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廊下を歩くと、至る所から悲鳴が聞こえてくる。扉から出ようとしている女がいた。彼女は必死な形相で助けを求めている。
「助けて! 出られない! 出られないよぉ!」
「落ち着いて」
俺は声をかけようとした。
しかし浴衣の女が素早く前に出て手を振った。
「いけませんよ」
「なんで邪魔するんだよ!」
「彼らはもう決まった運命ですから」
その一言だけで何か恐ろしい予感が頭によぎる。まるでゲームのように扱われているような気がしてならない。
「君もここで過ごしているわけ?」
「ええ。楽しく暮らしていますよ」
彼女について行くうちに大広間に出た。そこで繰り広げられている光景に息を飲む。
大量の人々が集まり踊り狂っている。中には明らかに血塗れになった人も混ざっていて恐怖よりも狂気を感じるほどの乱舞だ。
人々はお互いを攻撃したり互いを食べている者すらいる。それは地獄そのものだった。
「これ……どういうことだ?」俺は震える声で問いただす。
「これがパーティーなんです」
「パ……パーティ?」
理解不能過ぎて絶句するしかない。それでも状況打破策として周囲を見渡す。そして偶然目に入ったものがあった。
天井近くに取り付けられた非常階段表示
あそこなら外へ通じる可能性が高いだろう。
「俺は逃げるぞ」と低く言うと、「どうぞご自由に」と彼女はニコリと笑う。
全力疾走し、階段へ駆け寄り鍵を開け上へ駆け上がる。一段ごとに胸騒ぎと共に心拍数上昇感じつつ必死になる。しかし途中振り返ってみても浴衣姿女性止まることなく追ってくる様子。ただ黙々付いてきていた。
最上階到着する頃気づくこととなる出口。
「あ……あれ?」
絶望感募る状態でも僅かな希望見出した時、浴衣姿女性声届くようになり、言葉を掛ける内容変わってゆく。
「もうすぐ終わる時間です。皆さん集まりましょう」
この発言意味不明だったため戸惑いつつ出口向かって行こうとした瞬間、肩を掴まれ強引に引っぱられる。
「出てはいけませんよ。あなたもたくさん殺人を犯しましょう。ここには法律なんてないのよ」
「……そんなことをして何になるんだよ」
俺は反論しようと試みたが、体が思うように動かない。目の前の女性は優しく微笑んでいるけれど、その眼差しには狂気が宿っている。
「ふふっ。楽しいんですよ?」
彼女の指先が俺の頬を軽くなぞる。
「新しい友達ができるんですもの」
友達? 人殺しが友達だっていうのか? 信じられない気持ちでいっぱいだけど、今はとにかく逃げることを考えるべきだ。
「いい加減にしてほしいんだけど……」
俺は勇気を振り絞って口を開く。
「俺は帰るから!」
「帰りたいんですか?」
彼女は首を傾げる。
「それは困りますね。だって、あなたはまだ何も知っちゃいませんもの」
「何も知らないから教えろと言っているんだ!」
つい感情的になって怒鳴ってしまった。
すると彼女は少しだけ驚いたように目を見開き、次第に柔らかい表情に戻った。
「わかりました。では教えてあげますわ」
彼女は静かに続ける。
「このホテルはね、普通の人々が入ることはできないんですよ。選ばれた者だけが入れる特別な場所なんです」
「選ばれた者……?」
思わず復唱してしまう。一体どんな基準で選ばれているというんだろう?
「ええ。例えば……」
彼女は目を開いて言う。
「殺人を犯したのに、記憶喪失になって覚えてない人とか」
「選ばれた者……?」
俺は思わず唾を飲み込む。まさか……記憶喪失なんて言われたら本当に自分が怖くなってきた。
「そうですよ。あなたも私と同じですからね」
浴衣姿の女性は微笑みながら言った。
「同じってどういう意味なんだ?」
少し焦りながら尋ねた。
「覚えていますか?あなた自身がどれほど多くの人々を傷つけたか」
彼女は指を折りながら何かを数えているようだった。
「私はちゃんと数えてありますよ。少なくとも百人以上は……」
「嘘だ!」
反射的に否定したものの、心の中で引っかかる違和感があった。なぜこんなにも否定したいと思うのか?自分の過去が本当にわからないのだ。
「本当かどうか確かめる方法があります」
彼女はゆっくりと近づいてきた。
「私の部屋に来てみてはどうですか?そこに全て答えがありますよ」
「……信用できるのか?」
警戒心から問いかけた。
「もちろん。私もここで生き延びている一人ですから」
彼女は優しい口調で続けた。
「一緒にこの謎を解明しましょう。あなたのためでもあり、私たち全員のためにね」
結局俺は誘われるままに彼女について行った。ホテル内の装飾は一見華やかだが、細部を見るにつれて狂気に満ち溢れていることがわかる。壁一面には人間の顔写真が貼られており、その顔にもたくさん傷があった。これは一種のコレクションなのだろうか?
彼女の部屋は思ったよりシンプルだった。ただし、床一面には乾燥した血液のような染みがあり、それが赤黒く変色していた。
「ここであなた自身の正体を探してください」
彼女はクローゼットから古びたアルバムを取り出した。
「これにはあなたの記録がすべて保存されています」
不安と興奮が入り混じる中でページをめくり始める。最初は普通の家族写真だった。幸せそうな夫婦と小さな子どもたちが映っている。しかしページを進めていくうちに異様な風景が浮かび上がってきた。
「これ……俺か?」
写真の中には、明らかに虐待されている子どもや血まみれになっている自分自身が映されていた。
「そうです。これはあなたの記憶を呼び起こすための資料ですよ」
彼女は冷静に話しかけた。
「あなた自身もわかっているはずです。なぜこのような行動を取ったのか」
その言葉とともにフラッシュバックするように痛みや苦痛が蘇る。
「うっ……」
頭痛が激しくなると同時に記憶が鮮明になる。
幼いころから親からの暴力にさらされ、自分も自然と他人を傷つけてしまうようになった……そして次第に快楽として感じるように……。
「もう止めてくれ……」
俺は震える声で言った。
「思い出したくない……」
彼女はそっと肩に触れ、「大丈夫です。あなたは強いですから」も慰めてくれる。
「でも受け入れなければならないこともありますよね?」
そうだ……この苦しみから解放されるためには自分自身と向き合うしかないんだ。
「ありがとう……」
小さく呟いて決意した。
「俺は……変わりたい」
その日から新たな人生が始まろうとしていた。恐怖よりも希望へ向け動き始めようとしている自分に気づいた時、この旅路の先にはまだ見えない未来が待っていることを確信したのであった。