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「じゃあ、俺も帰るが」
と中で泰親の耳を引っ張っていた八神が言う。
中原が言っていたので、これ以上伸びないのか気になったらしい。
泰親は渋い顔をしながらも、されるがままになっていた。
「カフェの話は進んでるのか」
と八神に問われ、
「いや~、それが一個問題がありまして」
とのどかが言うと、貴弘が、
「……一個どころじゃないだろう」
と苦い顔をして言ってくる。
まあ、確かに。
だが、他のことはなんとかなりそうなのだが。
ひとつだけ、大きな問題があるのだ。
「自宅カフェの許可をもらうには、店舗スペースと居住スペースをはっきり分けないといけないらしいんですよ。
二階建てなら、二階を居住スペースにすればいいみたいなんですけど。
此処、平家なんで。
はっきりした仕切りが必要みたいなんです。
襖じゃ駄目なんですかね?
あと、此処、古い造りで、大きなシンクが二個あるのはいいんですが。
キッチンも、店舗用と自宅用と分けないといけないので、二箇所いるみたいなんですよね」
「ほら見ろ。
大掛かりな工事が必要だろうが」
と貴弘が鬼の首をとったように言う。
「やめておけ、カフェとか。
小洒落てたら、更にイケメンが来るぞ。
呪いにかかっていなくても」
いや、いけないのですか、イケメンの客が来ては……と思いながら、のどかは貴弘を見上げる。
「……そんな顔をしても駄目だ」
うっ、とつまった感じで、貴弘が言ってくる。
いや、どんな顔してるんだか、自分ではわからないのだが。
だが、そこで、うーん、と唸った八神が言ってきた。
「じゃあ、そこの鍵を開けろよ」
えっ?
と二人が八神を振り返る。
「俺は帰って寝るだけだから、一部屋あれば充分なんだ。
此処とうちとの仕切りの鍵を開けて通れるようにしろよ。
ああいや、閉めたままでも、あっちが居住スペースですって言えばいいのか。
どうせ、一軒の家なんだから、うちを居住スペースってことで申請すればいいじゃないか」
「えっ、でも、それでは申し訳ないです」
とのどかが言うと、
「そうだな。
お前がカフェの話をしてきたとき、迷惑かけないようにしますから、とかいう幻聴が聞こえた気がしたんだが。
まあ、お前がうち側で寝起きしても、俺は困らないから、別にいい」
と八神は言う。
神っ。
神っ。
とのどかと泰親は祈るように手を合わせ、八神を見た。
「……いや、神はお前じゃないのか」
と八神は泰親に言うが、
いや、その人は神主だ。
何故、一緒に、アーメンな感じで祈っているのかはよくわからないのだが……。
「待て」
勝手に八神が話をまとめようとしているところに、貴弘が割り込んできた。
「それじゃ、お前とのどかが一緒に住んでるみたいじゃないか」
いや、今もある意味、同じ家に住んでるんだが……と思いながら、のどかは貴弘を見たが。
人の話を聞かない八神は、すでにその話をまとめようとしている。
「そうだ。
じゃあ、お礼に、カフェが出来たら、朝食とか安く作ってくれると助かるな。
どうも栄養が偏りがちで」
と言ってくる。
「それはお安いご用ですけど。
でも、申し訳ないです。
あ、安くとは言わず、タダにしますよ、朝ごはん」
「毎朝、ヨモギの雑炊とかはやめてくれよ。
まあ、身体にはよさそうだが」
ははは、と八神が笑う。
「第一、なんで雑草カフェなんだよ。
普通のカフェにしろよ」
「だって、家の前に雑草がたくさんあるのにもったいないじゃないですか」
「客が来る前に、庭は綺麗にするんじゃないのか。
そしたら、雑草何処から仕入れてくるんだ」
「大丈夫ですよ、裏にも雑草いっぱいだし」
とのどかが笑ったところで、
「いや、掃除しろ……」
と貴弘がまた割り込んでくる。
「そして、夫で大家な俺を置いて、勝手に話を進めるなっ」
いや、話に乗ってきてくれないからですよ、と苦笑いしながら、のどかが思っていると、貴弘が、
「のどかがお前と住むのなら、今日から俺も此処に住むっ」
と言い出した。
ええっ? と二人で振り返る。
「何故ですか」
と言うのどかに、貴弘は、
「今日から此処を社員寮にする」
と宣言した。
「此処をかっ。
どんな福利厚生のなってない会社だっ」
と八神が叫ぶ。
いや、それだと妻の福利厚生もなってないことに……と思いながら、のどかは言った。
「此処を社員寮とか無茶ですよ。
別荘とか保養施設ならまだわかりますが」
「わからない」
「そっちの方がわからない。
なにも休まらない感じがする」
と貴弘と八神に言われてしまったが。
「っていうか、社長が社員寮に住むとかどうなんですか」
「いいじゃないか。
うちは、まだまだ社員も少ないし」
「大家が住むとかどうなんだ」
と八神が言う。
「いいじゃないか、点検も兼ねて。
っていうか、なんだ。
お前たちは俺を追い出したいのか。
のどか、お前は俺じゃなくて、その男と住みたいのか」
と貴弘が詰め寄ってくる。
いや、そうじゃないですよ。
猫耳神主さんや八神さんと違って、貴方と住むのは、なんだか照れてしまいそうだからですよ、と思っていたが、言わなかった。
……言うべきだったかもしれないが。
「ともかく、今日から此処はうちの会社の社員寮にする」
と貴弘は宣言した。
「待て。
刑事の俺が住んでるが」
と言う八神に、
「防犯上いいんじゃないか?」
と貴弘は言い返す。
えーと、それだと、まず、何処になにを申請したらいいのやら。
此処、雑草カフェ?
社員寮?
社員寮の食堂?
「……誰でも入れる社員寮の食堂兼雑草カフェなんですかね」
とのどかは力なく呟いた。
なにか思っていたのとは違うような、と思うのどかに貴弘が言う。
「いいじゃないか。
これで、毎日、一定数の客は見込めるわけだから」
「一定数の客って……」
社長と八神さんと、あと、泰親さんにお供えものするくらいしか需要がないような。
他の社員の人たちが、素敵なワンルームマンションを捨てて、この社員寮に来ることなどなさそうなのだが……。
「でも、毎食、雑草は困るな」
と男たちの中では、すでに話は決まったらしく、そんな文句を言い出した。
私が雑草カフェを開いて自立する話が、何故、横滑りしてこんな話に……と思いながら、
「雑草。
戦のときには貴重な食料だったんですよ……」
とのどかは力なく呟く。
二人に、
「今、戦国時代じゃない」
と言い返されてしまったが。