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柘榴とAI

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#没入感フィクション
柘榴とAI

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柘榴とAI

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「うへぇ……」
「姉ちゃん体力無さ過ぎ! 俺等の方がいっぱい走れるよ!」
翌日から、本格的な訓練というか。
基礎体力作りという訳では無く、私達の身体能力を確かめるテストみたいなものが始まった。
軽く家の周りを走ってみましょうか、程度だったんだけど。
私、子供達にペース合わせてもらってる……いや、情けな!?
他の皆は、何度私を追い越したのか分からない程。
特に黒沢君とナナさんのペースが早い。
続いてグレーさん、そして必死に走っている感じの出っ歯さん。
なのだが、当然子供達に引っ張られる私よりペースは早いんだけど。
「も、もう無理ですぅぅ……」
「あと一周! もう一周だけ頑張ろう! 俺等も一緒に走るから!」
という事で子供達と一緒に更に一周走り切ってから、ベシャッと玄関先に伏せてみれば。
「はいはいお疲れ様~、水分補給しましょうねぇ~」
奥様から、全力で介護されてしまう結果に。
ホント……すみません。
子供達は、また走り出しちゃったし。
今から出っ歯さんを追い抜くんだって言って、皆元気に走り回ってるし。
「ず、ずびばぜん……」
「良いのよー? 他所から来る子はたまにいるけど、割とある事だし。私からすると、凄く頑張った方だと思うわよ? 最初の夜で、“虫とか無理!”って言って帰っちゃう子だって居るんだから」
とか何とか、奥様からはお言葉を頂いたけど。
あ、あれ? もしかして私そのレベルと比べてどっこいって事なんだろうか?
だとしたら、自分で思っていた以上に情けないけど。
「一応整体師の仕事してるから、マッサージしちゃって良いかしら? このままじゃ午後に響くわよ?」
「重ね重ね、すみません……お願いします。多分このままじゃ、絶対午後潰れてます……」
そんな訳で、皆が終わるまでマッサージを受けると言う。
私、ここに何しに来たんだろうか。
どうにか回復して、ご飯の準備だけは手伝わないと……。
◆
「うはぁ……走ったぁぁ……」
「ですねぇ。とはいえ、私は多分ナナさんの半分どころか……四分の一も走ってないですけど……」
お昼前、なんとも贅沢な事にお風呂に入っている私達。
お湯に浸かると分かるけど、身体が物凄く疲れてる……。
あと多分、昨日の影響もあってちょっと日焼けしてるのが分かる。
ちょっと肌がピリピリします。
これらも考慮してなのか、柚が浮かんだ広いお風呂で二人揃ってまったり。
柚湯って、効能とかは分かんないけど良い香りだぁ。
あと物凄く関係ないけど、柚湯に柚さんが浸かってる。
ナナさんの本名、小鳥遊 柚さんだもんね。
なんて下らない事を考えたりするから、多分私は自分のキャラにムッツキーとか名前を付けてしまうのだろうけど。
「シロちゃん的には、どう?」
変な事を考えつつ物凄く脱力していると、急にナナさんからはそんな言葉が聞えて来る。
昨日の晩は、どうやらたった十分程度の訓練で思った以上に疲れたらしく。
お布団に入ってからすぐ寝ちゃったけど。
二日目にして、この訓練に対する感想会という事なのだろう。
「何と言うか、驚きばっかりです。昨日の夜の出来事で、昼間の“遊び”の意味も分かったと言うか。川遊びだって、多分私達の“空間の把握能力”を確かめていたんですよね。慣れない環境に、流れる川。そんな中、皆の位置をちゃんと把握できているか、それを見てたんだと思います」
「ハッハッハ……だよねぇ。やっぱすげぇっすわぁ、10番目は……」
ちょっとだけ疲れた様な雰囲気で、お風呂の縁に身体を預けて脱力するナナさん。
す、凄い……“大きい”人って、本当に“浮かぶ”んだ。
なんてちょっとギョッとしてしまったが、今はそうじゃなくて。
さっきから思考が変な人みたいになっている気がする。
疲れているからという事にしておこう。
「何か、思う所が?」
「そだねぇ……悔しいなぁって、純粋に思ったって言うか」
悔しい、とは?
これまでの環境で、そう思えるような事があっただろうか?
私はもはや“凄い凄い”ばかりで、感動の連続な気がしたんだが。
彼の動き、言葉。
それら全てが、観察すればする程勉強になるというか。
でもナナさんに関しては、ちょっと感じ方が違った様で。
「多分あの人の教えって、私の勘違いじゃ無ければ……“自分を見る”事にも、注力してるなって」
「確かに……そうかもしれませんね。昨日の夜なんて、言葉を掛けられるたびに必死で頭を捻っちゃいました。自分に出来る事は何かって、内心……ずっと状況打開を試みてました」
彼に対するイメージは、完全に“上位者”。
私では全く歯が立たないからこそ、自分の中にある経験と感覚を必死に引っ張り出そうとしていた。
6keyの時はとにかく相手から動いて貰い、その場その場で対処する他無かったけど。
事前の時間が貰えるのなら、自分に出来る対処法は何かと全力で思考を回していた気がする。
「私はさぁ……ホラ、前も言ったけど。リアルはガチで“弱い”から」
「そ、そんな事は――」
「あるんだよ、実際。どうにかこうにか“強く”見せてるだけで、内心はヨワヨワの雑魚雑魚。だから昨日も、思わず考えちゃった。“無理だ”って……それだけならまだしも、VRならって。今の私が“seven”だったらって、思考が逃げた」
「え?」
ちょっと良く分かんないというか、例えが難しい気がする。
それは、弱い事なんだろうか?
こっちだって日常で、6keyの身体能力や感覚があったらって、何度思ったか分からない。
あんなに高い能力があれば、きっとリアルは本当の意味で姿を変えるのだろう。
もはやなんだって出来る気がして、有頂天になる気がする。
それは、駄目なんだろうか?
所詮妄想だと分かっていても、許されない事なんだろうか?
「多分ね、シロちゃんが考えているのとは違うかなぁって。私はね、完全に思考が逃げてたの。賞金首アバターを使ってたら、一回距離を取って牽制して、相手をちゃんと確認してから突っ込むーとかさ。そんな事ばっか考えて、完全に相手の術中に嵌ってた。“今は無い”筈のソレを想像して、“そっちだったら”って考えて。リアルの私じゃ無理だって、無意識化で肯定してたの」
「…………」
違う、ナナさんは凄い人だって、そう自信を持って言える。
けど確かに、今の話を聞くと……私が考えていた事とは、ちょっと方向性が違う気がするかも。
実際6keyの能力がこの身にあったらって、いつでも思うけど。
昨日の晩、私はtimelimit:10の声を聞きながら。
リアルの私の身体能力と感覚の元、それでも相手を探し出そうとしていた気がする。
無い物は無いから、今の自分でどうにかするしかない。
自身の事を諦めている思考回路はこびり付いている気がするのに、でも確かに……昨日の晩。
私は6keyでも46leatherでもなく、私自身として彼にどう立ち向かうべきを考えていた気がする。
絶対無理なのは知っているし、勝てる未来なんて一欠片も無いけど。
それでも、思考は全力で相手の事を探ろうとしていた。
だってそうしないと“このままやられるのではないか”、という所まで思考が無理矢理シフトしたから。
「それがシロちゃんと私の違いでもあり、シロちゃんの強みなんだよ。6keyの本当に強い所は……その“学習能力”。これまでのパターンを全て頭に入れた状態で、新しい敵に挑み。更にはその場でも学習し続ける。それどころか、相手を目の前にして“成長”を続ける」
「わ、私はそんな凄い存在じゃ……」
「ううん、コレは間違いなくシロちゃんの才能。だって……実際timelimit:10の“本物”との試合で、6keyはドローに持ち込んだでしょ? しかも、初戦で。あの映像、私も見せてもらったんだ」
コレを言われた瞬間、心臓が跳ねた気がする。
言われてみれば、確かにそうだ。
あの時は必死で、どうにか彼の真似をしよう、技術を盗もうって頑張っていただけなんだけど。
それでも私は“上位互換”とも言える彼に対して、ちゃんとキルを取ったのだ。
相打ちだったとしても、此方の一手は彼に届いていた。
どうして? 何故そんな事が出来た?
今更ながら、自分でも答えが分からない。
だって絶対勝てる筈ないって程強い人だし、コピーNPCとは比べ物にならないくらい怖かった。
でも、あの時は。
私も負けたけど、確かに相手を“倒した”のだ。
「アレを見てね、このままじゃ“置いて行かれる”って……そう思った。だって私、コピーNPCの10ですら勝てなかったもん。それなのに、シロちゃんは本物に対して初戦で引き分けた。この差は何なのかって、本気で考えたけど……46leatherを見た時のアレが、答えなのかなって」
「えと……もしかして、イベントの時の、彼のNPC戦……ですか?」
「だね、まさに“闘争心”。コレがシロちゃんの強み二つ目。どんな状況でも生き残ってやるって、そういう本気具合? みたいな。ゲーマーってさ、意外とそういうのが無いのかもしれない。計算と妥協で構成されているっていうか、本気ではあるんだけど……ちょっと根っこの部分が違うって言うか」
彼女が言う様な“プロ”のゲーマーの世界は、私にはちょっと分からないけど。
でも、普通だったら“諦めが悪い”って言われそうな事を……最近の私は、ずっと続けている気もして来る。
「だからね、その根っこの部分から変わってやるんだ~って思って。今回の合宿に参加したのに、最初っから逃げちゃった。それが……凄く、悔しい。VRだったら、sevenだったら、じゃないんだよ。今ここに居るのは私だろうが! って話。ソレが、すっごく悔しくなった……あはは、格好悪いね」
なんて言って、彼女はちょっとだけ困った様に笑うけど。
「私の感想にはなっちゃいますけど……ナナさんのそれは、凄く、格好良いって思います。私には勇気とか、覚悟とか無いですし。必死で頭で考えるばっかりで、実際行動に移せるかって言われたら……それこそ、お察しなので。けどそれを、ちゃんと“悔しい”って。“変わりたい”って言葉に出来るナナさんは……やっぱり、格好良いです」
慰めとか、励ましじゃなく。
純粋に、“尊敬”という意味で言葉に出来た。
だってこの人は、本当に格好良いから。
自分は弱いと言いながら、いつだって立ち向かうし。
実際にリアルの生活を激変させ、配信者として堂々と皆の前に姿を晒しているんだから。
私は例え“演じた”としてもそんな事出来ないし、どんなに頑張ってもこの人みたいにはなれないから。
だからこそ心の奥底から、“凄い人”なんだって本気で思えるので。
「私は、そんなナナさんを尊敬してますし、本気で格好良いって思ってます。格好悪いって表現しても、それでも前を向こうとするナナさんなら。いつか実力に変えて、当たり前みたいに披露してくれるんじゃないかって期待しちゃいます。それこそ、sevenが楽しそうに戦っている時みたいに。私にとっては、“憧れ”です」
ちゃんと言葉にしながらも、ガシッと彼女の掌を掴んでみると。
ナナさんは少しだけ驚いた顔をしてから。
「んもぉぉぉ~……シロちゃんからそんな事言われたら、絶対叶えたくなっちゃうじゃん。ドヤッ、凄いだろうって見せびらかしたくなっちゃうじゃん」
「は、はいっ! 期待しちゃいます!」
元気良く答えてみると、相手はガバッと全身で此方を包み込んで来て。
「んー! 好き、超好き! やっぱシロちゃんしか勝たん!」
「え、えぇと……そういうのはちょっと、よく分かんないですけど」
その後はやけにくっ付いて来るナナさんと一緒に、ちょっとのぼせたんじゃないかって程に温まるのであった。
ついでに言うと、くっ付いて来た時の感触で、確かな敗北感というか。
圧倒的な差を感じてしまったのは、仕方ない事だと思う。
気にしても仕方ないんだけどね……うん。
コメント
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くろぬかさん、第151話読みました! お風呂でのナナさんとシロちゃんの会話、すごく良かったです……。お互いの“弱さ”を認め合いながら、それでも前に進もうとする2人の距離が縮まる感じに、胸が温かくなりました。特にナナさんが「VRだったら」と逃げる自分を認めたシーン、そこからシロちゃんが「憧れです」と素直に伝える流れが自然で、リアルな人間関係の厚みを感じます。2人の信頼関係がじわじわ育ってるのが伝わってきて、すごく好きなエピソードでした!