テラーノベル
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昭和82年3月4日22時7分 ――二年六ヶ月前――
あ、ども。
……ブッちーチャンネルです。
はい、じゃあ始めていきます。
えー、今日も、飲んでます。
はい。
あー……
(ワンカップの日本酒を煽りながら20秒沈黙。配信中の室内はオフィスの一室のようだが、薄暗く荒れており、廃墟のようにも見える)
視聴者は……二人。
まあ、はい、そんなもんでしょ。
はい、今日はですね。
これ、やっていきますね。
『S/Witch』。
はい。クソゲーです。知ってる人いますか?
……いるわけねェよなァ、こんなクソゲー!
(配信者が突然激昂し、キーボードを激しく殴り続ける。しばらく息を荒げた後、ゲームパッドを手に取る)
はい、じゃあ始めていきます。
あー、コメント来てる。
……あ? うるせえ、殺すぞ。
じゃ、スタートします。
で、これ、ホラーゲームなんだけど、はぁ……ったく、オープニング飛ばせねえんだよな。
……まったくよ、本当によ、売れるわけねェだろ、こんなモン、本当によ。
クソが……。
(煙草に火を付け、一分ほど沈黙。時折、カメラの奥の空間を警戒するように注視している)
えっと……なんで今日これやってるかって言うと、最後に見せたいものがあって……あ?
あああああ!!?
おい、なんだこれ!
まともに動けねえ!
クルクルクルクル……クルクル……クルッ、クルッ、クルッ! クソッ、クソクソッ!
回るな、クソッ! あッ、クソ! あぁ、そうだ思い出した。ああ……もう。
もうっ!
……はぁ……売れるワケねェだろ、こんなモンがよ……。
クソッ……前に進めねえ。
クソッ、クソッ、クソッ!
(十数分のプレイ後、配信者が突然立ち上がり離席する。階段を駆け上がる音の後、嘔吐と思われる音が微かに聞こえる)
マジで最悪……ホント最悪……プレイしてるだけでゲロ吐くゲームが売れるワケねえだろ。
……あ?
視聴者増えてやがる。
お前ら、俺がゲロ吐いてんのがそんなに楽しいか?
あぁ?
……はぁ。まあいい。もういい。
とにかく、今日は見せたいモノがあって……。
あ……クソが、進めねえ。
……クソッ、えっと? あれはどこだ。どこ行った?
(配信者の操るキャラがオフィス内を出たり入ったりする。
ゲーム内の女性キャラとの会話イベントが発生してGAME OVERになることもあり、飛ばせないオープニングムービーにたびたび激怒しながら再スタートする。
視聴者数は22名まで増加。
にわかにコメント欄の書き込みが増大する)
……あ? 影? 黒い? モヤ?
(配信者が背後を振り返るが何も確認できず、すぐに向き直る。カメラの奥の空間をしばらく凝視する)
知るかクソが!
それより、写真!
写真どこだ!?
写真!
クソッ、クソクソッ、思い出せねえ。
……ん、あぁっ!?
(呼び鈴が鳴る。配信者は一瞬扉の方を向くが無視してゲームを再開する)
写真が……どこかに……あ、思い出した。
そうだ、外まで出なくて良かったんだ。
あ……クソ、辿……辿り着けねえ。
クソが! まっすぐ進ませろ!!
てかッ……
(際限なく鳴らされる呼び鈴に激怒し、キーボードにワンカップを叩きつける。
破片と日本酒が机の上に飛び散る。
呼び鈴に混じって扉を激しく叩く音が聞こえ始める)
うるせえっっ!! うるッせえっつッてんだろォがあ!
(配信者が立ち上がり、金槌を握りしめて扉の方へと向かう。
扉に向かう途中で配信者が戻ってきてマイクとカメラをオフにする)
————
以上は、昭和82年3月4日に行われた「ブッちーチャンネル」のライブ配信の書き起こしである。
この後、配信が再開されることはなく、配信者ブッちーこと、毒島太郎氏は三日後、死体で発見される。
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