「瞳子、お疲れ様。こっちで休憩しなよ」
その日の夜。
結婚式と披露宴を終えた大河と瞳子は、都内のホテルに宿泊することにしていた。
海が見えるラグジュアリーなホテル。
以前、アートプラネッツのメンバーで変装して、瞳子の誕生日を祝った思い出のホテルだった。
大河は当然のようにスイートルームを予約するつもりだったが、「スイートルームはヤダ!」と瞳子がむくれ、エグゼクティブダブルの部屋にした。
窓の外に広がる綺麗な夜景を、二人はソファに並んで眺める。
「今日はとっても幸せな一日だったなあ」
月灯りでキラキラ輝く海を見ながら、瞳子がうっとりと呟く。
綺麗なその横顔に、大河は思わず見とれた。
披露宴のあと、瞳子は髪型をダウンスタイルに変え、クルンと巻いた髪をハーフアップにして生花で飾っていた。
夜になるとアートプラネッツのメンバーと千秋も交えて2次会で盛り上がり、ホテルにチェックインしたのは22時頃だった。
瞳子は2次会で着ていたブルーのワンピースのままで、楽しかった今日の余韻に浸っている。
「あのね、披露宴のデザートブュッフェの時に、ハルさんとおしゃべりしたの。ハルさん、すごーく可愛くてね。ふふっ」
倉木さんから連絡先を教えてもらったの、と、まるで初恋をした少女のように、こっそり教えてくれたハルを思い出す。
内緒の話なので、たとえ大河であっても話すことは出来ないが、瞳子は心からハルの恋を応援していた。
「デザートの時か。俺は倉木さんと話してたな。プールサイドでお酒を飲みながら」
「そうだったんですか?」
「ああ」
いつの間にそんなに二人は仲良くなったのだろう?と、瞳子は少し不思議な気がした。
「倉木さん、今、夜の報道番組のメインMCをしてるだろ?その番組のプロデューサーが、アートプラネッツを取材したいって話してるそうなんだ」
ええー?!と瞳子は仰け反って驚く。
「すごいじゃないですか!」
「うん。こちらとしても、ありがたくお受けしようと思う。来月の初旬までなら、スケジュールもそこまでタイトじゃないしな」
「うわー、アートプラネッツがテレビで紹介されるんですね。素敵!作品の紹介とか、インタビューとかですか?」
「ああ。あとは、オフィスでの制作の様子とか、俺達の普段の様子も撮りたいそうだ」
ええ?!と瞳子は更に驚く。
「オフィスに撮影に来られるんですか?それって、密着取材ってこと?」
「まあ、そうかな」
ひゃー!と瞳子は両手で頬を押さえる。
「た、大変!お掃除しなくちゃ!透さんのデスク、お菓子が山積みなんだもん」
そう言うと、あはは!と大河は笑い出す。
「大河さん、笑い事じゃないですって」
「別にいいじゃない。今更取り繕っても、俺達は俺達だしな。ありのままを見せればいいんじゃない?」
「そうだけど…。でもあの番組のスポンサー、お菓子メーカーもあった気がする。透さん、色んなメーカーのお菓子をデスクにてんこ盛りにしてるから、NGじゃない?」
「あー、確かに。それはマズイな」
「でしょう?私、お掃除しに行くね」
「え、いいよ。わざわざそんな…」
「ダーメ!だって、いざテレビクルーの人が来た時、ガチョーンってなったら申し訳ないもの」
ガチョーンって…、と大河は苦笑いする。
「あとね、前に大河さん、オフィスに水槽置きたいって話してたでしょ?」
「ああ、うん」
「せっかくだから、取材の前に設置したらどう?」
「そうだな。他のメンバーも、早く水槽入れたいって言ってたし。いい機会だから、そうしようか」
「うん!じゃあ早速リースの会社、決めなきゃね」
そう言ってスマートフォンで検索し始めた瞳子の肩を、大河はグッと抱き寄せた。
「瞳子、それはまた明日。今日は特別な一日なんだ。最後まで俺に瞳子を愛させて」
耳元で囁かれる声に、瞳子は途端に真っ赤になる。
「今日の瞳子は格別に綺麗だ。ウェディングドレス姿はとびきり美しくて、今こうして俺のそばで無邪気に笑ってくれる笑顔はものすごく可愛い。瞳子、俺と結婚してくれてありがとう。俺は今日のこの日を絶対に忘れない。必ず瞳子を幸せにしてみせるよ」
大河さん…と、瞳子は目を潤ませる。
「私の方こそ、大河さんに感謝しています。私には普通の恋愛も結婚も無理なんだと嘆いていたけれど、大河さんのおかげでこの日を迎えられました。夢みたいに幸せな一日…。大河さん、私を救ってくれて、私と結婚してくれて、本当にありがとうございます」
健気に真っ直ぐに自分を見つめてくれる瞳子に、大河は胸を切なくさせる。
大河は瞳子を胸に抱き寄せた。
「瞳子…。俺のたった一人の愛しい人」
「大河さん…。私の最愛の人」
大河が優しく瞳子の髪をなでると、瞳子は潤んだ瞳で大河を見上げる。
胸がキュッと切なく痛み、我を忘れそうになるほど愛おしい。
大河は瞳子の頬に手を添えると、ゆっくりと目を閉じて顔を寄せ、想いを伝えるようにキスをした。
胸に抱いた瞳子が、ん…と甘い声を洩らして身体の力を抜く。
大河はそんな瞳子を腕の中に閉じ込め、何度も何度も口づける。
もはや何も考えられず、ただ二人は湧き上がる感情のまま、互いに深く愛し合っていた。
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