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翌朝。結局、遥に言われた言葉がずっと胸に刺さって、あまり眠れなかった。
玄関を出ると、家の前でスマホをいじりながら待っている遥の姿。
「……おはよ」
「遅い。チョコ食って虫歯にでもなったか?」
「なってないわよ」
並んで歩き出すと、昨日の泣き顔を見られた気まずさがこみ上げてくる。私は話題を変えようと、カバンに忍ばせた新しい決意を握りしめた。
「ねえ、遥。私、やっぱりマネージャーは諦める。でも、テニス部のサポートはしたいんだ。お弁当とか、差し入れとか」
「……またそうやって、尽くして自爆すんのかよ」
遥が呆れたように溜息をついたその時。
後ろからキキッ、と自転車のブレーキ音が響いた。
「おはよう、二人とも! 今日は早いね」
凌先輩だった。爽やかな朝の光を背負って、白のポロシャツが眩しい。
でも、その後ろの荷台には、昨日見たあの綺麗なバッグが乗っていた。少し遅れて、成瀬先輩がジョギングで追いついてくる。
「あ、凌。……あ、昨日の新入生ちゃんたち、おはよう」
成瀬先輩は、激しく動いた後なのに、一筋の乱れもなく綺麗だった。
「紗南ちゃん、昨日はごめんね。あ、もしよかったらなんだけど。マネージャーは無理だけど、テニス部の『スコアラー』の勉強、してみない? 凌から、君がすごく熱心だって聞いたから」
成瀬先輩が差し出したのは、一冊の古びたノートだった。
それは、選手たちの記録をつけるための大事なもの。
「えっ……私に、いいんですか?」
「うん。凌の最後の夏を、一番近くで記録してほしいの。……幼なじみの君にしかできないことがあると思うから」
成瀬先輩の言葉に、私は凌先輩を見た。先輩は嬉しそうに「よかったな、紗南ちゃん」と笑っている。
ずっと欲しかった、彼との繋がり。
「はい! やります!」
私が大きな声で返事をすると、隣にいた遥が、なぜか今までで一番深く、重い溜息を吐いた。