/s/[storyId]/_components/heading/assets/back_arrow_icon.4081080bcaba67b8.svg){kind=icon}
/s/[storyId]/_containers/report-container/assets/more-icon.20cfac1b79e24f56.svg){kind=icon}
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
タイトル、作家名、タグで検索
ストーリーを書く
電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。
『好きな人がBLドラマに出演しまして』～m×k～
Side目黒
「え？BLドラマ？」
康二のちょっと裏返った声が、会議室に響いた。
その瞬間、俺の胸の奥にふわっと温かいものが広がった。
康二が新しいことに挑戦する――それだけで嬉しかった。
「そうです。タイトルは『君の隣で眠りたい』。深夜枠での放送が予定されています」
マネージャーの田中さんが落ち着いた声で話を続けるのを聞きながら、俺は隣に座る康二の横顔を見つめていた。
最初は驚いた顔してたけど、だんだんと期待に目が輝いていって、その変化がすごく愛しくて……思わず頬が緩んだ。
「康二、すごいじゃん！」
俺が声をかけると、康二がパッと振り返った。
目がちょっと潤んでて、顔も少し赤くて、嬉しいけど照れくさい――そんな感情が全部混ざった顔。
「ありがとう、めめ」
その笑顔があまりにも眩しくて、胸の奥がギュッと締めつけられた。
康二がこうして新しい世界に踏み出すときの、あのまっすぐな瞳を見るのがたまらなく好きだ。
何かを頑張る康二って、本当にきれいで、
ドキッとするくらい魅力的なんだよな。
「相手役は佐野晴人さんです」
田中さんのその一言に、康二の目が丸くなった。
「佐野さんって…もしかして、めめが前に共演した佐野くん？」
俺の顔をじっと見て、康二が聞いてきた。ああ、そうだった。俺が『秋の記憶』で佐野くんと共演したとき、康二に撮影のことを話したんだ。
あの時もメンバーで全員でドラマ見てくれたんだよな。
「そう。あの佐野くんだよ」
俺が頷くと、康二の顔がパァッと明るくなった。
「うわぁ！めめが共演した佐野くんと一緒にお仕事できるんや！すごいやん！」
本当に嬉しそうで、こっちまで嬉しくなってくる。康二が前向きにこの仕事に取り組もうとしてるのが伝わってきて、俺の胸もどんどんあったかくなる。
「目黒、佐野さんってどんな人？」岩本くんが聞いてきた。
「とても優しくて、プロフェッショナルな俳優だよ。一緒に仕事する人への気遣いもすごくて、俺もたくさん学ばせてもらった」
真面目に答えると、康二がすごく嬉しそうな顔で俺のことを見ていた。
「それなら安心やわ！めめが認める人やったら間違いない」
そう言ってにこっと笑う康二の顔があまりにも可愛くて、俺、たぶん今、表情が緩みっぱなしだと思う。
「めめも応援してくれる？」
ちょっと不安そうに、でも期待も込めた声で聞いてくる康二。その目に見つめられて、俺の心は一瞬でとろけた。
「もちろん。康二が頑張ってるのを見るの、俺めっちゃ好きだから」
「ありがとう」
そう言ってくれた康二の笑顔は、宝物みたいにキラキラしてて。
この笑顔をずっと見ていたいと思った。
会議が終わると、メンバーたちがわらわらと康二のまわりに集まってきた。
「康二、おめでとう！」
ふっかさんが一番に声をかけて、続けて岩本くんが康二の肩を軽く叩く。
「すげぇじゃん！BLドラマの主演なんて」
「俺も絶対見るわ」
佐久間くんもニコニコしながら言う。
「康二のファン、すごく喜ぶだろうな」
しょっぴーが優しく微笑んで、舘さんも穏やかに頷いた。
「きっといい作品になるよ。康二の魅力が、もっとたくさんの人に届くといいね」
「康二くん、頑張って！俺たちもずっと応援してるから」
ラウールが元気いっぱいに言って、阿部ちゃんも明るく言葉を添えた。
「みんなでお祝いしない？今度の休みにでも」
「それいいね！康二の新しいスタート、みんなでお祝いしよう」
俺がそう言うと、康二の目に涙が浮かんでいた。
「みんな…ありがとう」
声が少し震えていて、その姿があまりにもまっすぐで、純粋で。俺の心がじんわりとあたたかく満たされていく。
「俺ら9人で支え合ってきたんだから、康二の成功はみんなの誇りでもあるよ」
そう伝えると、メンバー全員が力強く頷いてくれた。
「そうそう！康二が頑張ってる姿、俺たちも勇気もらってるし」
「一緒に成長していこうな」
みんながそれぞれの言葉で康二を励まして、あったかい空気が会議室いっぱいに広がっていく。
そんな中で、康二が深く頭を下げた。
「みんながいてくれるから頑張れる。本当にありがとう」
その姿が、たまらなく愛しくて。
康二の新しい挑戦を、全力で応援したい。心からそう思った。
―――――――――――
撮影開始まで、あと約一ヶ月。
その間、康二は本当に一生懸命にドラマの準備を進めていた。
台本を何度も読み返して、役作りのために資料を集めて、監督との打ち合わせにも積極的に参加してて――俺の目から見ても、その姿勢はまっすぐで、すごくかっこよかった。
「今日は佐野くんと顔合わせやねん」
そんなある日、控え室で二人きりになったタイミングで、康二がちょっと嬉しそうに教えてくれた。
「そっか。楽しみ？」
俺がやわらかく聞き返すと、康二の顔がぱっと明るくなった。
「うん！めめが共演した人やから、どんな人かもう知ってるし。めめが優しい人やって言うてたから、安心してる」
その言葉を聞いて、自然と胸がじんわりとあたたかくなった。
仕事に真剣に向き合ってる康二の姿は、ほんとに尊敬できるし、素直に応援したくなる。
「康二ならきっと大丈夫。佐野くんも、すぐ康二の良さに気づくと思うよ」
そう言うと、康二が少し照れたように笑った。
「そうかな？」
「うん。康二の真面目さとか優しさは、誰が見ても分かるよ。それに佐野くんって、本当に相手を大事にする人だから」
俺が本音を込めて伝えると、康二の頬がふわっと赤く染まった。その表情が可愛くて、思わず口元が緩む。
「ありがとう、めめ。そう言ってもらえると安心するわ」
その笑顔を見るたびに、俺の胸の中に温かい気持ちが広がっていった。
夕方になって、康二が顔合わせから戻ってきた。
その顔には、満足そうな明るさがあって、きっと良い時間を過ごせたんだなってすぐに分かった。
「どうだった？」
俺が声をかけると、康二がキラキラした目でこたえてくれた。
「めちゃくちゃ良かった！佐野くん、開口一番『目黒くんとはどんな関係なんですか？』って聞いてくれてさ。ダンスの時はシンメなんですって説明したら、『目黒くんはとても素晴らしい俳優でした』って言ってくれてん！」
ちょっと驚いた。
佐野くん、俺のことそんな風に評価してきれてたんだ――
「それで？」
「『目黒くんのシンメなら、きっと向井くんも素晴らしい方なんでしょうね』って！もう、めめのおかげで最初からすごく打ち解けられたわ」
「そうだね、康二人見知りだから」
「いや～大変お世話になします」
康二の声からは嬉しさが溢れていて、その姿を見てると、こっちまで幸せな気持ちになる。
「佐野くんらしいな。ちゃんと康二のこと、受け止めてくれてよかったね」
「うん！しかも今度の役についてもいろいろアドバイスくれてん。『自然体でいることが一番大事』って言ってくれて」
康二の表情には、どこか安心感がにじんでいて、その顔がたまらなく愛おしくて、胸がふわっとなる。
「それは嬉しい言葉だね。康二なら、きっと自然体が一番魅力的に映るよ」
「めめが共演した人やから、なんか不思議と身近に感じられるんよな」
そう言って笑う康二に、俺の胸の奥がぎゅっと温かくなった。康二の新しい挑戦が、ちゃんと支えられて、いい形で進んでいってる。それがたまらなく嬉しかった。
撮影が近づくにつれて、康二の口から自然と佐野くんの話題が増えてきた。
「あ、あと佐野くんがな、『感情は心の奥から自然に湧き上がらせるものやで』って」
「さすが、経験豊富だよね。いいアドバイス、もらえてよかったね」
「うん！しかも『向井くんは素のままでも魅力的だから、無理に作らなくていい』って」
その言葉を話す康二の瞳が、キラキラと輝いていて。
その顔を見ていると、もうそれだけで胸がいっぱいになる。
康二が誰かに認めてもらえてる。それが、俺にとっては何よりも嬉しいことだった。
康二の笑顔がまぶしくて、思わず見惚れてしまう。
心の底から、康二が成功してほしいって思った。
この一ヶ月、努力してきた康二の頑張りが、ちゃんと報われてほしい。
先日、みんなで康二のお祝いもした。
全員集まって、賑やかに食事して、康二の新しい一歩をお祝いして。
そのときの康二の笑顔――幸せそうで、キラキラしてて、今でも鮮明に思い出せる。
――――――――――――
康二の撮影初日。
スタジオに足を踏み入れた瞬間、大きなセットと慌ただしく動き回るスタッフの数に、思わず息をのんだ。
これが本格的なドラマの撮影現場か――照明の熱、張りつめた空気、スタッフたちの真剣な目。全部が本気の世界で、圧倒される。いや、自分の時もそうだったはずだけど役に入り込みすぎて気が付かなかったのかも。
こうやって外から見るのも勉強になるな、なんて…。
康二が、ここで、演技をするんだ。
そう思った瞬間、胸の奥がじわりと熱くなった。誇らしい気持ちと、ちょっとした不安が入り混じってる。
うまくやれるかな。いや、きっと大丈夫。でも……緊張してないかな。
「めめ！来てくれたんや！」
聞き慣れた声に顔を向けると、康二が笑顔で駆け寄ってきた。
メイクをして衣装をまとった康二は、いつもよりも少しだけ大人びて見えた。役を背負った空気感が、彼をほんの少し遠くに感じさせて……でも、その変わらない笑顔が、やっぱり“俺の知ってる康二”で、ホッとした。
「うん。ちょうど隣のスタジオで打ち合わせなんだよ」
「え！？そうなん？うわ～、めっちゃ奇遇やん！運命感じるわ～」
おどけた口調で言いながらも、康二の表情がほんのりゆるんで、緊張が少しほどけたのが分かった。
俺がここにいるだけで、少しでも安心できるなら、それがすごく嬉しかった。
「めめが見ててくれるから心強いわ～。……ちょっと緊張してたけど、なんか元気出た」
そんなこと言われたら…もっと側にいてやりたくなる。
「そっか。俺も康二の頑張るとこ、見られて嬉しいよ」
そう返した瞬間、佐野晴人くんが現れた。
久しぶりに見る佐野くんは、以前よりもぐっと大人の雰囲気が増していて、堂々とした俳優の風格があった。
「目黒くん、久しぶりだね」
優しい声に振り向くと、変わらない穏やかな笑顔がそこにあった。
「佐野くん、お久しぶりです。今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ。まさかまたこうして現場で会えるなんて」
そのまま佐野くんが、康二に目を向ける。
「向井くんも、よろしくね。前の顔合わせの時も思ったけど、本当に素直で面白いね」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします！めめからも佐野くんのこと、いろいろ聞いてました！」
康二がぺこっと頭を下げながらも、嬉しそうに笑っている。
その姿を見てるだけで、なんかもう……胸がいっぱいになる。
「そうなんだ。俺も目黒くんから、君のことちょっと聞いてたよ」
佐野くんが俺の方を見ながら、軽く微笑む。
「目黒くん、本当に素晴らしい俳優だったから。その仲間ってだけで、向井くんにも信頼が持てるよ」
佐野くんのその言葉に、康二の頬がほんのり赤く染まる。
「そ、そんな……」
「ううん、康二はすごいよ。真面目に頑張ってるの、俺知ってるから」
俺が口を挟むと、康二がちょっと照れたように下を向いた。
ああ、かわいい。
こういう時の康二、ほんとに抱きしめたくなるくらい、まっすぐで眩しい。
「ほんとに、仲良いんだね」
佐野くんが笑いながら言うと、康二が慌てて首を振る。
「ち、ちがっ……！いや、仲良いけど！変な意味ちゃうからね！」
「うんうん、分かってる。微笑ましいよ」
佐野くんが優しく返してくれて、康二もほっとしたように笑う。
改めて思った。
この現場で康二が仕事をするってこと、佐野くんと一緒に芝居を作っていくってこと。
それを支えるスタッフがいて、信頼できる人たちに囲まれてるってこと。
それが、どれだけ心強いか。
そして、康二自身がちゃんとその輪の中に、もうちゃんと入ってるってことが、俺にはすごく嬉しかった。
康二なら、絶対大丈夫。
この場所で、ちゃんと光を放ってくれる。
俺の大切な人が、ここで羽ばたいていく瞬間を、俺はちゃんと見届けたい。
「それでは、最初のシーンから始めましょう」
監督の声がスタジオに響いて、場の空気が一気にぴんと張りつめる。
リハーサルが始まる。
今日撮るのは、物語の導入部分。
康二が演じるアイドルの主人公が、佐野くん演じる会社員とカフェで偶然ぶつかってしまう、初めての出会いのシーン。
セットの中に立つ康二を、俺は少し離れたモニター越しに見つめていた。
あの姿が、今日から“役”として生きていくんだと思うと、胸がそっとざわめいた。
「すみません！大丈夫ですか？」
康二が台詞を発した瞬間、自然と息をのんだ。
柔らかな標準語がスッと耳に入ってくる。普段の関西弁とは違うのに、全然違和感がない。むしろ、今まで見たことのない康二がそこにいた。
俳優としての表情。
声のトーン。
仕草。
どれもが新鮮で、目が離せなかった。
「こちらこそ、急に立ち上がってしまって」
佐野くんが静かな声で応じると、空気がふっと変わった。
二人の間に、確かに“ドラマの世界”が存在していた。
康二がしっかりと役の中に入り込んでるのが、モニター越しにも伝わってくる。
「コーヒー、かかってませんか？シャツとか……」
「大丈夫です。それより、あなたこそ火傷してませんか？」
佐野くんがそう言って、康二の手にそっと触れた。
その瞬間――不思議な感情が、胸の奥で小さく波打った。
（……あれ？）
説明できない気持ち。
じわっと熱くなる胸の真ん中。
でも、きっとこれは感動だ。康二の演技が、それだけすごいってことなんだろう。そう、自分に言い聞かせた。
「あ、の、大丈夫です……」
康二が頬を染めながら答える。
視線を少し伏せて、小さく肩をすぼめて――その仕草が、あまりにも自然で、リアルで、俺は息を止めるように見入っていた。
（……康二、すごいじゃん）
彼の真剣な表情に、演技の力に、改めて圧倒される。
本気でこの役に向き合ってきたんだって、ここまでの努力が全部伝わってきた。
「カット！ とてもいいですね。自然な雰囲気が出ています」
監督の満足そうな声が響く。
空気がふっと和らいで、スタッフたちの動きも少し緩んだ。
「向井くん、リラックスしていて良かったです。佐野さんとの相性もいいですね」
「ありがとうございます！」
康二が元気よく返事する。笑顔がぱっと咲いて、まるで子供みたいに嬉しそうで――でもその笑顔が、俺には何より誇らしかった。
佐野くんも穏やかに微笑みながら、横に立つ康二に言葉をかける。
「向井くん、目黒くんが言っていた通り、とても自然で素晴らしい演技だね。初日とは思えないくらい、いい空気感だったよ」
「ほんまですか！？うれしい……ありがとうございます！」
康二が顔をくしゃっとさせて笑った。その横顔が、なんとも言えず可愛くて、胸がまた少し熱くなる。
（ちゃんと伝わってる。康二の頑張りが）
そう思ったら、自然と微笑みがこぼれていた。
康二がここにいて、演技をして、誰かに認められて――それを俺が見ていられることが、ただただ幸せだった。
―――――――――――
撮影はどうやら順調に進んでいるらしい。
打ち合わせの合間を縫って、また俺はこっそり康二の様子を見に行った。
姿を探すと、ちょうどモニターのそばで休憩していた康二が、俺の姿を見つけてパッと顔を明るくする。
「お疲れさま。どう？楽しい？」
俺がそっと声をかけると、康二は弾けるような笑顔を浮かべて答えてくれた。
「めっちゃ楽しい！佐野くんがな、ほんまに優しくて。めめが言うてた通りやったわ。めっちゃ話しやすいし、自然に芝居できるねん」
その無邪気な笑顔と楽しそうな声に、俺の胸もふわっとあたたかくなる。
康二がリラックスして撮影に臨めている。それだけで嬉しい。
「それは良かった。康二の演技、すごく自然だったよ。初日とは思えないくらい」
「ほんまに？うわ〜めめに褒められると、照れるけど……めっちゃ嬉しい！」
言いながら、康二が少し頬を染める。そんな姿を見て、思わず俺も笑ってしまう。
康二の素直なリアクションって、ほんとにかわいくて、いちいち胸をくすぐる。
その時だった。
「目黒くん、お疲れさま」
佐野くんがすっと近づいてきて、落ち着いた笑顔で声をかけてくれた。
「お疲れさまです。今日もありがとうございます」
「いや、こちらこそ。向井くんの演技、本当に素晴らしいね。びっくりしたよ。初共演なのに、もうちゃんと役に馴染んでて」
佐野くんのその言葉に、俺は嬉しくなると同時に、少しだけ胸の奥がざわっとする。
康二が褒められて嬉しい。
でも、誰かが康二の“良さ”に気づいていくことに、ほんの少しだけ、心がざらつく。
「ありがとう。康二も、佐野くんのおかげでリラックスできてるみたいで」
「いやいや、それは彼自身の力だよ。目黒くんのメンバーだけあって、すごく真摯に演技と向き合ってる。すごくいいパートナーだと思う」
（……“パートナー”か）
その言葉に反応してしまう自分が、ちょっと情けない。
でも、仕方ないだろ。康二は、俺にとって――
俺にとって…？なんだろう。
「向井くん、次のシーンの確認をしようか？」
「はい！お願いします！」
康二がさっと立ち上がり、嬉しそうな顔で佐野くんのあとをついていく。
その後ろ姿を、俺はただ静かに見送った。
そしてすぐに、次のシーンのリハーサルが始まる。
今回の設定は、街中で偶然再会した二人が、一緒にお昼を食べる流れ。
自然に仲が縮まり始める、ちょっと甘めのパートだ。
「また会いましたね」
佐野くんの台詞に、康二がふっと顔を上げる。
「あ、この前の……！偶然ですね」
その言い方が、どこか嬉しそうで、少し照れてる感じがリアルすぎてドキッとする。
演技ってわかってるのに、その声が、表情が、心に刺さる。
「よろしければ、一緒にお昼はいかがですか？」
「えっ、いいんですか？あ、でも、迷惑じゃ……」
康二がちょっと戸惑いながらも嬉しそうに答えて、その絶妙なバランスが完璧だった。
本当に“偶然再会して嬉しかった人”みたいで、見てるこっちが緊張してしまう。
カフェのセットで、二人が向かい合って座る。
机を挟んだ距離が近くて、思わず俺の胸がざわついた。
まるで、本当にデートしてるみたいな空気。
佐野くんが柔らかく微笑んで、康二が自然に笑い返す。
そのやり取りに、演技だって分かっていても、何故か喉の奥がちくりとした。
（康二……すごくいい表情してる）
嬉しい気持ちと、ちょっとだけ拗ねたような気持ちがないまぜになって、俺は黙ってモニターを見つめた。
でも、やっぱり――誇らしい気持ちの方が大きい。
こんなにも真剣に、こんなにも魅力的に演じる康二を、俺は知っている。
――――――たとえちょっとだけ、心がざわついたとしても。
―――――――――――
「向井くんは、アイドル活動はどうですか？」
休憩時間三人でのトークタイム。
佐野くんが柔らかい表情で康二に問いかけた。
それだけで、康二の目がぱっと輝く。
「楽しいです！みんなでパフォーマンスを作り上げていくのって、すごくやりがいがあるし、毎回新しい発見があるんです」
真っ直ぐな声。隠せないくらいの熱量。
その話し方が康二らしくて、俺の胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「素敵ですね。僕も、そういう仲間との絆……ちょっと憧れます」
佐野くんが優しく笑いながら、少し身を乗り出す。
その仕草が自然すぎて――でも、俺の目にはやけに親密に映った。
なんだろう、この距離感。近すぎないか？
俺はその光景を少し離れた場所から見ていて、胸の奥に小さな違和感を覚えた。
それは今まで感じたことのない、説明のつかない感情。
佐野くんが康二と談笑している。
穏やかで、和やかで。悪いものではない。むしろ微笑ましいくらいだ。
でも――どこか、ざわざわする。
「佐野さんは、お仕事大変そうですね」
康二が少し遠慮がちに声をかけると、佐野くんはすぐに笑みを浮かべた。
「そうですね。でも、好きなことだから。あと……」
一瞬、佐野くんの言葉が止まる。
そしてふと、まっすぐに康二を見つめて――
「最近、仕事以外にも楽しみができました」
そう言って、佐野くんが康二の手にふわっと触れた。
わずかに、そっと。けれど、はっきりと。
「えっ……」
康二が一瞬びくっとして、驚いたように目を見開く。
そしてすぐに視線を逸らして、顔が赤く染まる。
その光景を見た瞬間、俺の胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
さっきまでの“ざわざわ”が、一気に“ざわっ”と音を立てた気がする。
それは、演技への感動とはまるで違う感情だった。
どこか、もっと深くて、もっと熱くて、言葉にならない想い。
（……なんだ、これ）
「なーんてね。冗談冗談」
佐野くんはパッと康二から手をどかしおどけてみせた。
内心ほっとしたような複雑な気持ちだ。
「な、な～んや、驚かさんといて下さいよ」
康二と佐野くんが笑い合ってる姿が映る。
微笑ましい、はずなのに。
なぜか、俺は黙って見ていることしかできなかった。
続きはnoteで作者名『木結』（雪だるまのアイコン）で検索して下さい。
※本編後の関係をより深く描いたR-18おまけ小説も収録。ご希望の方はぜひご覧ください。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう！
