テラーノベル
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会見場の照明は、やけにまぶしかった。
「――ストロベリームーンは、本日をもって解散します」
静かな声。
でも、その一言で、
すべてが終わった。
モカという“太陽”を失ったストロベリームーン。
5人で描いてきた物語は、そこで幕を閉じた。
コトコは、マイクを握りしめながら、小さく頭を下げた。
「……ありがとうございました」
その瞳に、涙はなかった。
ただ、
どこか遠くを見つめるような静かな光が宿っていた。
数か月後。
テレビの中のコトコは、変わらない衣装で、変わらない笑顔で歌っていた。
魔法少女のまま。
アイドルのまま。
でも、
もう“グループ”ではない。
《ドラマ出演決定!》
《バラエティ初レギュラー!》
人気は、むしろ前よりも広がっていた。
「お疲れさまです、心音お嬢様」
楽屋で、霧島が静かに頭を下げる。
「ありがとう、霧島さん」
コトコは、ふっと笑った。
その瞳には――
淡い赤色の月のような光が、ほんの一瞬だけ映り込んだ。
誰も、その意味に気づかないまま。
宝生家の朝は、いつも静かだ。
「お二人、起床のお時間です」
霧島の声で、こあも、こまも目を覚ます。
「……」
声は出ない。
でも、
意識ははっきりしている。
(……今日も、霧島がいる)
(……ずっと一緒)
ふたりきりの時間は、一度もない。
屋敷には、隣には、必ず誰かがいる。
特に――
霧島。
「ミルクの温度は、38度に調整しております」
完璧な執事。
隙がない。
(……話せない)
(……全部、心の中だけ)
こあは、そっとこまを見る。
こまは、小さくまばたきをした。
それだけで、“通じる”。
そんな気がする。
午後。
仕事が早く終わった日。
コトコは、屋敷に帰ってくると双子の部屋に直行した。
「ただいま~」
霧島がいない。
珍しい時間。
コトコは、少しだけ声のトーンを変える。
「今日はね、台本読みで噛みまくっちゃったの!」
「“魔法少女の決め台詞”で“おやつの時間です”って言っちゃって!」
こあの目が、わずかに見開く。
(……え)
こまも、少しだけ驚いた顔。
普段のおっとりした“お嬢様アイドル”とはまるで違う。
「スタッフさん、お腹抱えて笑ってたよ~」
くすっと笑うコトコ。
その瞳には――やっぱり、あの“月”のような光。
(……この人)
(……こんな顔も、するんだ)
霧島が戻ってくると、コトコはすっと姿勢を正した。
「おかえりなさい、霧島さん」
さっきの茶目っ気は、まるで幻のように消える。
夜。
リビングのテレビに、
コトコが映る。
《今の原動力は?》
「……支えてくれる人たちです」
カメラの向こうで、微笑む。
その瞳に、赤い月が宿っているように見えた。
(……照らされてる)
(……誰かに)
こあの胸が、静かにあたたかくなる。
(……コトコ)
(……あなたは)
(……ひとりじゃない)
こまも、じっと画面を見つめていた。
夜の子ども部屋。
霧島が、静かにドアを閉める。
「おやすみなさい」
廊下の足音が遠ざかる。
――でも、
完全にふたりきりにはならない。
カメラ。
センサー。
使用人の気配。
「……」
こあは、天井を見つめる。
(……話したい…コトコ、こま…)
(……でも、無理)
こまは、こあの手をそっと握った。
(……大丈夫)
(……伝わってる)
言葉はなくても、想いはある。
その夜。
庭に、ストロベリームーンが浮かぶ。
赤く、やさしい光。
コトコは、その月を見上げながら
小さくつぶやいた。
「……今日も、きれい」
その瞳に映る月は、どこか“生きている”ようだった。
まるで――
誰かの想いがそこに宿っているかのように。
誰も、その意味を知らない。
ただ、
コトコは光っていた。
照らされて。
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