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第31章「虚無の塔と、囁く者たち」
――その日、空が泣いた。
雨ではなく、“記憶の雫”と呼ばれる謎の粒子が空から降り始めたのだ。
セレナが最初に異変に気づいた。
セレナ「……この粒、普通の雨じゃない。魔力の反応があるわ」
ゲズはすぐに剣を握る。
粒子は空からではなく、“上空に浮かぶ見えない塔”から放たれていた。
やがて空間が歪み、空の一点がねじれる。
ゲズ「……見える。あれが“虚無の塔”か」
現れたのは、黒と紫の石で構成された不気味な塔。
それは空間を裂くように“虚空”から生まれた、記憶と幻影の牢獄だった。
⸻
【塔の中で】
ゲズとセレナは塔に足を踏み入れる。
中は異様な静けさ。
壁には無数の“過去の記憶”が映し出されていた。
そして、どこからともなく“囁く声”が聞こえる。
声「……おまえは、守れなかった」
声「誰も助けられなかった」
声「また、失うぞ――今度は、彼女だ」
ゲズの瞳が揺れる。
映し出されたのは、リオンが倒れたあの日の情景だった。
その時、塔の奥からひとつの影が現れる。
⸻
【過去の幻影】
現れたのは、“幻影”として作り出されたリオンの姿。
しかし、その瞳にはかつての仲間の意志はなかった。
幻影リオン「……弱いな、ゲズ。そんな力で、何が救える」
ゲズは剣を構えたまま、動けなかった。
ゲズ「……やめろ……お前は、そんなこと言わない……!」
セレナ「ゲズ、落ち着いて!それは“本物じゃない”!」
塔は心を試す。
英雄たちの痛み、後悔、そして愛情――そのすべてを逆手にとる。
だが、セレナがそっとゲズの手を握る。
セレナ「あなたは、誰よりも戦ってる。
だからもう、自分を責めないで……」
その言葉が、ゲズの心に光を灯した。
⸻
【突破と確信】
ゲズは幻影リオンに向かって、真正面から剣を振るう。
ゲズ「……お前は俺の中にある“想い”だ。
だからこそ、前に進むために――乗り越える!」
剣が幻影を裂いた瞬間、塔全体が激しく揺れる。
記憶の囁きは止み、幻影は消えた。
そして塔の最奥には、小さな装置があった。
それは、古代文明の“通信機”であり、今は使用不能の状態。
セレナ「……これは、地球のものじゃない。別の星の……?」
ゲズとセレナは気づく。
この塔はただの幻覚装置ではない。
ルシフェルが、過去の英雄たちの記憶を利用して“精神の監獄”を築いている証拠だった。
⸻
【塔の崩壊】
塔が崩れ始める。
二人は飛び出し、空間が閉じる寸前に脱出する。
空に開いていた“記憶の裂け目”は、やがて完全に消えた。
地面に着地したゲズとセレナ。
ふたりは見つめ合い、呼吸を整える。
ゲズ「……あの幻影、心が折れそうだった。でも……お前がいたから、乗り越えられた」
セレナ「……私こそ、あの日のあなたを見てなかったら……ここにいなかったわ」
ふたりの手は、自然と重なっていた。
もう、言葉はなくても伝わるほどに。