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第3話「月の下で、ふたりの約束」


雨が、降っていた。


宝生家の広い庭は、 しっとりと濡れた芝生に 街灯の光が滲んでいる。

その、中央に、 コトコは立っていた。

白いワンピース。

ほんの 少しだけ、

お腹を気にするような仕草。


「……霧島さん」

背後で足音が止まる。

「はい、お嬢様」

いつもの冷静な声。

いつもの完璧な姿勢。

けれど、

コトコの表情はいつもより少しだけ強張っていた。


言えなかったこと


「……今日、病院に行ってきました」

霧島の目が、 ほんのわずかに細くなる。

「結果は――」

「……赤ちゃん、できてました」

雨音が、 一瞬だけ、遠くなったように感じた。

「……」

霧島は、 すぐに言葉を返さなかった。

「……驚き…ませんか?」

コトコは、少し不安そうに笑う。

「いえ」

霧島は、

深く一礼した。

「お嬢様のご決断、 私は尊重いたします」

その言葉に、 コトコの肩から ふっと力が抜けた。


アイドルとして、母として

「……怖いんです」

コトコは、 空を見上げた。

「私は、アイドルで…… ファンのみんなに“夢”を見せる存在で……」

「でも、 この子のことも…、 手放したくない」


雨雲の隙間から、 赤みがかった月が顔を出す。

――ストロベリームーン。

「……欲張り、ですよね。」

霧島は、静かに首を振った。

「いいえ。それは“守りたいもの”が 増えただけです」

コトコの目に、 小さな光が宿る。

「……霧島さん」

「はい」

「この子たちを……守ってもらえますか?…いっしょ__」


執事の誓い

霧島は、 片膝をついた。

「宝生家執事、霧島。 命に代えても お守りいたします」

その言葉は、 まるで誓約のようだった。

「……ありがとうございます」

コトコは、 そっとお腹に手を当てる。

「ねえ…… あなたたち」

「ママは、 まだ歌いたいんだって」

「でもね、 あなたたちのことも、 絶対に守るから」

霧島は、 その姿を静かに見守っていた。

(……この子たちが)

(……お嬢様の“光”になる)


モカの影

その頃――

コトコのスマホが 小さく震えた。

画面には、 “モカ”の名前。

《最近元気ないね。 何かあった?》

コトコは、 少し迷ってから 短く返信した。

《大丈夫。 また一緒に歌おうね》

送信。

画面が暗くなる。

コトコは、 胸の奥が

少しだけ痛んだ。

(……言えない)

(……誰にも…モカにも…)

(……今は)


未来の話

「……これから、どう…なりますか?」

コトコは、霧島に問いかけた。

「世間には “体調不良”として 発表されるでしょう」

「お父様やお母様には?」

「私から ご説明いたします」

コトコは、 小さく笑った。

「霧島さんがいてくれて よかった」

「……本当です」


その瞳に、 またあの月のような光。

「この子たちが生まれたら……“ふつうの生活”も させてあげたい」

「幼稚園に通って、 お友達と遊んで……」

「……私、 ステージの上にいなくても、 ちゃんと“ママ”でいたい」


霧島は、はっきりと答えた。

「その未来、 必ず守ります」


静かな約束


雨は止み、 雲の向こうに 赤い月が浮かんでいた。

ストロベリームーン。

コトコの瞳に、 その光が やさしく映る。

「……ねえ、霧島さん」

「はい」

「この月_ストロベリームンって、 “終わりと始まり”の象徴なんですって」

「私も…… そうなれるかな」

霧島は、微笑みはしなかった。

だが、

その声はやさしかった。

「お嬢様は、 すでに“始まって”います」

コトコは、 そっと微笑んだ。


そのお腹の中で――

ふたつの命が、静かに息づいていた。

ストロベリームーンのその先で

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