軌道エレベーターで移民監理局のザイガス長官と揉め事が発生したものの、女王の介入により避難民達の受け入れを勝ち取ったティナ達は、直ぐに本星へと避難民達を降ろす準備を始めた。
しばらくすると、移民監理局が保有している予備の浮き島のひとつが数日中に用意されることが通達された。
「避難民の数は?」
「200人弱です」
「センチネルの襲撃から200人も救い出せたのか。奇跡だな」
「たくさんの犠牲を払ってしまいましたけど……」
「センチネルに襲撃されたコロニーやステーション、居留地は全滅が当たり前だ。この成果を誇らずして、何を誇ると言うのだね?」
一足先に本星へ降りたティナは宇宙開発局の事務所でザッカル局長との打ち合わせと各種調整に没頭していた。
彼女達が自立するまで衣食住を保証するのは当然の事であり、意趣返しなのかその準備を移民監理局に丸投げされて乏しい予算から当面の生活費を工面せねばならなくなったのだ。
「ありがとうございます、局長」
ティナは深々と頭を下げた。
「とは言え、君の活動を快く思わない者は多い。ザイガス長官は一部でしかない。今回は女王陛下のお手を煩わせてしまったが……」
「それですよ、ビックリしました。女王陛下も近くにいらっしゃったのですか?」
「いや、神殿に御住まいのままだ。女王陛下はアードの全てを見渡せるお力があるとか」
「それ本当ですか!?」
「真相は女王陛下ご自身にしか分からぬし、尋ねるなどもっての外だ。しかし、我がアードでテロリズムが発生しない理由でもある。不穏な計画を立てれば、どんなに秘匿してもたちどころに露見するのだとか。女王陛下のお力か否かは断言できないが、陛下は常に民を見守っていらっしゃる。畏れ多いことだよ」
未来を見通し、更にアード全土を見渡せる力。改めてアードの女王の力を目の当たりにしたティナは、ひとつの疑問を感じた。一体女王は何者なのだろうかと。
ティナだよ。今私は、ザッカル局長に色々と教えて貰いながら書類仕事を手伝ってる最中。
地球訪問のための日数には余裕がないけど、放置していくわけにもいかない。人命は何物にも代えがたいと思うから、後悔はないけどね。
ただ、今回私の活動を快く思わない人がたくさんいることを実感できた。ザイガス長官の言い分も分からないでもない。
でも、センチネルは確実に魔法に適応しつつある。だって遭遇時は艦艇の隠蔽魔法を見破れなかったらしい。それが今となっては、近付かれたら解析される始末。そう遠くない未来に本星を隠してる隠蔽魔法も破られるかもしれない。引きこもるのは穏やかな自殺と同じだ。
そして何より許せないのは、たくさんの犠牲を払って何とか落ち延びた人達に対してあの言い様!いや、一番許せないのはフェルを攻撃したこと!
片方の言い分のみを鵜呑みにするのは悪いことだけど、フェルに関しては妥協点なんて無い!だってリーフ人が求めるのはフェルを速やかに処分することだからね!
リーフ人の社会から抹消しただけでは満足できなかったみたいで、抗議が何度も送られてきたのは知ってる。その度にザッカル局長が握り潰してくれたけどね。もうフェルは私達一家の家族なんだから、リーフ人の抗議は受け付けないってさ。
個人的な怒りは別にして、助かってるのは避難民の皆さんに目立った混乱は起きていないことかな。リーダーを務める女性が上手く纏めてくれている。そして彼女はテルスさんの奥さんだ。個人的には申し訳無い気持ちで一杯なんだけど、奥さんは、セシルさんはテルスさんの遺志を継いで張り切ってる。強い人だなと思ったし、彼女なら安心できると思った。私に出来ることは、問題なく生活できるようにサポートするだけだよ。
「やあやあティナちゃん☆色々大変だったみたいだね?☆」
二日間事務所に缶詰で何とか手配を終えた私はドルワの里に戻ったんだけど、そこで里長が、ばっちゃんが待ち構えてた。
「まあねぇ。ばっちゃんもありがと。本当に助かったよ」
浮き島の居住区じゃ人数分足りず、どうしようかと局長と困り果てていたところに助け船を出してくれたのがばっちゃんだ。
避難所で良いのかな?そこに入り切れない数組の家族をドルワの里で受け入れることにしてくれたんだ。
「空き家があったから、ちょうど良かったよ☆うちの里は避難所に近いしね☆」
そう、移民監理局が用意した浮き島はドルワの里がある浮き島の直ぐ近く。飛べば30分くらいかな?この辺りも非常に助かってる。やっぱり知らない場所だと心細いしね。
「それでもお礼を言わせてよ。ばっちゃんのお陰で皆が落ち着けたんだから」
「もっと感謝して良いよ?☆何なら私の石像でも建てて☆」
「誰得(笑)」
「笑うな☆」
うーん、ばっちゃんとふざけあってると帰ってきたんだって実感できる。
改めてセンチネルの恐ろしさを実感したから、正直疲れてたしね。
「で、わざわざ出迎えてくれたのはなにか理由があるんでしょ?まさか、フェルに何かあった!?」
フェルは一足先に家に帰してる。開発局のお仕事は手伝えないし、残念そうにしてたけどね。
「フェルちゃんは元気だよ?☆里の皆にも好かれてるし、問題なし☆うちの里に来たからには私の娘も同然だから、ちゃんと護るし☆」
「そっか。じゃあ、なにさ?」
「ティナちゃんのお土産が売り切れたから、取り分を持ってきたよ☆」
「えっ?もう?」
まだ1週間も経ってないんだけど……まあ、珍しいものだしね。里の皆も興味本位で買ってくれたのかもしれない。地球の食べ物が流行れば良いんだけど。
「取り敢えず、これがティナちゃんの取り分だよ☆」
ばっちゃんがブレスレット型の端末をかざしてきたので、私もかざした。
クレジットの送金が楽で良いよねぇ。前世の銀行とかはなにかと手続きが必要で大変だったなぁ。
『100万クレジットの送金が確認されました』
「は?……ひゃっ……100万!?」
「里の皆には適正価格で行き渡らせて、余った分を土地持ちに特別価格で流してみた☆」
土地持ちとは数少ないアードの大地に住まう、まあ富裕層を指す言葉のひとつだよ。
「……やるなぁ、ばっちゃん」
「もっと誉めて☆」
「くねくねすんな、歳考えて!」
「乙女には禁句だぞ☆」
いや、ばっちゃん凄いわ。まさかの100万クレジット。どうしよう?