第十六話:未来を話す夜
バレたあの日から数日。
ざわついてた空気は、驚くほどすぐに落ち着いた。
真白のあの「宣言」のおかげかもしれない。
噂していた生徒たちも、今は特に何も言ってこない。
むしろ、ちらほら「本気っぽいよな」「ガチ尊くね?」なんて、思わぬ方向で支持を受け始めていた。
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──夜、アパートのリビング
晩ごはんを食べ終えて、ふたりでソファに並んでいた。
陽翔は真白の肩に頭を預けたまま、ぽつりと口を開いた。
「…先輩、来年卒業でしょ」
「ん」
「卒業したら、どうするの?就職?進学?」
「進学だな。県外の大学、受けるつもりだったけど──
お前のこと考えると、ちょっと悩んでる」
「……え」
陽翔は顔を上げて真白を見る。
「俺のせいで、進路変えるの?」
「“せい”じゃねぇ。“おかげ”だ」
真白はそう言って、優しく笑う。
「俺が本気で好きになったやつが、お前だった。それだけで選びたい未来が変わるって、悪いことじゃない」
陽翔は俯いて、少しだけ唇を噛んだ。
「……じゃあ、俺も頑張る。先輩と同じくらい、自信持てるように。
卒業したあとも、隣にいられるように」
真白の指が、そっと陽翔の指を絡め取った。
「じゃあ、目標な。
来年の春も、その隣にいること。
そしてその次の春も、ずっと──」
「“ずっと”って、ずるいくらい重い言葉だね」
「じゃあ、軽く言ってみろよ。“永遠に一緒”」
「……うわ、先輩のくせに甘すぎてニヤける」
「お前がそうさせてんだよ、陽翔」
陽翔は照れたようにうつむきながら、真白の手に自分の手を重ねた。
その夜、ふたりは未来を見つめながら、何も特別じゃない静かな時間をずっと共有していた。