テラーノベル
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雨はまだ降り続いていた。
昇降口。
濡れた空気。
遠くで鳴る雷。
ライに支えられたまま、マナは荒い呼吸を繰り返していた。
「マナ、大丈夫」
低い声。
触れている腕の温度がやけにリアルで、胸が苦しい。
さっき見えた光景。
白い病室。
泣いているライ。
自分の声。
『来世でも、また恋人になろうね』
夢じゃない。
あれは──記憶だ。
「……ライ」
掠れた声で名前を呼ぶ。
ライの身体が小さく強張った。
「俺……今」
「……」
「病院、見た」
沈黙。
雨音だけが響く。
ライはゆっくり目を伏せた。
その反応だけで、全部わかってしまった。
「……知ってたんだ」
「……うん」
「俺のこと」
「うん」
「前世」
ライは少しだけ苦しそうに笑った。
「最初から」
マナの喉が詰まる。
やっぱり。
やっぱりライは、全部知っていた。
自分だけ忘れていたんだ。
「……なんで言わなかったの」
「怖かったから」
即答だった。
ライはマナから目を逸らす。
「信じてもらえないかもしれないし」
「……」
「思い出したら、苦しむかもしれないと思った」
その声は震えていた。
百年間ずっと抱えてきた想いが滲んでいるみたいだった。
マナは胸が痛くなる。
ライは、一人で覚えていた。
自分との思い出を。
別れを。
約束を。
百年も。
「……教えて」
マナは小さく言った。
「俺たちのこと」
ライは黙ったままマナを見る。
雨に濡れた瞳が揺れる。
「知りたい」
逃げたくなかった。
怖いけど。
でも、知りたかった。
どうしてこんなにライを見ると苦しくなるのか。
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どうして触れられるだけで泣きそうになるのか。
その理由を。
ライは静かに頷いた。
その日は、ライの家へ行くことになった。
「お邪魔します……」
「適当に座って」
一人暮らしの部屋は綺麗だった。
必要最低限しか置いてない部屋。
でもどこか落ち着く。
マナがソファに座ると、ライは温かい飲み物を持ってきた。
「ありがと」
マグカップを受け取った瞬間、不思議な感覚がした。
この光景を知っている。
前にも、同じように。
「……」
マナが固まっていると、ライが静かに口を開く。
「百年前」
その一言だけで、空気が変わった。
「俺たちは恋人だった」
マナの心臓が跳ねる。
けれど、不思議と驚きは少なかった。
どこかで、そうなんじゃないかと思っていた。
「同じ学校に通ってて」
ライは遠い記憶を辿るみたいに話す。
「マナはよく笑うやつだった」
「……今と一緒じゃん」
「うるさかったし」
「悪口?」
「でも、ずっと隣にいた」
ライの声が少し柔らかくなる。
「俺、お前のことが好きだった」
真っ直ぐな言葉。
マナの顔が熱くなる。
「マナも、好きって言ってくれた」
「……」
「すごく幸せだった」
その言葉が、胸に刺さる。
知らないはずなのに、懐かしい。
ライは続けた。
「でも途中で、マナが病気になった」
マナの指先が震える。
やっぱり。
夢は本当だった。
「治らない病気だった」
静かな声。
「最初は退院できるって信じてた」
でも、とライは笑う。
その笑顔は痛いくらい寂しかった。
「どんどん弱っていって」
マナは息を呑む。
頭の奥で、記憶が少しずつ繋がっていく。
白い天井。
苦しい呼吸。
それでも隣にいてくれたライ。
「……最後の日」
ライの声が震えた。
「マナ、笑ってた」
マナの胸が苦しくなる。
『泣くなよ、ライ』
夢の中で言った言葉。
「“来世でもまた恋人になろうね”って」
ライはそこで一度言葉を切った。
「……約束した」
沈黙。
時計の音だけが響く。
マナは気づけば泣いていた。
ぽろぽろ涙が落ちる。
「……なんで」
掠れた声。
「なんで、そんな大事なこと忘れてたんだろ」
ライの目が揺れる。
「忘れてても仕方ない」
「でもライは覚えてたのに……!」
「覚えてたくて覚えてたわけじゃない」
その声は苦しかった。
ライは拳を握る。
「忘れられなかった」
マナは息を呑む。
ライは泣きそうな顔で笑った。
「何回生まれ変わっても、お前のことだけ忘れられなかった」
百年間。
ずっと。
一人で。
その重さに、マナの胸が締め付けられる。
気づけば身体が動いていた。
「……ライ」
マナはライに抱きついた。
「っ」
「ごめん」
震える声。
「一人にして、ごめん」
ライの呼吸が止まる。
マナは強く抱きしめた。
どうしてこんなに自然なんだろう。
腕の中が、ひどく落ち着く。
まるでずっと前から、こうしていたみたいに。
ライの手が恐る恐る背中に回る。
壊れ物に触るみたいに。
「……マナ」
掠れた声。
その声を聞いた瞬間。
マナの脳裏に、また記憶が流れ込んだ。
病室。
涙でぐしゃぐしゃのライ。
そして、自分は笑って言う。
『次はいっぱいデートしよ』
『いっぱいキスして』
『いっぱい幸せになろ』
「……っ」
マナの顔が熱くなる。
同時に、ライも記憶が蘇ったらしく、耳まで赤くした。
「……お前」
「いや、これは、その」
「……そんなこと言ってた」
「待って今思い出したから俺も恥ずい!」
二人で顔を赤くする。
けれど次の瞬間、ライが堪えきれないみたいに笑った。
静かな、でも本当に嬉しそうな笑顔。
マナは目を見開く。
「……ライ」
「ん?」
「その顔、好き」
言った瞬間、空気が止まった。
ライの目が揺れる。
マナも「うわやば」と顔を覆った。
「いや違、今の流れで!」
「……マナ」
名前を呼ぶ声が優しい。
顔を上げると、ライがすぐ近くにいた。
真っ直ぐ見つめてくる。
百年前と同じ目。
「もう一回、好きになってもいい?」
その言葉に、マナの胸が熱くなる。
違う。
もう、好きになり始めてる。
ずっと前から。
コメント
1件
うわ……この話えぐかったッス…… 百年前の記憶とか約束とか、ライが一人で抱えてた重さを思うと胸が苦しいです。「忘れられなかった」って言葉、ガチで刺さりました。 でも最後の「もう一回、好きになってもいい?」からの流れは最高で、感動で泣きそうになりました。しろまるさん、この回は特にズルいっすわ……🔥