テラーノベル
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魔界の昼下がり。FORSAKEN本部の厨房には、珍しく穏やかな仕込みの時間が流れていた。
肉の焼ける音。煮込みソースの香り。ジョンドゥのミキサーも、今日は控えめに低速回転している。
「……そこ、火加減落とせ。ソースの粘度が鈍る」
「はいはい、了解だよ1eggs」
ジョンドゥは満面の笑顔のまま頷き、素直に火力を調整した。
普段なら無駄に距離を詰めてくるところだが、今日は比較的大人しい。
――その理由は。
「ギャハハ、ジョンドゥって本当に柔らかいねぇ」
調理台の端に腰掛けたホスフォラスが、面白半分でジョンドゥの頬を指でむにむに押していたからだ。
「ほら見てよ、この戻り方。高級クッションじゃん」
「そうかな? 発酵具合は結構こだわってるよ」
「へぇ〜。じゃあもっと押していい?」
「痛くなければ別に――」
「……おい」
低い声だった。
ホスフォラスが顔を上げる。
数メートル先。
ハーブを刻んでいた1eggsの手が止まっていた。
金色の目だけが、じっとこちらを見ている。
「ん? 何、骨野郎」
「……仕事の邪魔だ。遊ぶなら外でやれ」
いつもの怒鳴り声ではない。
妙に低く、静かな声音だった。
だがホスフォラスは気にしない。
「え〜? 別にいいじゃん。ジョンドゥも嫌がってないし」
そう言ってまたジョンドゥの肩に触れようとした、その瞬間。
カンッ!!
乾いた金属音が響いた。
「痛ぁっ!?」
ホスフォラスの額に、金色のフライパンの底が見事に直撃した。
派手に椅子から転げ落ちたホスフォラスが、涙目で頭を押さえる。
「ちょっっ!? 何すんだよ急に!」
「ベタベタ触んなって言ってんだろ」
1eggsはフライパンを肩に担いだまま、不機嫌そうに睨み下ろした。
「そいつ、今仕込み中なんだよ。発酵状態が狂ったらどうすんだ」
「いや意味わかんないんだけど!? 触ったくらいで変わる!?」
「変わる。俺の助手は繊細なんだよ」
その言葉に。
ジョンドゥの動きが止まった。
「……助手」
「……あ?」
「今、“俺の助手”って言った?」
しまった、という顔を1eggsがした。
だがもう遅い。
ジョンドゥの白い顔がじわじわ桃色に染まり、ミキサーの回転数が静かに上がっていく。
ブォォン……
「あはは……そっか……」
ブォォォォン……!!
「1eggs、僕のこと、ちゃんと自分のものって思ってくれてたんだね……!」
「違ぇよ!! 話を飛躍させんな!!」
「他の人に触られるの嫌だったんでしょう!?」
「衛生管理上の話だ!!」
「嫉妬だ!!」
「違う!!」
ミキサーがさらに唸る。
厨房の棚がガタガタ震え始め、鍋蓋が跳ねた。
ホスフォラスは床に転がったまま顔を赤くしている。
「うわぁ……熱ぅ……」
「1eggs、もっと言って? “ジョンドゥは俺専用”って」
「言うか!!」
「“他の奴に触らせたくない”って」
「だから違――」
「嬉しいなぁ」
ジョンドゥは本当に幸せそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、1eggsの顔がまた赤くなる。
「っ、近づくな!! 暑苦しい!!」
「でも怒ってくれた」
「……うるせぇ」
「嫉妬してくれた」
「してねぇっつってんだろ!!」
その時。
「……なるほど」
低い溜息が、厨房の入口から聞こえた。
アズールだった。
大量の書類を抱えたまま、死んだ魚のような目で現場を見渡している。
「ホスフォラスは業務妨害。1eggsは暴力。ジョンドゥは騒音。まとめて減給ですね」
「待っ――」
「あと、厨房設備への振動被害も確認しました」
アズールは淡々とメモを書き込む。
「修繕費も追加で請求します」
「理不尽だろ!!」
「私の胃薬代も含みます」
「含めんな!!」
その横で、ジョンドゥだけが嬉しそうだった。
「ねえ1eggs」
「今度は誰もいない所で、もっと嫉妬して?」
「二度としねぇ!!」
「じゃあ僕、また誰かに触られようかな」
「お前わざとか!!?」
再び厨房に怒号が響く。
アズールは額を押さえ、ホスフォラスは笑いながら床を転がり、ジョンドゥは上機嫌でミキサーを鳴らす。
そして1eggsだけが、真っ赤な顔のまま必死に否定を続けていた。
コメント
2件
やっぱ1eggはツンデレだね。確定。
#エリオット
あおあお
8
#エリオット
あおあお
48