テラーノベル
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[ 2085年12月27日 現地時刻11時25分 ]
[ 旧ジャパン-ヨコハマ地域 / 封鎖区域007 ]
5:「まさか年越しまでにまたヴァリアント乗ることなるとはな」
6:「しかも封鎖区域の中て」
5:「まぁ、俺は大歓迎だが」
中隊長を降りてから初めての出撃だ。
戦闘狂い、ヴァリアント狂いと名高いまろは相変わらずの様子だ。特に普段とは変わらない段取り、唯一の違いがあるとすれば__今僕たちがいるのが、「賽投げ」の核爆発に汚染された東京周辺の放射線汚染地域、封鎖区域007の外縁であるということだ。
かつて人口1000万を擁し世界一のメガロポリスと謳われた東京首都圏は、賽投げによる被害としては世界最悪規模の被害を被った。直接の死者は推計450万人__放射線障害など二次被害による死者数データベースには、N/A……「数えられない」とはっきりと刻まれている。
もちろんヴァリアント機体にはその第一の要件として堅牢な放射線防御が備わっているので、爆心地の真上でも飛ばなければ僕たちがケガすることはない。
しかしやはり__後ろを振り向けば、半世紀経った今でも遠くで瓦礫の中から白い煙が立ち上るこの状況。一層気が引き締まるのには違いない。
4:「依頼主はエーテル・ユニオン社」
4:「作戦目標は横浜・川崎のエーテル支配地域に上陸を試みるウラル・ルード社の揚陸艦隊の殲滅__水上戦だ」
6:「封鎖区域の分割だなんて面倒なことしよる、ようけ人死んでぶっ壊れたからって寄ってたかってその墓標までしっちゃかめっちゃかに掘り返すの、どうなんや思うけどな」
そう。別に彼らも、理由なく汚染区域の不毛地帯を抱え奪い合っているわけではない。その原因は__「プリズム」にあった。
核爆発の超高温により、ガラスやコンクリートの内部組織構造が変性して生まれた新物質__皮肉なことに、核が都市を破壊すれば破壊するほど、新しい未知の超エネルギー物質が発生するのだ。プリズムの供給地は、賽投げで破壊された都市の残骸であった。
5:「結局人間なんてな、投げ槍でマンモス刺し殺してた頃からなーんも変わってないんや」
まろが静かに口を開く。
その口調は、プリズム採掘の莫大な利益収入に胡座をかき、1着100万円の高級スーツ姿で酒を嗜む企業貴族__
そして今も自分の背中の向こうの爆心地で、彼らの飽くなき利益追求欲の犠牲となり、汚れた防護スーツに身を包みながらプリズムの採掘を続ける作業員__
そしてそのエネルギーの上に甘んじて、傭兵稼業のために今日もパイロットスーツに身を委ねる自ら__
それら全てを諦観し嘲笑するような、そんな口調であった。
5:「やが、それも悪くないんとちゃうか?」
ヒュルルルルっ、とプリズムジェネレータの共鳴音と共に、ifの機体「ブルームーン」は真っ先に海上の前線に飛び出して行った。
6:「あいっつ……笑」
4:「仕方ねぇ、DICE 2小隊、エンゲージ!」
推力スロットルを思いっきり押し込み、2人の機体もそれを追いかけるように前進を始める。
悠佑のタンク機体___ちょうど戦車の砲塔を取り外して胴体から上を取り付けたような、両手にガトリング砲と重ショットガンを装備した重量機体「富嶽」のキャタピラは水上ではその真価を発揮し得ないが、それでも俺たちと同じようにブーストをふかしながら圧倒的火力を投射可能である。
『こちらエーテル・ユニオン オペレーションセンターです』
『予定通り、作戦を開始してください』
音速には届かないまでも、瓦礫の中に幾らかの仮設建築を認める旧みなとみらい開発地区の埋立地を強く蹴り飛ばし海上へ飛び出た機体は、まっすぐと敵の揚陸艦隊へ向け太平洋の海原を切り裂いた。
晴れ__やや曇り。真昼にも関わらず赤みかかった空が、3つの機影を照らす。
4:「敵艦隊前衛まで25km、現進路で到達まで残り__2分58秒」
4:「レーダー波捕捉__発信源ブルズアイから47,000m、方位170、5K22『ヤターガン』レーダーと判定、SAMカウンターメジャー、ロック解除」
ディスプレイに表示される情報を復唱し、次から次へと処理する。この過程をやるかはそれぞれの好み、というかやらないパイロットが多いのだが。軍警時代から続く癖のようなものは、数年経った今も抜けないのだ。
4:「ターゲット・プライオリティ、揚陸艦から順にセット。ヤクーツク級強襲揚陸艦3隻、プリズムタンカー6隻、スラーヴァIII級巡洋艦3隻、その他中型小型駆逐艦からコルベットまで、計48隻」
5:「ソ連邦御用達のお古ばっかりやないか、つまらんなぁ…」
6:「ガラクタ押し潰すなら得意や」
Ifの乗機”Blue Moon”の兵装構成は全てがエネルギー兵器__レーザーブレード、レーザーライフル、拡散レーザーショットガンにプラズマyと完璧だ。
ヴァリアント武装における__というか兵器産業におけるエネルギー兵器は「その扱いの不安定さを代償に高火力を約束する」というかなりクセの強い代物ゆえ、広く普及しているのは近接ブレード等なのだが…まろ曰く「出力の調整が可能でカスタマイズが容易」なのだそう。
そう、最近のヴァリアント規格は彼ほどの「ヴァリアントオタク」のために、各種チューニングにも柔軟に対応しているパーツも多いのだ。 積載上限の引き上げ、ダメージ向上…内容は多岐に渡るが、ここまで来ればもはや趣味の領域である。
そんなフルチューニングの機体を追いかける”Paradox”のブースターからは、力強く青白い炎が長く伸びている。
レーダー上の敵艦隊、最前衛の小型艦を示す小さめのマーカーの上に表示される距離の値が、秒読みのようにどんどんとカウントダウンしていく。時速500km__秒速にして140mほどを一気に駆け抜ける3つの機体は、海上をノロノロと進む艦隊を着実に捕捉していた。
4:「RWR反応あり。前方5度、ミサイル接近!」
4:「各機散開、ウェポンズ・フリー!」
真っ先に敵のレーダーに捕まったのは、やはり最前列を先行する”Blue Moon”であった。見えない音と光の波形が、紅い空の下で不気味に輝く青黒い機体に浴びせられる。続いてこちらも照準レーダー波を捕捉__火蓋は切って落とされた。
『接近する不明機群を探知!!ヴァリアント機体が3機!!』
『エーテルの手先か__来やがったな、艦隊防空用意!!』
4:「マスター・アーム、オン!マスター・アーム、オン!」
パチン、とコックピット内にあるマ スター・アーム…武装使用スイッチを”ON”に入れる。つまり、安全装置解除。
この辺りは、かつての戦闘機や攻撃機の兵装制御システムの流れをそのまま汲んでいるようだ。ロックを解除された腕と背中の各種武装は、それぞれが殺気に満ち溢れターゲットを確実に破壊するその時を待っている。
6:「じゃ、いっちょぶっかますか」
4:「また太平洋を薬莢で埋め立てる気か?」
6:「それが出来りゃぁ苦労せんな」
前方から多量のミサイルが飛来するのを目視__それらは僕たち3人全てを平等に狙っていた。彼らのような旧式で鈍足なスタンダード兵器が、超機動を繰り返すヴァリアントに対抗する手段はただ一つ。
弾幕である。
飛来する1発の飛翔体__ウラルの地対空ミサイルだろう。接近する数条の筋を極限まで引き付け、一気に右に操縦桿を切る。ガクっ、とコックピットモジュールが揺れ、免震システムでも吸いきれない回避の衝撃が肢体に伝わった。
バァンっ!!と次々、”Paradox”の左手を掠めていくミサイル。後方で爆発音が聞こえる__安全装置が自爆させたか。
6:「こりゃぁ、ハードだな」
5:「ハードやが所詮はミサイルや。教えてやろうや、進化の現実ってやつを、っ!」
さすがは、というべきか。三次元機動を極限まで引き出した彼の戦闘技能__というより操縦技能全般には、確かな技術力がある。ミサイルの軌道、砲弾の飛来進路。
彼には、全て見えていた。
……問題は、悠佑と2人してやや一匹狼すぎるところ。僕は一応小隊長なのだが、彼らの手綱を握ることを半ば諦めつつある。
りうらは中隊長に昇格させたが、あくまで6人全員の指揮を執るのではなく、僕が彼の指揮下に入り、その僕が彼ら2人を従える指揮系統とする。
そうでもしないと、あの生真面目くんのメンタルが保たない。
『弾幕を張れ!!なんでもいいから空に打ち上げろ!!』
『主砲高射砲、対空戦闘用意!!』
『艦隊に近づけないだけでいい!!』
腐っても48隻の大艦隊だ。飛来する弾幕も、だんだん分厚くなってくる。RWR__自機を狙うレーダー波の反応は、何重にも強まった。
遠方で何かが一閃するのをわずかに捉える。
ダン、ダン、ダン…と機体の周囲で火球が爆発を始める。艦砲射撃だ。
その精度はまちまちだが__数で押されれば、無視できないダメージを負う。
目標距離__3000、2000。FCSはレーダーの走査を揺らし、ターゲットを常に探し求めていた。交戦可能距離まで、まもなく。
地対空砲撃とミサイルの雨を次々と掻い潜り、艦隊へ向かう。
はじめに引き金を引いたのは、やはりIfであった。”Blue Moon”から、青白いレーザー光波が高速で艦隊へ向かう。
前衛のコルベット艦__漁船に機関銃とミサイルランチャーをポン付けしただけのような小型艦が、その側面に大きな破口を開けながら沈んでゆく。
こちらでも捕捉、同型のコルベットを視界の内に3つ捉える。ミサイルマルチロック__3目標全てにターゲットされたことを確かに確認し、右手ジョイスティックの発射ボタンを押す。同時に機体の右背部から、紫色に輝くプラズマミサイルがその閃光を引いて3方向に分裂し発射される。
その着弾を待たずして、さらに奥の敵艦艇__フリゲートだろうか__を照準。アサルトライフルの引き金を引いた。
『前衛艦隊、押し崩されていきます!!』
『コルベット前衛、1番から3番、5番から8番反応ロスト!!』
他方悠佑の「富嶽」は一歩遅れて艦隊に堂々突入する。そのタンク脚キャタピラを滑らせ、海上を波を切って進む。直後その束ねられた6本の銃身、120mmガトリング砲を回転させ、前方から一気に推し崩していく。
ヴィぃぃぃぃぃぃぃ……という果てしない連射音と共に、一つ一つが戦車砲ほどあるサイズの巨大な銃弾が海上を真っ直ぐ敵艦へ向かう。
最初の0.5秒で放たれた銃弾はちょうど真正面のコルベットを蜂の巣にし、続いての0.7秒間で撃ち出されたそれは真横のフリゲート艦の艦橋、船体、レーダー、全ての機能を一瞬にして奪った。
たった12秒間の射撃で、概ね7隻を破壊する。射撃してくる対空砲弾やミサイルも、全部受け止め耐えてやると言わんばかりの突撃で脳筋突破。
5:「また悠佑に全部持ってかれん様にせな__」
6:「そこ2人には立派な二本足と空中ブースターが付いとるやろ!!弾が飛ばんなら自分が飛べばええんや!!」
4:「__それも一理あるか」
おおよそ戦場の中で数万人に命を狙われている人間の発言とは思えない。だがそれが__そのやり方が彼なのだ。
“Blue Moon”は左手に持った小ぶりなレーザーブレード__”MOONLIGHT”を振り翳し、ミサイル駆逐艦をその発射管ごと一刀両断していた。
ちょうど三日月のような弧を描き、青い光刃は鉄の塊を真っ二つに切り裂く。最後の通信を発する間もなく、数十億円の兵器は海の藻屑と化した。
4:「全目標の25%を破壊。作戦終了目標時刻、算定開始__」
5:「手応えがねぇな」
4:「その量のミサイルを捌き切っといてよく言う、そもそものヴァリアントの目的が”圧倒的な機動力と火力での圧倒”なのさ」
最大推力で眼下の艦隊直上を飛び去りながら、ライフルを乱射する。かつては重装甲と呼ばれていたであろう駆逐艦が、あっけなく数発の弾丸で弾け飛んだ。
5:「んなことは分かっとんねん、__Eye for Eye…ヴァリアントにはヴァリアントをぶつける、もしくはこんなふうに馬鹿正直に数で当たる」
5:「__そろそろこれ以外の対抗策が出てきてもおかしないやろ、言うとるんや」
5:「例えば、死ぬほどデカい移動要塞、とか」
4:「そうか?ローリスク・ハイリターン……こんなに有難い話もないと思うけど」
6:「何が来たってこっちも質量で押し潰しゃええ、そんだけの話や」
そう言う彼は、背中に装備した巨大なグレネードキャノンを水平に発射__密集した3隻ほどが、一気に火だるまに包まれ吹き飛ぶ。
そう簡単な話でもないと思うが__
艦隊外郭、前衛からの破壊を続けていた3機は、だんだんと艦隊中枢に接近していく。目標はプリズムタンカー複数、そして腹の中にたっぷり戦車を抱えた揚陸艦。
『“パルテノン”を起動しろと言う者がいます!はい__確かにそう言ってありますが!』
『上に掛け合っちゃいるが許可が降りない!!』
『馬鹿野郎、柔軟に運用してこその新型兵器だろうが!?』
ミッション開始から数分、目標の数は着々と減っていた。そして、デカブツも増えてくる。
まず目に入ったのは、570mほど先、スラーヴァIII級重巡洋艦だ。
艦体の脇にミサイルランチャーを大量に抱え、またその甲板からは僕らを狙う艦対空ミサイルが絶えず直上へ発射されている。奴を潰せば、艦隊全体の脅威評価もいくらか下がるだろう。
6:「どいつもこいつも、遠距離攻撃でチマチマと……漢のやり方じゃねぇっ!!」
口径120mm銃身を絶え間無く回転させ次々と銃弾を発射する「富嶽」。真正面の駆逐艦を10連ミサイルで破壊したのち、そのまま推力全開で燃え盛る鉄の塊に突進し、機体でトドメを刺す。
瓦礫の中から飛び出た「タンク」は粉々に砕け散り__文字通り海の藻屑と化した。
『前衛の駆逐艦隊、ほとんど全滅です!!』
『畜生畜生、ふざけやがって!!』
戦場は未だ慌ただしかったが、それでも最初に比べれば弾幕の量は確実に減っていた。僕は目についたミサイル巡洋艦に対しライフル掃射を敢行。同時に左肩に装備したバズーカ砲弾を至近距離で射撃する。ショットガンのように撃ち出されたバズーカは空中で分裂し拡散、巡洋艦全体を「面」で粉々にした。
側面にむき出しに設置されたミサイル発射管には次々と火がつき、やがて艦全体が火を吹き真っ二つに割れて沈んでゆく。
4:「装甲貫通__誘爆。意外と硬くないな」
5:「あんな見りゃわかる脆弱な構造、硬い訳ないやろ」
Ifはプリズムタンカーの燃料タンクをピンポイントでレーザー狙撃している。青い数条の閃光は、灰白色の鉄板に穴をあけ、その中に詰められたプリズムに次々と火をつけた。
『敵ヴァリアント急速接近!!』
『艦隊空戦闘!!弾幕薄いぞ!?何やってんだ!!』
『巡洋艦スヴェールヌイ、復元可能傾斜を超えました!!』
『24号駆逐艦、航行不能!!このままでは沈没します!!』
艦隊は阿鼻叫喚の嵐だった。__無理もない、48隻の艦隊相手に3機のヴァリアント、その戦闘力は圧倒的とはいえ、たった3つの空中目標ともまともに渡り合えない艦隊は屈辱以外の何物でもなかったのだ。
ふと背後を振り返れば、鉄と重油、そして無惨にも海中に放り出された乗組員達の救命ボートが海上をゆらゆらと浮いている姿が多数確認できる。
6:「こりゃぁ海の底は今頃残骸と薬莢で偉いこっちゃろな」
4:「特に悠佑の通った後はな」
相変わらず無遠慮に弾薬を撒き散らし全てを粉砕する「富嶽」。
マルチロックで発射された10連想ミサイルは真っ直ぐに発射され、それぞれの目標に対して散り散りに向かっていく。
敵弾と交差する彼のミサイル__互いが互いを圧倒する弾幕が戦場を埋め尽くす。
空中に炸裂する艦砲弾。いくつもの軌跡を描いて接近してくる艦対空ミサイル__花火大会さながらだ。
4:「全目標の60%を破壊。後は本丸だけか」
6:「揚陸艦が__何隻やっけ?まぁええわ、粉々にするまでや」
ノロノロと前進を続け、時折思い出したように対空射撃をしてくる揚陸艦__ヤクーツク級を遠方に捉え、前進する。再び力強く白い噴煙をブースターから発しながら、3機は他艦の抵抗を振り切り叩き潰し、冬の太平洋を滑っていた。
作戦も佳境。残った敵を片付けて帰ろうと、そんな空気がどことなく流れてきたその時__。
部隊無線に突如、通信が割り込む。
『こちらエーテル作戦本部、作戦領域外に巨大な不明機の機影を確認』
5:「なんやと__?」
刹那。
4:「っ!?Break__!!!」
ズシュぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!
という鋭い音と共に、視界が閃光に染まる。
戦術撹乱兵器__いや違う。
6:「何が起きた!?」
5:「大口径のレーザー攻撃や!!まともに食らえば1発で死ぬで!!」
狙撃__!?
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