるみたいに。
誰にも見えない場所で、音もなく、バレないように。
そうすると少しだけ、まっすぐになれる気がするんだ。
明日も、また笑うふりをして、あいつらの中に紛れる。
その方が、楽だから。
でも今日だけは、こうして、俺だけの世界で眠っていたい。
誰にも触れられず、誰にも見つからず、
本当の俺のままで。