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100%!? なんで魔力があるの!?
さっちゃんのコップは魔力を生み出せないんだよね!?
「ビックリした? 魔力を生み出せないはずのサっちゃんのコップに、なんで魔力がいっぱいなのか?」
「魔力が作れるようになったんですか?」
「理由はさっきの「癒しの氷」だよ」
「へ?」
「癒しの氷の魔力でサっちゃんの魔力が回復したんだよ」
「は?」
癒しの氷で魔力が回復? 幽霊の傷を埋めただけじゃないの?
「当初の氷の目的は幽霊の傷を和らげるのが目的だね。でもね、サっちゃんの場合は魔力の回復効果もあるの。傷の治療が終わった後の氷の目的は魔力の回復。普通は他人の魔力を取り込んでも回復はしないんだけど、二人の魔力の色はほぼ同じで、ずっと一緒に近くにいたことで魔力が馴染みやすくなっている。あ、この馴染み易さって言うのはコップの形のことね。サっちゃんのコップは空だったから、一番近くにいた人の影響を受けて変形しやすかったの」
氷の最終目的は魔力回復だったんだ……。
それに、魔力が馴染みやすい……そんなことも言ってたね。だから、わたしの氷を食べても効果があるんだって。馴染みやすさってコップの形のことだったんだ……。
「そんな色んな条件が揃ってやっと、他人の魔力を吸収して自分のものにすることが出来るんだ」
「へー……」
「アリアちゃんの味で染めようって話をしたの、覚えてる?」
「……はい」
なに? ここにきてふざけるつもり? 取り戻した信用を失いたいの?
「あれはふざけてる訳ではなくて、そのままの意味なんだよ」
「え?」
ふざけてないの? わたしの味に染めるとか意味不明だよ?
「味って表現はサっちゃんにわかり易くする為に使ったけど、アリアちゃんの色って言えば分かってくれるかな?」
「わたしの色……わたしの魔力ってことですか?」
「そう、アリアちゃんの魔力でサっちゃんを染める。別の言い方をするなら、アリアちゃんの魔力でサっちゃんのコップをいっぱいにするって意味」
「なるほど!」
さっちゃんは魔力の感覚がわからないから、わたしの味って表現だったんだ。だから、ユリ姉さんはイメージしやすいようにわたしの味っていうさっちゃんの表現をそのまま使った。
わたしの味(魔力)が身体に染み込むイメージ……、あー、今ならハッキリ分かる。さっちゃんに説明する時は、わたしも「わたしの味で染める」って言い方をしよう。
ユリ姉さん……あの時にちゃんと説明してくれてれば、信用が地に落ちることもなかったのに……。
「わかってくれたようでよかったよ。ただね、魔力は体内に留めておくのが難しんだ。コップの水が自然に蒸発しちゃうようなイメージだね。普通の人は自然に消費されるより、回復する方が早いから気にならないけどね」
魔力って自然に消費されてるんだ……全然気が付かなかったよ。
じゃあ、さっちゃんの場合は……。
「でも、自分で魔力を生み出せないサっちゃんはすぐに魔力がなくなっちゃう」
「はい……」
やっぱりそうなるよね。わたしが回復し続けないとダメなんだ……。
「だからアリアちゃんが回復し続けないと駄目」
「はい」
「そこで大活躍するのが癒しの氷。あれはサっちゃんに特化した魔力の塊なんだよ」
「んん?」
大活躍はなんとなくわかる。あれで100%まで回復したんなら、いつも食べてれば常時満タンだ。
でも「特化した魔力の塊」ってどういう意味?
「アリアちゃんにあの魔術のイメージを聞いた時にこう言ったよね、「さっちゃんの身体」って」
「はい」
心のイメージできなかったから、さっちゃんの身体が全身傷だらけで、全ての傷を魔力で埋めるイメージをした。
「魔術は想像を魔力で顕現したものって聞いてるよね。つまり、サっちゃんをイメージして出した魔術はサっちゃんにしか効果がないってこと。……魔術ってね、効果範囲を少なくした方がイメージしやすいし、効果を高めやすいの」
聞いたことがあるような……。たしか、師範代が似たことを言ってた気がする。
「今回の「癒しの氷」の場合は特定の個人……サっちゃんだけを対象にしっかりとしたイメージをして、最大限に効果が高まるようにした特化魔術なんだよ。特化魔術は指定した本人には何倍も効くんだけど、他の人には全く効果がない。だから、あれはサっちゃん専用の魔術」
「さっちゃん専用の魔術……」
なんかちょっと嬉しい。
わたしが考えた、さっちゃんの為だけの特別な魔術。
よくわからないけど、「特化魔術」とか表現もカッコいい。
名前……変えた方がいいかな?
癒しの氷じゃ、さっちゃん専用って感じがしない。シンプルに「さっちゃんの氷」とか? わたしの味って言ってたし「アリアの氷」とかでも喜んでくれそう……楽しくなってきたよ!
「ワクワクしてるところ申し訳ないけど説明を続けるよ」
「あ、はい」
「あれはもう普通の氷の魔術とは全くの別物だね。あれは氷じゃなくて、氷に似た魔力の塊。……指懲室の魔力障壁から魔力のヒントを得たのかな?」
「はい」
指懲室の魔力障壁を見るまでは、魔力の色なんてあったことすら知らなかった。あれからヒントを得たといっても間違いじゃない。
「あの時は障壁の魔術を使おうとしてたからビックリしたよ。使ってたら道場への入門取り消しだよ。ヤガミさんから注意されてるよね? 新しい魔術を思いついても、使う前に必ず相談することって」
ユリ姉さんがちょっと怒り顔だ。初めて見た気がする……。
でも、そうだよね……。わたしが魔力暴走をしないように言ってくれたことなのに、そのいいつけを破って勝手に魔術を使おうとしたんだ。もしかしたら、障壁魔術で魔力暴走を起して死んでたかもしれない。死ななくても入門取り消し。ユリ姉さん達が用意してくれた将来を自分で壊すところだったんだ……。
「すいません……」
「本当にアリアちゃんは想像の上を行くね。あの短い時間、しかも独力で魔力障壁の正体に気づいて再現しようとするなんて」
怒られてるのか、呆れられてるのか、どっちなんだろう?
……どっちにしてもいい意味じゃないか……。素直に反省しよう。
「ま、そこは今の話と関係ないか。癒しの氷の説明を続けるね」
「……はい」
「癒しの氷は魔力の塊って言ったよね」
「はい」
「聞いたイメージと見た印象だけで判断するなら、癒しの氷1個でサっちゃんの魔力が50回は完全回復してるかな」
「はぁ!? 50回ですか!? あれで!?」
なにそれ!? 100%じゃなくて5000%回復してるってこと!?
え? なに? さっちゃんのコップってそんなに小さいの?
「アリアちゃんの魔力量って凄く多いんだよ。逆にサっちゃんは元々の魔力がゼロだから最大値も低いの。比べたら可哀そうだよ」
「はい……」
なに考えてるんだろ……。
さっちゃんは魔力が全くないんだ、コップが小さくても不思議じゃない。逆に、わたしは魔力だけは高い。
わたしが魔力でさっちゃんが体力……二人で一つなんだから、比べたらダメだよね……。
「うちで測定してないから正確な魔力量はわからないけど、見た感じでコップの大きさに例えるなら……サっちゃんは小さいコップの大きさで、アリアちゃんは大人が10人くらい入れる大きいコップって感じ、かな」
「はえ!?」
10人は入れるコップって、もうコップじゃないよね!?
10人が入れるなら公衆浴場の大きな浴槽レベルだ。普通のコップにしたら100とか200じゃきかない。
「学生でアリアちゃんの魔力量に勝てる人って、全種族合わせても中々いないんじゃないかな? それくらい凄いレベルだよ。今後の成長を考えると恐ろしくなるね」
「でも、学校で測った時はそんなにすごいとは……」
学校の定期検査ではいつも5段階評価で最高評価の5だったから普通の原人よりは高いとは思ってた。他の原人の子は高くても3とかだったし……。
でも、そんなにすごいんだったらもっと騒がれててもいい気がする。魔力の高い人が多い海人さんや翼人さんより魔力が高いなんて絶対に普通じゃない。
「小学校にある魔力測定器じゃ測定の精度はたかが知れてるよ。分かるのは「魔力が高い」程度の曖昧なことだけ。精度の高い測定器って凄く高価だから、持ってるのは領政府と実戦重視の民兵組織くらいかな。もしも、学校の測定器が高精度でアリアちゃんの魔力量がハッキリしてたら、軍とか民兵組織の争奪戦でも起きてるんじゃないかな? ま、そうならないように、あえて学校の測定器は精度が低いものなんだけどね」
「はえー……」
何だろう、スケールが大きすぎてよく分からない……。
争奪戦とか、あえて精度の低い測定器とか……。
「で、そんな感じで魔力が豊富なアリアちゃんには、1日1回、癒しの氷を出してサっちゃんの魔力を完全回復させてあげてほしいの」
「はい……」
うん、そんなに魔力があるんだったら何回でも喜んで癒しの氷を出す。
すごく美味しいって言ってくれてたし、いっぱい食べて喜んでもらう! 幽霊からも守れて一石二鳥!
……すごい、今まで一番さっちゃんの役に立てているような気がする!!
「……ここまでの説明で、少しは信用回復できたかな?」
「はい、もうバッチリです!」
ちゃんと説明してくれて、役に立つことをいっぱい教えてくれた。信用度は下がる前より高いくらいだ。
ホントに見直したよ。社会人モード以外にも十分頼りになるって分かった。
「ははは、ならよかったよ。さっきのサっちゃんの変化をより詳しく説明するとね、魔力残量が5%くらいのところに、いきなり100%まで回復したせいで起きたショック症状の一種なんだ。魔力を回復する薬とか飲むと感じることが出来るんだけど、魔力の急な回復って結構気持ちいいんだよね。でも、そんな気持ちのいい薬でも回復するのは10%くらい。だから、傷を一気に癒して、魔力を100%回復した「癒しの氷」はものすごい快感だったと思うよ。あんな風に理性が吹っ飛んじゃうくらいにはね。次からは幽霊の傷も癒えてるし、魔力も100%近いからショックはないよ。遠慮せずに癒しの氷を食べさせてあげてね」
「はえ~……」
魔力の回復って気持ちいいんだ……。嬉しい=気持ちいいってことだったんだね。
氷を食べて嬉しそうにしてたのは、傷が少し治って、ちょっとだけ魔力が回復してたから。
次からは大丈夫って意味もちゃんと分かった。傷もなくて魔力もほぼ満タンだから、あまり変化を感じないってことだ。
「……これは言い訳になるんだけど聞いてくれる?」
「はい」
「ありがと。私はね、普通の氷を何度も食べてるサっちゃんの魔力状態が5%くらいだったから、ちょっとイメージを改良した氷では5%も回復しないと思ってたの」
「え?」
……思い返すと、氷の改良イメージについてユリ姉さんは「さっちゃんの心の傷を氷で埋める感じを強く持つ」としか言ってないような気がする。
全身の傷を埋めるとか、魔力で埋めるとかはわたしが勝手に思いついたことだ……。
「だから、あの「癒しの氷」を見た時に色合いで嫌な予感はしたんだけど、大丈夫かなって思っちゃった。本当にゴメンね」
「あ、ちゃんと理由があったんなら全然気にしないです」
わたし達のイチャイチャをもっと過激に見たかったとかよりは全然理解できる。
普通の氷の改良じゃなくて、全く別物の氷を出したわたしも悪い気がするし……。
「ありがとう。あ、さっきの氷の話がまだ終わってなかったね」
「え?」
終わりじゃないの?
色んな理由も聞いたし納得もしたよ。後は癒しの氷を食べ続ければいいだけだよね?
「癒しの氷で完全回復しても、時間が経てば減っていくのは説明したよね」
「はい」
……たしか、コップの水が蒸発するイメージだっけ?
「1日1回、癒しの氷で完全回復したら、次の日までの隙間時間を普通の氷で埋めてほしいの」
「え? 癒しの氷を何個か持てばいいんじゃないんですか?」
「ははは、魔力が多い人の考えだね」
「ダメなんですか?」
完全回復するし美味しいんだから、癒しの氷の方が絶対にいいような気がする。
普通の氷をたくさん食べてもちょっとしか回復しなかったんだから、1個で100%回復する癒しの氷の方が楽だし早いよね?
「アリアちゃんには感じなかったみたいだけど、あの「癒しの氷」は普通の氷に比べて桁違いに魔力を消費してるんだよ。平時はアリアちゃんの考えでもいいけど、非常時はそうはいかない。如何に魔力を節約して長時間、効率よく戦果を上げ続けるか。それが実戦の考えでうちはそういう組織。今から出来るだけその考えに慣れてほしんだよね」
「……はい」
実戦の考え……。すごく物騒だし、非現実的に聞こえる。でも、わたし達が働く組織はそういう場所なんだよね。
お姉ちゃんが、レクルシアの名前を聞いて頭が真っ白になったと言ってた。お母さんも、レクルシアは危険な依頼を多く引き受けてる組織って言ってた。その中には、たくさんの民兵さんが死んでる場所での依頼もあるって……。
……ユリ姉さんの言う通りにしよう。
よく考えたら職場の大先輩になるんだ、すでに危険な現場で働いてる大先輩の言うことは素直に聞いといたほうがいい気がする。子供だからまだ大丈夫とか思ってたら、いつか取り返しのつかないことになる気がする。
「日中は普通の氷で防御を維持して、1日1回最大まで回復させる。分かってくれた?」
「はい」
「じゃあ、説明はこれで終わり。信用も回復したし、私は大満足だよ。あとはサっちゃんが目覚めるまで世間話でもしてようか。目が覚めたら、さっきの強烈ラブコールのケアをしないと駄目だから」
「え!? 記憶が残ってるんですか!?」
……幽霊の時と状況は同じだったよね?
今回はさっちゃんの暴走をユリ姉さんが落ちかせてくれた……違いはそれだけだと思う。
「当然、記憶は残ってるよ。さっきは幽霊に乗っ取られてた訳じゃないからね」
あ、そうか……。サユリさんも言ってたよね、混乱してただけだから覚えてないって。あれってやっぱり、幽霊に乗っ取られてたから覚えてないってことだったんだ……。
でも、あの状態の記憶があるって……さっちゃん、大丈夫かな……。ものすごく激しいスキンシップだったから、ちょっと落ち込むかもしれない。わたしの言葉が届いてなかったし、あのままだったらわたしが危なかった……。
幽霊の時はごまかせたけど、今度はちゃんと謝らないとダメだよね。癒しの氷のせいでああなったんだから。
「それに、私にはサユリさんみたいな特殊技術はないよ。だから、記憶操作とか期待しないでね」
「……え? 記憶、操作?」
なに、その物騒な単語……。
魔術……じゃないよね? 特殊技術って言ってたし、武技に似た技術なのかな?
……サユリさん、すご過ぎない?
記憶操作なんて技術は聞いたことがないし、普通に考えたら非常識すぎると思う。色々知っててすごく強いユリ姉さんが使えないってことは、相当すごいよね……。
「ん? 見てたんじゃないの?」
「あ……、わたしが目を開けたらさっちゃんがベットで寝てて全て終わってたから……。なにが起きたのかは全然分からなくて……」
「そうだったんだ。手紙ではそこまで詳しく書いてなかったからなー……。じゃあ、私が記憶操作って言ったのは忘れて。忘れないと監禁しちゃうから」
「そんな無茶な!?」
記憶操作なんて強烈な単語、絶対に忘れられない。
知らないふりをするので精一杯だ。誰かに記憶操作のことを聞かれたら絶対に反応する。
「ははは、冗談だよ。今は他人に喋らなければそれでいいよ。二人が偉くなったら自然と知ることになると思うけど、それまでは胸の内にしまっておいて」
「はい……」
危険な組織で偉くなったら知ること……。なんかすごく怖い……。
今の平和な日常の裏側では幽霊達と戦争とかしてそう……。
「あー、真面目な話をしたら疲れたねー。血の税金で買われた高級お茶でも飲んで落ち着こうか」
「……はい」
真面目な話が終わったとたんに血の税金とか……。わざとふざけてるのかな?
やっぱり根っこは性悪女なのかもしれない。わたしをからかって楽しんでるとしか思えない。