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「いいから、こっち一緒に来て」
「えっ! 何? 樹ちょっと待って」
そしてオレは無理やり透子の手をそのまま引っ張りながら、ロビーを一緒に歩き始める。
「樹・・・どこ行くの!?」
当然透子は戸惑いながら声をかけてくる。
「神崎さん」
そして控室前に待機していた神崎さんに声をかける。
「あっ、ちゃんと望月さんに会えたんですね」
神崎さんがそう言いながら笑顔を返してくれる。
「この後もうオレ大丈夫だよね?」
「大丈夫ですよ。REIKA社長にもちゃんと話してありますし、この後はもう樹が出るところはないようにしてあります」
「サンキュー。じゃあ、あとはよろしく」
「承知いたしました。ごゆっくり」
「えっ!? どういうこと!?」
これもすべて計画通り。
今日のオレの役目はここまでだと、最初から約束していたこと。
透子をこの会場で見つけたら、オレは必ず透子に会いに行くからと、神崎さんにそのあとのこともお願いをしていた。
「樹・・・大丈夫なの!?」
「大丈夫だって言ってたでしょ。ちゃんとこれは予定通りだから問題ない」
「えっ、予定通りって・・・意味わかんない」
「わかんなくていいの。ちゃんと説明するから」
「ねぇ・・・どこ行くの?」
「いいから。ついてきたらわかるよ」
だけど透子は状況が飲み込めずに、ずっと不安そうにオレに尋ねて来る。
透子はもう黙ってオレについてきてくれればいい。
あの時も、今も、オレはいつだって透子を不安にさせてしまっていて。
また同じことを繰り返している自分が情けない。
全部透子に伝えられていれば、あの時も今も、こんなすれ違うようなことになっていないはず。
だけど、オレにとっては、これからの為に、あの時の時間も、今の時間もあって。
オレの勝手な都合で何度も透子を振り回していることはわかっているけど。
でも、やっぱりあの時も、今も、オレの気持ちは何一つ変わっていなくて。
ずっとこの手を繋いでおきたかった。
ずっとこの手を繋いでいたいのは、透子だけだった。
だからオレはきっと、何度透子と離れてしまったとしても、またこうやって透子を捕まえにいく。
この手が離れたら、何度でもその手を繋ぎにいく。
どこまででもオレは透子を連れて行く。
「ここ・・・」
「そっ。覚えてる?」
「もちろん」
「まだ覚えてくれててよかった。じゃあ入って」
「うん・・・」
そして透子を引っ張って連れて来たのは、前に一緒に来たホテルの最上階のあの部屋。
オレがちゃんと透子に気持ちを伝えたあの日と同じ部屋。
今日の会場も、あえてこのホテルの前と同じ会場を選んだ。
そして、また今日もここに透子を連れて来たかった。
「そこ。座って」
そしてリビングのソファーに透子に座るよう促して、オレもその隣に腰を下ろす。
「透子・・・」
「何・・・」
こんなに近くに透子を感じられて、相変わらずオレの胸はそれだけでこんなにも満たされて。
だけど、すぐ隣で透子の顔を見つめているのに、透子は全然オレの方を見ようともせず真っ直ぐ前を見たままで。
返事はするものの、こっちを見る気配もない。
その凛とした横顔も綺麗で好きだけど。
でも今はオレを見てほしい。
オレはここにいる。
すぐそばにいるのに、なんで目も合わせてくれないの・・?
「こっち向いて」
もう今はすぐ近くにいるのに、まだ透子の気持ちが全部オレに向いていない気がして、切なくなる。
もうオレのこの言葉も、視線も、気持ちも、全部わかってくれてるんでしょ?
オレの全部、透子は感じてくれてるんでしょ?
するとようやくゆっくりこっちに振り向いてオレの方を見る透子。
なのに、なぜか一瞬で目を逸らされる。
「なんで目逸らすの?」
「いや~なんでかな~ハハ」
オレは真剣なのに、透子はそんな風になぜか笑って誤魔化す。
「透子。ちゃんとオレの方見て」
まだオレと透子の気持ちに温度差があるように思えて悔しくて、オレは透子の身体をこっちに向けて視線も身体も逃げられないようにする。
「透子。会いたかった」
ホントはずっとずっと会いたかった。
この一年、透子を忘れた時なんてなかった。
会えなくても、離れていても、オレの気持ちはただ透子だけだった。
すると、そのオレの言葉を聞いて、オレを見つめながらまた涙を静かに流す透子。
「なんで泣くの・・」
そして流れ落ちるその涙を拭いながら優しく声をかける。
だけどその透子の姿が、何よりもオレへの気持ちを表していて。
愛しそうに見つめてくれる透子が嬉しくて、笑顔になる。
「ずるいよ・・・」
「何が?」
そんな言い方も可愛くて。
「私だって・・・ずっと会いたかった」
そして素直にようやく伝えてくれる透子が可愛すぎて、愛しすぎて。
「ごめんな・・・透子。今まで待たせて」
涙腺が崩壊して、さっき以上に泣き続ける透子を抱き寄せて、オレの肩にうずまる透子の頭を優しく撫でる。
こんなにオレの為に泣いてくれるなんて初めてで。
オレをこんなにも想ってくれているのが嬉しくて。
透子がすべてさらけ出してオレを必要としてくれている。
こんなになるまで、オレは透子に辛い想いさせてたんだな・・・。
ここまで待たせてホントごめん透子。
「もう心配ないから。もうこれからはずっと一緒にいられるから安心して」
「ホントに・・・? これからずっと一緒にいられるの・・・?」
すると、泣きながら顔を上げてオレに確認してくる透子。
「もう大丈夫」
オレはもう透子が不安にならないように安心するように、その言葉と笑顔で透子に応えた。