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—— 第3部隊副隊長・保科宗四郎
「夜遅くまでご苦労なことですねぇ、鳴海隊長」
聞こえるように呟いてから、
パネルから手を離し、暗がりの中で息を乱す男を見据える。
会議のため第一部隊の基地に滞在していた保科は、たまたま地下から漏れ聞こえる異常な駆動音に気づき、足を運んだのだ。
……….そこにいたのは、「日本最強」の異名を持つ男の、あまりにも痛々しい姿だった。
「……おかっぱ。テメェ、何の真似だ」
「何の真似も何も。そのままやったらアンタ、過労で心臓止まってましたよ」
ゆっくりと、非常灯に照らされた訓練室の中へ足を踏み入れていく。
「………その手。震えて、銃剣の柄もまともに握れてへんやないですか」
「……ッ、うるせぇ! ボクはまだやれる! 電源を入れろ!!」
声を荒らげる鳴海隊長。
その目は血走り、ギリギリと奥歯を噛み締めている。
普段の、ゲームに負けて喚き散らしている子供のような姿はどこにもない。
……ただ、ひたすらに自分を罰しているような、悲痛な顔だった。
(きっと、引きずっとる、、)
四ノ宮長官の、死。
防衛隊全体に落ちたその影は、彼にとって、どれほど巨大で残酷なものだったか。
……想像に難くない。
「……電源は入れません」
鳴海隊長から数歩離れた場所で、僕は立ち止まった。
「今のアンタは、ただのヤケクソや。そんなボロボロの体で刃振り回して、誰が喜ぶんですか」
「それとも何ですか?……ネットの声でも気にしてはるんですか」
鳴海隊長の肩がピクッと揺れる。
(…..図星か。)
保科「アホらしい。顔も名前も出さへん外野の言葉なんか、便所の落書き以下ですわ。そんなもんに踊らされて自滅するなんて、四ノ宮長官が知ったら……」
鳴海「テメェに何が分かる!!」
ドンッ! と
鳴海隊長が、僕の胸ぐらを掴み上げた。
スーツの重みと、殺気じみた覇気が、体にビリビリと伝わってくる。
「外野の言う通りなんだよ!! ボクは間に合わなかった! 長官を死なせておいて、何が『最強』だ……ッ!!」
ギリ、と胸ぐらを掴む手に力がこもる。
「結果を示さなきゃ、最強でいなきゃ、ボクは……あの人に、顔向けできないんだよ……ッ!!」
絞り出すような声。
ずっと、ずっと隠し続けてきた血の滲むような本音。
(……ああ。ほんまに、似た者同士やな)
保科は小さく、自嘲気味に息を吐く。
救えなかった命。
手の隙間から零れ落ちていった命。
その重みを知っているのは、アンタだけやないんですよ。隊長。
(鳴海視点)
なぜ黙る。
「……」
胸ぐら掴んで、声を荒らげるボクに対して。
目の前のおかっぱ頭は、抵抗するでもなく、ただ静かに、その細い目を開いた。
初めて見た、その真紅の瞳。
その射抜くような深い目に、一瞬動きを止める。
おもむろに、保科が口を開く。
「……アンタが間に合わなかった分、誰かが死んだ。それは事実です」
「ッ!」
「僕も、僕が弱かったせいで、間に合わんかった命がいくつもある。……だから、アンタが自分を許せん気持ちは、痛いほど分かります」
保科は、ボクの腕をゆっくりと、だが力強く掴み返した。
「でもね。四ノ宮長官が命を賭けて残した『日本の最強』が、こんな暗い地下室で、己の無力さに潰されてぶっ倒れたら……それこそ、長官の顔に泥塗ることになるんとちゃいますか」
「……」
「アンタは、立たなあかんのですよ。自分の足で。誰かに頼るんやのうて、自分で自分を律して」
その言葉は、刃のように鋭く。
だが、不思議とボクの胸の奥の、一番痛いところを正確に縫い合わせていくようだった。
「……最強なんやろ。鳴海弦は」
こちらをまっすぐ見据える目。
その目から、視線を逸らすことができなかった。
胸ぐらを掴んでいた手から、ゆっくりと力が抜けていく。
カラン……。
握りしめていた銃剣が、乾いた音を立てて床に落ちた。
(またもや)つづく
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