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翌朝――。
「蒼真!!!!」
屋敷中に響く声で、一日が始まった。
執事の蒼真は慌てることなく部屋の扉をノックする。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「遅いわ!!もう三秒待ったのよ!!」
「申し訳ございません。二秒で参りました」
「一秒の差は大きいのよ!!」
今日も藍琉は絶好調でわがままだった。
だが――様子が少し違う。
ベッドの上に座ったまま、もじもじしている。
「……どうかなさいましたか?」
「……今日、学校に行きたくない」
珍しい言葉だった。
藍琉は成績優秀で、負けず嫌いで、どんなことでも逃げない性格だからだ。
蒼真は静かに問いかける。
「理由を伺っても?」
藍琉は視線をそらす。
「……クラス替え」
「ああ」
「友達と離れたの」
声が小さい。
「……それで?」
「……誰も話しかけてこなかったらどうしよう」
その瞬間、蒼真は理解した。
お嬢様は――怖いのだ。
孤独が。
「お嬢様」
「なによ」
「本日は学校をお休みなさいますか?」
藍琉は驚いた顔をする。
「え?」
「無理をする必要はございません」
「……でも」
蒼真は少しだけ微笑んだ。
「ただし」
「?」
「お嬢様が逃げたままで終わる方ではないことを、私は知っております」
藍琉の瞳が揺れる。
「……蒼真」
「はい」
「……一緒に来て」
「学校に、でございますか?」
「そうよ!!門まででいいから!!」
蒼真は一礼する。
「かしこまりました」
―――――
学校の正門前。
高級車から降りる藍琉は、明らかに緊張していた。
手が震えている。
そのとき。
「お嬢様」
蒼真がそっと手袋越しに手を取る。
「大丈夫です」
「……なにがよ」
「もし世界中がお嬢様の敵になっても」
彼は穏やかに言った。
「私は味方です」
藍琉の目が見開かれる。
次の瞬間。
「……ばか」
でも、その声は震えていた。
「そんな大げさなこと言わないで」
「事実でございます」
「……もう」
藍琉は顔を隠すように前を向く。
「行ってくる」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
数歩進み――。
振り返る。
蒼真は変わらずそこに立っていた。
それだけで、勇気が湧いた。
「……ふん」
藍琉は胸を張る。
お嬢様なのだから。
負けるわけにはいかない。
そして――。
「ねえ、あなた新しく来た子?」
クラスメイトが声をかけてきた。
藍琉は一瞬驚き、でもすぐに笑う。
「ええ。藍琉よ。よろしく」
その様子を遠くから見守りながら、蒼真は静かに微笑んだ。
「さすがお嬢様」
―――――
放課後。
「蒼真!!!!」
「はい」
「友達できた!!!!」
満面の笑顔だった。
「それは何よりでございます」
藍琉は少し黙り――。
「……ありがと」
「私は何もしておりません」
「したわよ」
藍琉は小さく言う。
「……勇気くれた」
その言葉に、蒼真はほんの少しだけ驚いた顔をした。
そして優しく頭を下げる。
「光栄です」
夕焼けの中。
二人の距離は、昨日より少しだけ近くなっていた。