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ー片方だけの記憶・前編ー
「英雄エクス。エクス・アルビオです。」
英雄かぁ…。
その響きがとてもかっこよく聞こえた。
優しくて、強くて、かっこよくて。
「君、年はいくつ?」
「…8歳。」
「俺は15です。あははっ、兄弟みたいだね。」
そう言って笑う彼を見て思う。
彼みたいなお兄ちゃんがいたら、優しく頭を撫でてくれて、悲しい時には慰めてくれて、危ない時に助けてくれて。
自分と7歳違うだけでこんなにもかっこよく見える彼は、自分の憧れでもあり、本当の兄のような存在だと思えた。
助けられて、結局キウイも買ってもらっちゃって、抱き抱えてもらっちゃって、家まで送ってもらっちゃって。
自分の無力さ、無知さを痛感する。
1人じゃ何もできない。役立たず。
母に何度言われただろう。
ひどく落ち込んでいると、気がつけばあの皇宮まで着いていた。ぼーっとしている間、ずっとエクスに抱き抱えてもらって長い道のりを歩かせてしまったことを考えると、少し申し訳ない。
「着いたよ、ほら。」
落ち着いた優しい声が、僕を包み込む。
もう少しだけ、こうしていたいな…彼の腕の中は、すごく安心する。でも、もう行かないと。
「ありがとうございました。貴方は僕の恩人です。本当はもてなしをしたいのですが、父と母が許さないでしょうから…ごめんなさい。」
「大丈夫。俺もそろそろ国に帰らないと。じゃあ、またね、イブ様。」
そう言うと彼は僕に背を向けて歩き出す。
待って
行かないで
気がつけば、僕は走り出して、彼の服の裾を掴んでいた。
「また…どこかで会える?」
青と黄の宝石のような瞳から、大粒の涙が溢れていた。