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「何、泣いてんの?」
そしてそんな透子に声をかける。
「樹・・・!?」
その声でようやく顔を上げて、オレの存在に気付く透子。
「なん、で・・・今スピーチ・・・」
「うん。そのスピーチが終わったからここにいる」
「なんで・・・ダメだよ・・・戻りなよ」
「別にもういいよ。もう挨拶終わったから」
「いや、そういう問題じゃないでしょ。なんでここにいんの・・・。ちゃんとまだ向こうにいなきゃダメだよ」
「だってオレは透子のが大事だし」
「何それ・・・もういいよ、そういうの。とにかく私は大丈夫だから」
「だって透子泣いてんじゃん」
そんなに泣いてるくせに。
こんな時に泣くってオレのことでしかないでしょ。
「えっ、何が? ほら泣いてなんかないし。全然大丈夫だよ!」
なのに、なんでこんな時もそんな強がるかな。
もう透子のそんな無理な強がりとかバレバレなんですけど。
「どこが。そんなんで誤魔化せてないから」
それでちゃんと笑えてるつもり?
今にも涙零れ落ちそうになってるのに。
「あっ、新ブランド社長就任おめでとう! もうビックリしたよ」
だけど透子は急に話を切り替えて明るく振る舞う。
「聞いてた? スピーチ」
「聞いてたよ。すごいな~って感心してた」
だけど、透子からようやく出た言葉はそんな他人行儀な言葉で。
久々に会えて、オレのあの想いを聞いた感想がそれ?
「それだけ・・・?」
「え? それだけって・・・」
「聞いてたんでしょ?スピーチ」
「聞いてたよ?」
「オレがこのブランド立ち上げるきっかけになった大切な存在って、透子だよ? わかってる?」
あのスピーチにオレの今までの想いが全部込められてたのに。
それ聞けば透子だってオレの気持ちわかってくれるとばかり・・。
「いや・・・なんかもう頭いっぱいで」
なのに、なんなの、その反応。
「は? オレあれ透子に向けてのメッセージだったんだけど」
「え?そうなの?そんなのわかんないよ・・」
「いや、あそこまで言えば透子しかいないんだからわかるでしょ」
「わかんないよ・・。樹はいつも大事なこと、ちゃんと言ってくれないんだもん・・・。もう別れて随分経つし、樹の大切な人だって、もう他にいるのかもしれないし・・・」
だけど、透子は今更またそんなことを言い出して。
この離れてる間に、オレの気持ちが透子にとってはそんな簡単に思われてたことが悲しくて。
「え・・・マジで言ってる? そんな簡単に気持ちなんて変わるはずないでしょ」
「樹・・・怒ってる・・・」
「いや、怒ってはないけど・・・。相変わらずオレの気持ち、透子に全然伝わってないんだなって思って」
「だって別れてから一度も連絡ないのに、そんなのわかんないよ」
「それは・・・」
そう言われて、ようやく気付く。
透子がそんな言葉を言ったことで、ついムキになって言い返してしまったけど。
確かに勝手なのはオレの方か・・・。
あの日から、透子とはまったく会わずに連絡もせずに、避けるように今まで過ごすような形になっていたことには変わりない。
透子は透子なりにきっと不安だったよな・・・。
「そっちはどうなの・・・?」
「どうって・・・?」
「気持ち・・・変わったワケ・・・?」
だけど、オレだって同じように不安だった。
オレだけがずっと好きで、その気持ちがあるからこそ今のオレがいて、ここまで頑張れたけど。
透子にとっては、オレはいきなり現れて、いつの間にか離れてしまった過去の男くらいの存在になっていても仕方なくて。
だから今はまずその気持ちを確かめたい。
変わらず透子もオレを好きでいてくれているのか。
「って・・・泣いてるってことはそう思っていいってこと?」
だけど、オレがそう言葉をかけた瞬間、透子の目から止めていた涙が零れ落ちて。
その涙と、透子の表情で、透子も変わっていないんだとわかった。
「知らないよ、もう・・・」
だけど、透子はどこまでオレが言っても今の気持ちを認めようとはしてくれなくて。
「ごめん。私帰るから、もう戻って」
それどころか、オレを冷たく突き放してくる。
そしてそのまま立ち上がりオレに背を向けて、その場を立ち去ろうとまでする。
「帰らせない」
だけど、当然そんなこと受け入れるはずもなく、オレはすぐに透子の手を掴んで引き止める。
「放して」
「放さない」
なのに、それでも変わらず拒否し続ける透子に、オレもどんどん穏やかでいられなくなって、透子を見つめる眼差しも、掴んでいる手の力ももっと強くなる。
「この手放したら、透子もう捕まえられなくなる」
こんなんで終わるなんて絶対嫌だから。
もう二度とこの手を放さないって決めたから。