テラーノベル
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はじめは、ほんのちょっとだけだった。手をつなぐのも、後ろから抱きつかれるのも、
ぜんぶ「好き」だからって思ってた。
そう思いたかった。
お母さんには言えない。
友だちにも、無理。
だってみんな、「いいな」って言ってたから。
わたしにだけ、彼氏がいるの、いいなって。
だから、ほんとうのことは、ぜったいに言えない。
あの日、お願いって言われた。
すごく困った顔をされて、「ちょっとだけ」って。
断って嫌われるの、こわかった。
終わったあと、少しだけ泣いた。
でもそれも、「すき」の一部なんだって、
自分に言い聞かせた。
「大人になっただけだよ」って、彼は笑った。
…それから、2ヶ月。
お腹が、変だった。
気のせいかもしれないって思ってた。
思いたかった。
でも、気のせいじゃなかった。
ひとりでネットで調べて、怖くなって、
誰にも言えなくて、学校も行きたくなくなって、
でも、言わなきゃって思って、
勇気を出して、彼に伝えた。
スマホの画面に打った文字を見てるあいだ、
ずっと手が震えてた。
──でも、返ってきたのは、
「ほんとに?」「マジかよ」
それだけ。
そのあと、ずっと既読がつかなかった。
3日後、ようやく来たメッセージ。
「会って話そう」
「ちゃんと考えた」
わたしは、なんか、
ほっとしてた。
駅前の自転車置き場の裏に呼び出された。
誰にも見つからない、って彼は笑った。
その日、彼はひとりじゃなかった。
知らない男の子がふたり。
彼は、わたしの名前すら呼ばなかった。
「うそ、でしょ」って言ったら、
「お前のせいだろ、勝手にできて」って返ってきた。
彼らはは私のお腹を殴った。
……そのあとのこと、よく覚えてない。
風の音だけ、ずっと耳に残ってた。
アスファルトのにおいがした。
どこかが痛かった。
でも、それよりも、冷たかった。
なにかが、終わった感じがした。
彼らがいなくなったあと、
わたしは、ひとりで、
その場にすわりこんで、
声も出さずに泣いてた。
しばらくして、スマホを取り出した。
でも、どこにも、かけられる場所はなかった。
お母さんは、怒るだろう。
「だらしない」「そんな風に育てた覚えはない」
きっとそう言われる。
……わたしがわるいんだ。
そういうことに、なってるんだ。
制服のスカートが、ぐちゃぐちゃだった。
私の心もぐちゃぐちゃだった。
なのに、空だけはきれいだった。
すごく、悲しいくらいに。
風が終わりを告げていた。
だから、
わたしはだれにも言わない。
なにもなかったみたいに、
また明日、学校に行く。
みんなに笑って、
授業を受けて、
給食を食べて、
家に帰って、
部屋でひとりになる。
それが、
「ふつう」だから。
……そういうことにしておけば、
全部、なかったことになるから。
ねぇ、
神さま。
わたし、
[なんで私が]なんてこと
思っていいかな。
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