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「スコア……? 何それ、どうやるの?」
成瀬先輩から預かったノートを開くと、そこには暗号のような記号がびっしりと並んでいた。サーブの軌道、ミスの種類、得点経過。ただ試合を見るのとは訳が違う。
「……だから言っただろ。お前みたいなバカには荷が重いって」
放課後の図書室。遥は隣の席で、自分の宿題を広げながら欠伸をした。
「バカって言わないでよ! 成瀬先輩、わざわざ私に『幼なじみの君にしかできないことがある』って言ってくれたんだから」
「……あー、はいはい。あの部長、策士だな」
「え、何が?」
遥は答えず、私の手元にあるノートをひょいと覗き込んだ。
「……。ここ、間違ってるぞ。スライスの記号はこっちだ」
「えっ、なんで遥が知ってるの?」
「……兄貴の試合、ずっと見てきたからな。嫌でも覚えるだろ」
遥は奪い取るように私のペンを持つと、さらさらと余白に解説を書き込み始めた。
口は悪いけれど、遥の説明は驚くほど分かりやすい。
「……ねえ、遥。本当は遥もテニス、やりたいんじゃないの?」
ふと気になって尋ねると、遥のペンが止まった。
彼は少しだけ苦い顔をして、窓の外に見えるテニスコートを見下ろした。そこでは、凌先輩が成瀬先輩と激しいラリーを繰り広げている。
「……俺は、いいんだよ。あいつの影に隠れてるのが、一番落ち着くんだ」
そう言って笑った遥の横顔が、夕闇に溶けて、なんだかすごく遠くに見えた。
私は胸が締め付けられるような感覚になって、思わず遥のジャージの袖をぎゅっと掴んでしまった。
「……何だよ」
「……なんでもない。ただ、遥もちゃんと見てるから。私が、遥のこと」
遥は一瞬目を見開いた後、顔を真っ赤にして私を突き飛ばした。
「……っ、うっせーよバカ紗南! ノート、インクで汚すな!」