テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
100
829
…..深夜二時、
第一部隊 有明臨海基地・地下特別訓練室。
…その中で、最強と謳われる防衛隊の隊長は、人知れず仮想の敵にひたすらに銃剣を振るっていた。
ガキンッ!!
ドゴォォォン!!
……..それは、
異常な高出力で稼働するシミュレーションマシンの駆動音と、肉体が限界を超えて軋む音。
「はぁっ……!ぁぁぁアアッ!!」
ズドンッッッ
大型仮想怪獣の核を貫く、鋭い一閃。
飛び散った偽物の血が、マスクを装着した顔にビチャッと張り付く。
キィィィーーーーン
「ぃ゛…」
不意に、鳴海のこめかみにノイズが飛び散るように響いて、思わず顔をしかめる。
だが、関係ない。
………まだだ。まだ全然、足りない。
『NEXT STAGE. 仮想フォルティチュード 8.5』
「次だ……! さっさと次を出せ!!」
荒い息のまま、吐き捨てるようにオペレーターに言う。
拭い忘れた汗が目に入ってきて、視界がぼやけていく。
…..その滲んだ視界の裏側に、フラッシュバックしたのは、
薄暗い布団の中で、スクロールし続けたスマホの画面。
『第1部隊がいたのに死者数多すぎな気がする……』
『ちゃんと仕事しないなら税金返せ』
『こんだけ死んでるのに自称最強とかまじ笑えない』
『防衛隊っていつも遅くね?もうちょい訓練がんばれよ』
『鳴海隊長、なあ…..』
『四ノ宮長官が死んだのに、あの隊長は何やってたの?』
『娘が殺されました。怪獣が悪いことはわかっているけれど、部隊がもう少し早く到着していればと思い….』
『♯最強とは』
「……ッ!!」
ギリィッ、と奥歯が鳴る。
床を踏み込む足に、怒りと、それ以上の絶望を込めて力を叩きつけ、
その足が、強化コンクリートの床のひびを広げていく。
ネットの有象無象が吐き捨てる、無責任な言葉。
普段なら、「素人がギャーギャーうるせぇ」と鼻で笑ってミュートにするだけの文字群。
……..だが、今は違う。
彼らの言う通りなのだ。
ボクは「最強」なのに、あのバケモノを捻り潰せなかった。
あんなに憧れた背中一つ、守れなかった。
「ああああああっ!!」
仮想怪獣の群れに単騎で突っ込み、トリガーを引き続ける。
怪獣が現れるのが、いつも自分の目の前だったら…、何度そう思ったことか。
でも、現実はそううまくいかないし、ボクが長官を死なせたのも変えられない事実だ。
…..今更何をごちゃごちゃ考えてるんだ。
考えるより先に体を動かせ。
もっと早く、もっと威力を、もっと、もっと….
だめだ。
息が続かない。
専用スーツの排熱機能はとうに限界を超え、
皮膚が溶け切りそうな熱を放っていた。
肺は酸素を求めて悲鳴を上げ、
握りしめた銃剣の柄は、自分の血と汗で滑っていく。
それでも、動きを止めることはできない。
ピー、ピー、ピー、ピー!
『使用者の心拍数が規定値をオーバーしています。』
『バイタルサインに異常。直ちに訓練を中止し——』
「るせぇ!! 黙れ!!」
警告音を無視し、再び床を蹴ろうとした、その時。
ブツッ
不意に、訓練室の電源が落ちた。
仮想怪獣のホログラムが掻き消え、
静寂と、非常灯の薄暗い光だけが残る。
「……ッ、何しやがる!! オペレーター、誰の許可で——」
怒りに任せて振り返った鳴海の視線の先。
コントロールパネルの前に立っていたのは、オペレーターではなかった。
「夜分遅くまで、ご苦労なことですねぇ」
「……鳴海隊長」
つづく
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!