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春って、もっとのんびりできるもんだと思ってた。
けど、オレは今、教室の真ん中で、なんかよくわかんない紙を持たされてた。
「……は? 生徒会長?」
女子たちがニコニコしながらうなずく。冗談だと思った。でも、その手にはガチの推薦届。しかも、すでに推薦人の欄、名前でびっしり埋まってる。
「いやいや、ちょっと待って。オレ、そういうの無理だって。頭悪いの、自分が一番わかってんのに」
数学のテスト、前回ギリ赤点。漢字テストは読みはできても書けない。
先生からも「お前はまずノートを取るところからだな」って真顔で言われるレベル。
そんなオレが、生徒会長?
「でもさぁ、目黒くん、顔はいいじゃん。うん、顔はマジで最高だから。見てるだけで得するし」
「壇上であの顔で挨拶されたら、誰でも話聞くって。絶対票集まるよ?」
顔。顔って。
……オレ、そんなに顔のこと言われても嬉しくないっていうか、むしろ複雑なんだけど。
「いや、オレ、しゃべるのとか得意じゃないし。間違えたら恥ずかしいし……」
「大丈夫、失敗しても『あの顔でミスるとか可愛い』ってなるから! ほら、ハンコ!」
ぐいっとボールペンを差し出されて、逃げ道がない。
オレはしばらく考えた。断ればいい。でも、ここで「やりません」とか言っても、また面倒になる気がした。
「……ほんとにいいの? オレ、ほんとバカだよ?」
「だからそれでいいの! 顔で補えてるから!」
補える……のか? いや、補っていいのか? っていうか、生徒会ってそんな軽いノリで決まるの?
しぶしぶサインして、推薦届を受け取る。
その瞬間、女子たちは「よっしゃー!」って盛り上がってた。
なんかもう、笑うしかなかった。
顔だけで持ち上げられて、気づいたらオレ、生徒会長になってた。
不安しかないけど。……ま、いっか。
今さら断る勇気もないし、たぶん、誰かが助けてくれるだろ。
そう、オレはおバカだけど——顔はいいらしいから。
――――――――――――
生徒会室のドアを開けた瞬間、プリントの山に目が点になる。
「……これ、全部やんなきゃダメ?」
「はい、生徒会長なんで♪」
書記の女の子がにっこり笑って返す。
いや、にっこりされても無理。量とかそういう問題じゃなくて、内容がまずわからん。
スケジュール管理? 予算案? 提出期限?
オレの頭の処理能力を完全にオーバーしてる。
「えーと……この“決裁印”って、どこ押せばいいの?」
「ここです、会長♡ 代わりに押しておきますね♡」
「助かる……マジで神……」
本当なら怒られてもおかしくないミスも、「目黒会長、また間違えてる〜!」って、なぜか笑って許される。
職員室でも、最初こそ「大丈夫なのかこの子……」って顔されてたけど、今じゃ「まぁ目黒くんなら仕方ないか」と先生たちも諦めモード。
うん、正直……顔で得してるの、認めざるを得ない。
「会長、次の全校集会の原稿、これでいいですか?」
「……ん、あ〜、うん。たぶん大丈夫……だと思う。読めない漢字あるけど」
「そこはルビ振っときました♡ かわいく読んでくださいね♡」
かわいく……読めって何だよ。でも、ありがとう。ほんとみんなが優しいおかげで成立してる。
仕事終わりの夕方。生徒会室でひとり、アイスティー飲みながらぼーっとする。
「……こんなんで、いいのかな」
生徒会長としての“中身”が全然ともなってないのは、自分が一番よくわかってる。
でも、だからって辞める勇気もない。期待されてるのか、顔だけで持ち上げられてるのか、もうよくわかんない。
でも——
「ま、いっか。顔だけでも、やれるとこまでやってみっか」
生徒会長としての自覚は薄くても、
とりあえず、笑ってごまかすスキルだけは、ちょっとずつ上がってきた気がする。
―――――――
「会長〜、この資料、持ってってもらえます?」
「え、どこに?」
「3年4組です♡って言っても私、行くんでいいですよ♡♡」
頼んできたくせに、何で自分で行くの?って聞く間もなく、資料を抱えて足早に出て行く。
あとに残るのは、女子たちの「は〜、今日もかっこよかった……」というため息と、よくわからない達成感。
オレ、今なにかした?
「目黒くんって、生徒会長のとき、制服の着方がちゃんとしてるのもいいよね〜」
「うんうん、学ラン閉じてるのエモい!」
廊下を歩けば、すれ違うたびにそんな声が聞こえる。
誰かが提出し忘れてたプリントを拾って届けただけで、「気が利く」「優しい」「抱かれたい」とか、よくわからん称賛の嵐。
しかも、オレがやってる仕事の半分くらいは、書記とか副会長が影で全部やってくれてる。
わかってるんだよ、本当の意味で“回してる”のはオレじゃない。
それでも——
「会長ってだけで、許されるんだな」
苦笑いしながら呟くと、隣の副会長が小さく吹き出した。
「そりゃあの顔面でにっこりされたら、みんな『まあいっか』ってなるもん。無敵だよ、目黒くん」
「無敵……ねぇ。なんかズルくない?」
「ズルいよ? でも、それが目黒会長の存在意義だから」
言い切られたのに、反論できなかった。
そう。俺は中身で信頼されてるんじゃない。顔面で許されてるだけ。
なんとなく後ろめたい。
けど、それ以上に——この“甘やかされる居心地の良さ”に、慣れてきてしまってる自分がいる。
「……あ〜、そろそろほんとの意味で怒られそうで怖いんだけどな…」
冗談まじりにぼやいた言葉が空に舞って消えていった気がした。
――――――――――
春も終わりかけたある日。昼休みの校内放送で「本日、2年5組に転入生が来ました」とアナウンスが流れた。
それを聞きながら、生徒会室でアイスティー飲んでた俺は特に気にもとめてなかった。
——まさか、そいつが数日後、自分にケンカ売ってくるとは思ってなかった。
「生徒会長さんやんな? なんや、話とちょっとちゃうなぁ」
放課後。生徒会室の前でプリントを抱えて廊下を歩いてたら、不意に関西弁が飛んできた。
振り向くと、髪をちょっと明るめに染めた男子が、ポケットに手を突っこんでこっちを見てる。制服もゆるく着崩して、ネクタイも曲がってる。
“ああ、これが噂の転校生か”ってすぐにわかった。
「話って?」
「いや、生徒会長って聞いてたから、もっとカッチカチの優等生想像してたんよ。でも実際は……ちゃうねんなぁ。なんかフワフワしてるし、漢字読めなさそうな顔してるし」
……初対面でこの言いぐさ。なんなんコイツ。ていうか大体合ってる。
「ま、それでも許されるんやろ? 顔ええから。……ちゅーか、それだけやんな?」
挑発するような目で見上げてくる。
不思議と腹は立たなかった。むしろ、“きたな”って思った。
「……あー、うん。よく言われる。顔だけで生徒会長やってます」
あえて肯定してやると、そいつはちょっと目を丸くして、すぐに鼻で笑った。
「開き直ってるやん。ほんまズルいな。そんなんで、チヤホヤされて、ええ気になってんのちゃう?」
「まぁ、実際助かってるしね。優しい人多くて」
言いながら、少し笑ってみせると、相手の目がピクリと動いた。
たぶんこういう反応、気に入らないんだろうな。
「……関西から来た、向井・康二や。よろしくな、生徒会長さん」
「目黒・蓮、生徒会長です。こっちこそ、よろしく」
差し出された手は、軽く握ったふりしてすぐ離された。
そのあとすぐ向井は背を向けて、ポケットに手を突っこんだまま歩き去っていく。
その背中を見送りながら、俺は静かに溜息をついた。
今まで誰にも正面から言われなかった“顔だけ”って言葉を、あんなまっすぐぶつけてきたやつ。
たぶんアイツ、こっちがヘラヘラしてるとイラつくタイプだ。
面倒くさそう。
「……関わらんほうがいいな、アレは」
初対面からケンカ腰で噛みついてきた向井康二に、オレは早々にそう判断した。
別にキレたわけでもない。単純に、めんどくさそうだった。
オレのことを“顔だけの生徒会長”って言い切るくらいだから、価値観もまるで違う。絶対うまくやれる気がしない。
だから、その後数日は、できるだけ視界に入れないように過ごしてた。
……なのに、あっちが引かなかった。
「おー、生徒会長さん、今日も漢字読めたん?」
廊下ですれ違いざまに話しかけられる。
「授業中、めっちゃうとうとしてたやん。会長の自覚あんの?」
購買の列で後ろから小声でツッコまれる。
「今日のネクタイ、ちょっとだけ曲がってんで? 顔は整ってんのに残念やな〜」
生徒会室のドアを開けた瞬間、なぜか向こうから先に声が飛んできた。
……なんで、いつもいるんだよ。
「お前、生徒会関係ないだろ。何しに来てんの?」
ある日とうとう聞いてみると、向井は飄々と肩をすくめた。
「いや別に? 空いてたし、静かやし。あと、ちょっと生徒会の手伝いしろって先生に言われたし?」
「ほんとに?」
「……ま、会長の仕事っぷり見てたら、手伝わなヤバそうやったからってのも、ちょっとあるけどな」
ニヤッと笑う顔がなんかムカつく。
でも、確かに手伝ってくれてる部分もあるし、文句を言いづらいのがまた悔しい。
「オレに構ってても、面白くないと思うけど」
嫌味でも皮肉でもなく、ただ事実としてそう言うと、向井はちょっと意外そうな顔をした。
「いや、面白いで? なんやろ……あんた、想像より“普通”で。拍子抜けやけど、その分ちょっと突きたくなる」
「突かないで。放っておいてほしい」
「えー、こんな顔面のやつが自分から放っておけって?それ無理やで。目立ちすぎや」
「……顔で損してる気してきた」
マジで。
まさか、外見だけじゃなくて、こういうやつまで引き寄せるとは思わなかった。
オレはただ、静かに生徒会の仕事して、ほどほどに周囲に助けられながら、何も考えずにやり過ごしたいだけなのに。
――――――――――
生徒会室のドアを開けたら、そこに“いるはずのないやつ”が当然のように座ってた。
「なんでお前が先に来てんの?」
「え、今日も手伝い頼まれてんで?」
「それ、生徒会じゃなくて先生の仕事だろ。職員室行けよ」
「え〜、こっちの方が空調ええし、静かやし、あと生徒会長見てるのも楽しいし?」
「うるさいな……」
プリントを机に置こうとすると、向井がひょいっと横から手を伸ばして持っていく。
「これは、会長がまた漢字読まれへんで困るやつちゃう?」
「読めるし。読もうとしてたし」
「“けつさい”の“けつ”に“さい”って、どっちがどっちかいつも迷ってるやろ?」
「……正解がどっちか今は答えないけど、迷ってないし」
「ほら、黙るってことはわかってへんやん〜」
「ほんとお前、うるさいな……生徒会室、静かにしろよ」
「静かにって言うなら、まず会長が“黙ってるだけの置物”になってくれたら助かるわぁ」
「置物じゃないし!……むしろ顔だけで空間の美観保ってるって言われてるし!」
「それ、逆に自分で言う!? すごいな、そのメンタル!」
向井が両手あげてびっくりしたふりするから、思わず噴き出しそうになる。
なんでこいつ、いちいち芝居がかってんだよ。
「もういいよ、じゃあ“置物”してるから、仕事は全部お前がやれよ」
「え、マジ? じゃあプリント仕分けと、議事録の清書と、あと先生への報告——」
「冗談に決まってんだろ!」
「ちぇ〜」
プリントを取り合いながら、いつの間にか隣の席で一緒に仕事してる自分に気づいて、ちょっとだけ肩が落ちた。
——なんか、また負けた気がする。
「……マジでお前、ちょっかい出す以外に趣味ないの?」
「趣味は目黒会長を困らせることです。ええ趣味やろ?」
「悪趣味の間違いだろ」
「でも、笑った。はい、勝ち〜」
向井が得意げにニヤッと笑う。
悔しいけど、なんかこういうやりとり——嫌いじゃないかも。
――――――
昼休み。生徒会室に戻る途中、廊下の角で女子グループに呼び止められた。
「あ、会長〜!」
「ん?」
「最近、あの関西の転校生くんと仲いいよね? 向井くん?」
——は?
「え、いや、全然仲良くないけど」
即答したら、女子たちは「え〜?」ってニヤニヤ顔を見合わせてくる。
「だってこの前、目黒くんの机に向井くんが勝手に座ってたよ?」
「しかも2人でプリント取り合いっこしてたし〜。かわいかった!」
「は? いや、ただの業務連絡。ていうかアイツ、勝手に来んの。オレは別に……てか、むしろ迷惑してるし!」
あまりに全力で否定しすぎたせいか、逆に面白がられたらしく、「仲良くないアピールしてるのがもう仲いい〜」とか言い出した。
なんなんだよ、ほんと……。
そう思いながら生徒会室のドアを開けた瞬間。
「おつかれ〜! あ、会長おった!」
「……な?」
そこには当然のようにイスに座ってプリントをいじってる向井康二の姿。
「え、なんでいるの?」
「今日も手伝い頼まれてんねん。先生から。“目黒くんじゃ不安なんで〜”って」
「言い方悪すぎるだろ」
「でも間違ってはないやろ?」
憎たらしい笑顔にツッコむ気力もなくて、イスに座ってため息をつく。
「つーか、お前ほんと暇だな」
「逆に言えば、会長が俺の暇つぶしってことやな」
「その理屈やめろ、なんか惨めになる」
向井はゲラゲラ笑いながら、持ってたプリントをスッとオレの前に差し出してきた。
「とりあえず仕分け手伝え。仕事せんと、“仲いい”とかまた言われんで?」
「誰のせいだよ……」
思わずぼそっとこぼすと、向井がいたずらっぽくウインクしてきた。
「仲良し否定するん、必死やったなぁ〜。あれ、逆に可愛かったで?」
「マジで来るな、お前」
そう言いながらも、プリントを受け取って、隣に座る自分がいる。
……これ、どっちが折れてんだ?
外では全力否定、でも中では隣にいる。
どっちだよ、俺。
―――――――――――
その日はいつもと変わらない放課後だった。
生徒会室でプリントの確認をして、職員室に提出しようと廊下を歩いていた時だった。
「……おい、生徒会長さんよぉ」
角を曲がった先、薄暗い非常階段のあたり。
数人の生徒が壁にもたれていて、そのうちのひとりが、オレを指さして呼び止めた。
——見たことない。あきらかに、空気が違う。
「ちょっと話あんだけど?」
「……なに?」
「聞いたんだけどよ、お前、会長だからって“見て見ぬふり”してるらしいな。俺らのこと」
「いや、そんなつもり——」
「つもりとか関係なくね? 生徒会長ってのは、正義の味方なんじゃねぇの?」
ニヤニヤ笑いながら、ジワジワ距離を詰めてくる。
足がすくんだ。
頭のどこかで「何か言わなきゃ」と思っても、言葉がうまく出てこない。
生徒会長のくせに、情けねぇ。
視線を向けても、誰も助けてくれない。
遠巻きに見ている生徒たちが数人いるのに、目が合った瞬間、すぐに逸らされた。
——やっぱり、オレは“顔だけ”の存在なんだ。
「なぁ、黙ってたら通じると思ってんのか?」
肩を掴まれた、その瞬間だった。
「おーい、生徒会長〜! あ、ここにおったんか〜!」
階段の上から、やけに明るい声が響いた。
見上げると、向井康二が、わざとらしいくらいの笑顔でこっちに手を振っていた。
「先生が探してたでー? 生徒会関係で“報告まだか”ってさ! 早く戻ってこいって言われたわ〜」
「……誰?」
「オレ? あ、生徒会の……えーっと、雑用係やわ」
適当すぎる自己紹介をしながら、向井は階段を軽やかに降りてくる。
「なんやなんや、何してんの? 会長、早く戻らな怒られんで?」
「……あ、うん」
状況もわからず、でも向井の“わざとらしさ”だけは妙に伝わってきた。
オレの腕をさっと取ると、向井は笑顔を崩さず不良たちに軽く会釈した。
「失礼しまーす。あ、ちなみにここの廊下、最近カメラ増えたらしいで?先生言うてたわ〜。トラブルとかあったらすぐ記録残るらしいし、怖いよなぁ〜」
一瞬、不良たちの表情が固まった。
その隙に、向井はオレの腕を引いたまま、スタスタとその場を離れる。
校舎の曲がり角を曲がり、誰もいない廊下に出たところで、オレはようやく足を止めた。
「……さっきの、何?」
「お前、見たらわかるやん。ガチビビってたやろ。情けなすぎて見てられんかったわ」
「……」
「つか、あいつら相手に“正面から言葉でどうにかできる”とか思ってたん?ないない。顔だけ会長が何言っても通じへんて」
「……ありがとう」
ボソッと漏れた言葉に、向井は驚いた顔をして、すぐに目を逸らした。
「……別に。会長が変なとこでボロ出すと、俺が遊ぶネタ減るからな」
「はいはい」
皮肉でごまかすその言い方が、妙に優しく聞こえた。
いつもみたいに軽口の応酬ができないくらい、心のどこかにひっかかった。
向井・康二。
ただのうるさいやつ、から——少しだけ、変わって見えた瞬間だった。
生徒会室のイスに座って、ため息をひとつ、深く吐いた。
「……やっぱオレ、ダメだわ」
昼過ぎの人気のない部屋。
さっきの出来事が頭から離れない。
本物の不良を前に、何もできなかった。
目を合わせることすら怖くて、言葉もうまく出なくて。
結局、向井に助けられた。
“顔だけ”——あの言葉が、こんなに刺さるとは思わなかった。
イスに背中を預けて、天井をぼんやり見上げる。
こんな気分、久しぶりだ。笑えない。
「……何しょげてんの」
声がして、ドアの方を見ると、向井がプリントの束を持って立っていた。
「うわ、鍵閉めとけばよかった」
「失礼やな。来て欲しそうな顔してたくせに」
「してねーし」
向井は勝手にイスを引いて、オレの机の向かいに座る。
手元のプリントをトントン整えながら、ふと視線をよこしてきた。
「……今日のやつ、そんな気にすんなや」
「気にするだろ、普通」
「気にしても実力上がるわけちゃうし、意味ない」
「いや、だからって開き直れって?」
「違う。落ち込む時間あるなら、どう“ごまかすか”考える方がマシやってこと」
目を細めて、オレは苦笑いする。
「ごまかすって、お前なぁ……」
「顔だけって言われんの嫌なんやろ?」
「……まあ、そりゃな」
「なら顔使えよ。堂々と。せっかく持って生まれた武器なんやから」
「……」
「それでやれるとこまで行って、それで困ったらまた考えたらええやん。とりあえず、今は“使える手”で戦っとけ」
ぶっきらぼうで、やけに投げやりな言い方だったけど。
その中にある“諦めてない感じ”が、なんかずるかった。
「……お前って、意外と根性論なんだな」
「ちゃうわ。知恵とビジュアルと根性、バランスよく使わな生き残れへんだけや」
「うるせーよ……」
それでも、少しだけ、胸の中に詰まってたもんが軽くなった気がした。
向井・康二。
うるさいし、面倒だし、勝手だし、うざいけど——
でも、たぶんオレが思ってたより、ずっとちゃんと“見てるやつ”なんだ。
「……さっきのお礼、ちゃんと言ってなかったな。ありがとな」
「うん、まあ。俺がいなかったら、たぶん今ごろボコられてたやろな〜」
「……やっぱ取り消すわ、お礼」
「早ッ!」
生徒会室に笑い声が戻った瞬間、ちょっとだけ世界がましに見えた。
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