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映画が完成した瞬間、奏太の視界が急激に歪んだ。
――また、未来へ戻るのか?
強烈な浮遊感とともに、世界がゆっくりと崩れていく。
仲間たちの声が遠のき、最後に見えたのは――あかりの笑顔だった。
「またね、奏太。」
その言葉とともに、すべてが暗闇に包まれた。
――そして、次に目を開けたとき、そこは病室だった。
白い天井。規則的な電子音。
病院独特の消毒の匂いが、鼻を突く。
「……戻ってきたのか。」
病室のカーテンが開かれ、そこにいたのは友と富貴子だった。
「奏太!! よかった、目が覚めた!」
友が泣きそうな顔で駆け寄る。
「……俺、どのくらい寝てた?」
「一週間だよ! お前、急に意識なくなって……みんな心配してたんだからな!」
「一週間……?」
そんなに長い時間、意識を失っていたのか?
でも、そんなことより――。
「映画は……どうなった?」
「……。」
富貴子が、そっとタブレットを差し出した。
画面には、完成した映画のデータが映っていた。
「これ……完成したのか?」
「うん。お前が倒れる前に、全部撮り終えてた。それで、みんなで編集して……。」
「できたんだよ、奏太。お前の映画が。」
奏太は、ゆっくりと画面を見つめた。
そこには、俺たちが作り上げた“生きた証”が刻まれていた。
映画が完成していたことに安堵したのも束の間、奏太の心に一つの不安がよぎった。
「あかりは……?」
友と富貴子が、少しだけ言葉に詰まる。
「……あかりの記憶、まだ戻ってない。」
――やっぱりか。
過去に戻るたびに、彼女の記憶は少しずつ消えていった。
そして、最期のタイムリープの前には、完全に俺のことを忘れていた。
「……どこにいる?」
「大学の図書館。いつも通り、本を読んでるよ。」
奏太は、ゆっくりとベッドから起き上がった。
「……行ってくる。」
「おい、大丈夫なのかよ!?」
「大丈夫じゃなくても、行かなきゃならないんだよ。」
――俺は、まだ終わっていない。
彼女が、俺のことを思い出してくれるまで。
奏太は、大学の図書館へ向かった。
そこには、変わらず静かに本を読んでいるあかりがいた。
まるで、12年前の過去のように。
「……あかり。」
彼女は、ゆっくり顔を上げた。
「……君は?」
やっぱり、俺のことを覚えていない。
「俺のこと、分からないか?」
「……ごめんなさい。」
小さく、申し訳なさそうに微笑む。
――でも、俺は諦めない。
「この映画を、観てほしいんだ。」
奏太は、タブレットを開き、映画の再生ボタンを押した。
スクリーンに映るのは、過去の俺たちの記録だった。
映画の中で、俺はあかりと並んで座っていた。
同じベンチで、同じ夕陽を見つめながら――。
「……?」
あかりは、画面をじっと見つめる。
そして、映画のクライマックス――。
俺が、あかりに向かって微笑みながら言う。
「俺は、お前に会えてよかった。」
映画の中のあかりが、涙を浮かべながら微笑む。
「私も……君に会えてよかった。」
そして、スクリーンが暗転し、エンドロールが流れ始めた。
――その瞬間。
あかりの目から、大粒の涙がこぼれた。
「……あれ……?」
震える声。
「なに……これ……?」
彼女は、手で頬をぬぐいながら、戸惑っていた。
「なんで……こんなに、懐かしい気がするの?」
記憶が戻り始めている。
奏太は、息を詰めた。
「……思い出したか?」
「……まだ全部は思い出せない……でも……。」
あかりは、目を真っ赤にしながら、俺を見つめた。
「君は……誰?」
奏太は、あかりの手をそっと握った。
「俺は、お前とずっと一緒にいた人間だ。」
「……。」
「でも、もしお前が忘れてしまったなら――。」
奏太は、優しく微笑んだ。
「また、一からやり直せばいい。」
あかりの瞳が、震えた。
「……また?」
「そうだ。何度でも、お前と出会う。」
あかりの目に、再び涙が溢れた。
「……ありがとう。」
「また、出会おう。」
彼女の手を、強く握りしめた。
その瞬間、世界が光に包まれたような気がした。
――俺たちは、何度でもやり直せる。
記憶が消えても、想いはきっと残るから。
エンドロールが流れる――。
奏太の生きた証は、映画という形で残った。
そして、それはあかりの記憶を繋ぎとめる「鍵」となった。
人生は、限られた時間の中で紡がれる物語。
でも、たとえ記憶が消えても、大切な人との繋がりは、決して消えない。
彼らの物語は、まだ続いていく。
新しい時間の中で、もう一度。
――また、出会おう。
【完】