テラーノベル
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放課後の教室には、もう誰もいなかった。カーテンが開け放たれた窓から、茜色の陽が長く差し込んで、床に歪な格子模様を落としていた。
遥は机に突っ伏していた。
まるで、そこに沈められたように、動かない。
外からは、運動部の掛け声や笛の音がかすかに聞こえてくる。それすらも、耳の奥で濁っている。
さっきまで教室にいた誰かが、椅子を蹴った音も、嘲るような笑いも──全部、遥の身体の中に沈んでいった。
鉛のような感覚だった。
皮膚の表面に、体温のない視線が刺さり続ける。
机の中に押し込まれたメモ紙。床にばらまかれたノート。誰かの靴跡がついたシャツ。
「……俺が、悪いから、か」
ふと漏れた声は、自分のものだと気づけないほど乾いていた。
それでも、遥は誰の名前も呼ばない。
叫ばない。殴らない。泣かない。
ただ、黙って「この場所にいる」ことを選んでいた。
自分がどんな風に見られているのか、知っている。
惨めに、滑稽に、薄汚く、役割だけをなぞるピエロのように。
だけど、立ち上がらなかった。
立ち上がるには、理由が足りなかった。
ほんの少し、机の角に額を押しつけて、遥は目を閉じた。
息を殺すでもなく、祈るでもなく。
ただ、そうしていないと、自分がどこまで壊れているのか分からなくなりそうだった。
外はまだ、夕方だというのに明るすぎた。
遥の中に降っていたのは、鉛色の雨だった。
静かに、重く、永遠のように──音もなく降り続けていた。
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