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「あっ!?」
そこには――マナと飯塚がいた。
「圭太、どうしたの? マナはいた?」
「あぁ――」
俺の後を追って来たゆずきが背後から小声で話しかけてきた。
「えっ!?」
ゆずきは驚き、声が漏れないように慌てて口を手で押さえた。
「行こう」
俺はゆずきの腕を掴むと後ずさりをしながら教室からゆっくり離れた。それにしても何だこの気持ち――。胸の辺りがギュッと締めつけられるようだった。
「圭太、いいの?」
「何が?」
「あんなことさせといて――」
「俺はマナが誰と何をしようが関係ないし、どうでもいい」
「何言ってんの! マナは飯塚先輩とキスしてたんだよ。どうでもいいってことはないでしょ!」
階段を先に下りていたゆずきは突然立ち止まると、俺をひと睨みしてそう言った。静まり返った廊下に、張り上げたゆずきの声が響き渡った。
「声がでけえよ。アイツらに聞こえるだろ」
「聞こえるなら聞こえちゃえばいいじゃない! 私は今直ぐにでも邪魔してやりたいよ!」
「熱くなるなって! お前らしくない」
「圭太がならないから、私がなってるんでしょ!」
「仕方ないだろ。マナが好きでやってるんだから――」
「それじゃあ、これからもマナが飯塚先輩に騙され続けてもいいっていうの?」
「そんなこと言ってない。少しは落ち着けよ。俺が今日の放課後、マナと会って飯塚のことを話そうとしてたのは知ってるだろ?」
「知ってるよ。私は圭太が――」
「俺が何だよ?」
「何でもない」
「いいから俺に任せとけって」
「任せるよ。任せるけど、圭太の優しさが逆に仇になることだってあるんだから――」
「わかってる」
それから俺は、自分の教室に戻ってマナに《教室で待ってる》とメールを送った。マナがやって来たのは、それから15分後だった。
「圭ちゃんゴメン! 先生に職員室に呼ばれちゃって」
「そうか――大丈夫だったのか?」
前からよく嘘はついていたが、飯塚と付き合うようになってからは一段と増えていた。
「うん、ちょっと怒られちゃったけど全然平気だよ」
「そっか――」
飯塚のことで嘘をつかれると、やるせない気持ちになる。
「スタバのコーヒーおごってくれるんでしょ?」
「憶えてたのか?」
「当たり前じゃん。私を誰だと思ってるの?」
「食い物と金に汚い五十嵐マナだろ」
「何それ、ひどいよ!」
「違うのか?」
「まっ、まぁ――食べるのは好きだし、何か買ってもらったり、おごってもらうのは大好きだけど――」
いつものマナだった。でも、どこか違うようにも見えてしまう。