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……と、コンコンと部屋のドアをノックする音がふと聴こえた。
源治さんかな? こんな時間に何の用だろうと、泣きそうだった顔を拳で拭いつつ、ドアを開けに行った。
するとそこには、あんなに会いたくてしょうがなかった、さっきまでテレビで見ていた出で立ちと同じピンストライプのスーツを着た、当の貴仁さんがいて、
思わず、「テレビから抜け出して来たんですか?」なんて、突拍子もないことを尋ねてしまった。
「テレビから? 何のことだ?」と、彼が不思議そうに首を傾げる。
「ああいえ、なんでもないんです! それより今日は早くに帰られて?」
久々に会えたこともだったけれど、ついさっきまで画面の中にいた彼が目の前にいることが、なんだかまだ信じられなくて、もしかしたら着替えに帰っただけで、またいなくなってしまうんじゃないかと感じた。
「ああ、もう忙しさのピークは過ぎたからな。だから君に会いたくて、急いで帰って来た」
「えっ……」と、目を見開く。
今、何か、すごくうれしいことを言われた気がするんだけど……。
「あ、あの、もう一回言ってもらっても、いいですか?」
「ああ、何度でも言う。君に会いたくて、急ぎ帰って来たんだ」
今度こそ、彼の言葉が胸に沁み入るように響いた。
「きゃー……うれしすぎますっ!」
込み上げる思いのままに、彼に抱きつくと、
「あっ……と」
彼がふらりとよろめいて、
「ご、ごめんなさい!」
慌ててまた身体を離した。
「何を謝る?」
「だ、だって、私うれしすぎるからって……急に抱きつくとか。貴仁さん、疲れてるのに……」
だからよろけてと思うと、自身の無為な行為にカーッと身体が熱くなった。
「いや、突然だったので、しっかりと受け止められなかっただけで、私もうれしかったから。君がそれほど待っていてくれたのかと」
ああもう、そんなセリフをストレートに伝えられたら、ますます全身が熱を持ちそうで……。
「貴仁さん、うれし過ぎます」
はにかんで口に出した後で、ハッとして、また、「ごめんなさい!」と、謝った。
「今度は、どうしたんだ?」
怪訝そうな顔の彼に、
「あ、あの私……、ついさっきまで貴仁さんのことを、バカなんて思っちゃってて……」
全力で頭を下げた──彼はこんなにも優しいのに、仮にもあんなにひどいことを思うなんて──。
「うん? 私がか?」
彼の声がワントーン落ちたようにも感じて、さすがに機嫌を損ねちゃったかもと、さらに身体を折り曲げて謝ろうとすると、
「謝らなくていいから」と、両肩に手を添えられ、身体を起こされた。
「私が仕事が忙しく、君に会うこともままならずにいたから、そう思っていたのだろう? だったら悪いのは私だからな。君が謝ることなど何もない」
伏せた顔を上げ、彼と向き合って思う。
どうしてこの人は、いつだって思いやりが深くて……。
そういう彼だから、やっぱり感じずにはいられなくて、
「……もうー……ばか」
と、彼の胸をぽすんと叩いた。