side:wki
いつも通りに制服に袖を通すだけで、心が高鳴ってるのが分かる。
小学生の時も修学旅行は楽しみだったけど、今回は格別だ。
きっと大森は、もっと緊張してるだろう。
今日という日こそ、迎えに行かなきゃだな。
『やっぱ行かない』なんてなっても嫌だし。
謎の使命感に駆られ、車で送っていくよと言う親の申し出を断り、いつも通り、そしていつもより随分早く家を出た。
家から出てきた大森は眉を寄せて、随分と怪訝そうな顔をしていたが、まぁ気にしない。
気にしたら負けだ。
並んで歩いている途中で、大森はポツリと漏らした。
「おれクラスメイトの名前も危ういんだよね…ホントに大丈夫かな…」
「何言ってんの。その為に俺が居るんでしょ!大丈夫だよ」
「そだね。ありがと」
毎日メールのやり取りをしてる中でも思ったけど、大森は心の内を素直に話す節がある。
不安を思うままに口にできるのって凄い。
俺なんてついつい背伸びしたことや、思ってもないことを言ってしまう時があるのに。
大森と話してて心地いいと思うのは、そういう所だな。
そんな事を考え、話しながら歩いていたら、いつの間にか校門の前まで辿り着いていた。
それまで軽快に歩いていた大森の足と、楽しげな声がピタッと止まった。
真っ直ぐ校舎を見つめる大森は、まるで今からこの校舎と戦うかの様な雰囲気を纏っていた。
凄い久しぶりだもんな。
無理もないか。
余計な声はかけずにポンと背中を叩いてみる。
大森の肩はビクッと震え、カバンを握る手に力が入ったのが見て取れた。
大きく深呼吸して、大森はポツリと呟いた。
「行くか」
「おう」
校門を潜るだけなのに、映画のワンシーンの様だと思った。
「若井ー!ちょっと話があるから、職員室に来てくれ!」
集合場所の校庭へ向かう途中で、担任から声を掛けられた。
え、どうしよう。
オロオロと担任と大森に視線をさ迷わせていたら
「おれの事はいいから、行ってきなよ」
「でも…」
「小さな子供じゃないんだから。ほら!」
今度は逆に俺が背中を押されてしまった。
「すぐ戻るから!!」
校庭へ向けてさっさと歩き出し、ヒラヒラと手を振ってる背中に声を掛け、職員室へ向かって走る。
早く大森の元に戻らなきゃ。
その一心で。
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side:mtk
まさかこんなタイミングで1人になると思ってなかった。
今更心臓がバクバク言ってる。
やっぱ若井待った方がいいかな。
いやでも、甘えっぱなしなのも嫌だし。
若井が居た時よりも確実に足が重い。
改めて若井の存在の大きさを感じながらトロトロ歩いていたら、校庭に着いてしまった。
顔を下げたら負けだ。
なにと戦ってんのか分からないけど、ひとまず真っ直ぐ前を見て、クラスの列の1番後ろに少し離れて並んだ。
のに、あっという間に一軍男子に囲まれてしまった。
「大森じゃん!久しぶりー!!」
「あれ、若井は?一緒じゃないの?」
「背縮んだ?そんな小さかったっけ」
いっぺんに話しかけられて目が回りそうだ。
そんな中でも“小さい”の単語だけはしっかり耳に届いた。
「縮んでないし!」
「肌も真っ白じゃん。もっと日に当たった方がいいよ?」
「あれだ、日光を浴びないから背が伸びないんじゃないの?」
「男子中学生は雑草だったのか…俺は違って良かったわ」
「雑草て!そこは花だろ〜!」
「花とかどこにも無くない?」
こいつ結構言うな!なんて笑いながら、頭をクシャクシャに揉まれた。
やめろよ!という前に
「元貴!こっちー!!」
と呼ぶ若井の声が耳に届いて、ホッとして頭の手を振り払い、若井の元へ走った。
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