──連日、猫の香水の作成に費やしていて、他のことはあまり考えないようになっていた。
そのため二度目の再会から、やがてひと月ほどが過ぎた頃には、私の中でも彼とのことはすっかり終わったことにもなろうとしていた。
けれど、その連絡は急にかかって来た──。
新たな商品の開発で忙しなく、夜遅くに帰宅した私は、未登録の電話番号から携帯に留守電が残されているのを見つけた。
(一体、誰から?)と怪訝に思いつつ、メッセージだけでも聞いてみることにする。
すると、『久我だが、君に用があるんで、すまないが時間ができたら、こちらへ折り返してくれないだろうか』という、短い伝言が入っていた。
そういえば、もうかかってくることもないはずだからと、彼の電話番号も消してしまったんだった。だけど、今になって、なぜまた? という疑問が頭をもたげる。
「用って、何なの……」
伝言を聞いてしまったからには放っておくわけにもいかず、私は彼に電話をしてみることにした。
「もしもし、あの……」
「ああ、君か」
数ヶ月ぶりの声に、一瞬ドキリとする。彼の声は、いつも耳に低く柔らかに響いて、胸が高ぶることを今さらのように気づかされる。
「わざわざ折り返してもらって悪い。実は今度、クーガ主催のレセプションパーティーがあるので、君にパートナーとして出席してほしいんだ」
「えっ、私に……ですか?」
一度ならず二度までも残念な結果しか得られなかったのに、もう会うことなんてないんじゃないかとさえ思える。
「ああ、君しかいないので、頼めないか?」
「えーっと……」スマホを片手に持ったまま、反応に困ってしまう。
(そうは言われても、いつかの彼女のことだって、結局うやむやでしかなくて……)そんな風に思ったら、「あの方と行かれた方がいいのでは……」という及び腰な言葉が口をついて出ていた。
「いや、あの女性のことも今回はちゃんと説明をするから、どうか来てくれないだろうか?」
懇願するような彼の声に、返事を迷っていると、
「再来週の日曜だが、君の都合は、どうだろうか?」
話を先へ進めようとしてか、そう問いかけられた。
「都合は悪くはないです、でも……」
そこまで言いかけて、その先を呑み込む。
「でも、なんだ?」
押し当てたスマホ越しに、彼の落ち着いた物静かなトーンが伝わる。
「……でももう、私である必要は、ないのでは……」
その声に促されるように、今の正直な自らの気持ちを話した──。
コメント
1件
気になっているのに断っちゃっていいの?。 ちゃんとあの女性の事を聞きたらどう? 向こうも話すって言っているんだから。