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side 藤澤
最初は、ファンだと思ってた。
「藤澤さんですよね?」
控えめな声の男性。
帰り道で声をかけられた。
「ずっと応援してて……」
困った顔。
震える手。
僕は足を止める。
「どうしました?」
相手は少し俯いて言う。
「今ちょっと事情があって……お金が必要で」
嫌な予感。
でも。
「返します。本当に。助けてほしくて」
涙ぐむ。
僕の胸がぎゅっとなる。
(ほんとに困ってるんだ、、)
「少しだけなら……」
財布を出してしまう。
それが、始まり。
「本当に助かりました」
次の日も会う。
「もう少しだけ」
その次も。
金額が少しずつ増える。
僕は気づいてる。
おかしいって。
でも。
「他に頼れる人いなくて」
そう言われると、断れない。
(僕が断ったら、この人どうなるんだろう)
若井の顔が浮かぶ。
元貴の声も。
“知らない人には気をつけて”
でもこれは悪意じゃない。
困ってるだけ。
そう思い込む。
段々と財布が軽くなる。
貯金が減る。
でも誰にも言えない。
怒られるかもしれない。
心配かけるかもしれない。
「涼ちゃん、最近なんか元気ない?」
元貴が首をかしげる。
「大丈夫」
笑う。
嘘がうまくなる。
ある日。
若井が気づいた。
「涼ちゃん、通帳どうしたの?」
机に出しっぱなしだった。
数字が明らかに減っている。
「……ちょっと使っただけ」
視線を逸らす。
若井の眉が寄る。
「、何に?」
沈黙。
その沈黙で、若井は察する。
「誰に使ったの」
低い声。
怖いくらい静か。
僕が小さく言う。
「困ってる人がいて」
空気が凍る。
元貴の顔色が変わる。
「いくら」
「……っ、」
「涼ちゃん」
若井の声が震える。
怒りで。
「いくら渡したの」
小さく、金額を言う。
一瞬、無音。
次の瞬間。
若井の拳が机を叩く。
「ふざけんな」
怒鳴らない。
でも声が低すぎる。
「それ、たかられてるよ」
僕の心臓が跳ねる。
「違う、ッ……返すって言われたもん」
「返さないよ」
即答。
元貴も珍しく強い声。
「それ、完全に狙われてるよ」
僕の目が揺れる。
(そんな、はず)
でも。
思い返す。
連絡は向こうからだけ。
お金の話ばかり。
返済の具体的な話はない。
胃が冷える。
「僕……」
声が震える。
「騙されてる、?」
若井が僕の肩を掴む。
でも優しく。
「優しいのはいいこと」
震える声。
「でも利用されないで」
その目は怒ってる。
僕に対してじゃない。
相手に。
元貴が涙目になる。
「なんで言わなかったの」
「……怒ると思って」
その一言で、若井の顔が歪む。
「怒るよ」
はっきり言う。
「でも涼ちゃんにじゃない」
強く抱きしめる。
「俺たちもいるのに、なんで一人で抱えるの?」
僕の目から涙が落ちる。
「迷惑かけたくなくて」
元貴が横から抱きつく。
「迷惑じゃないよ」
震えてる。
「涼ちゃんに傷ついてほしくないの」
その言葉で、胸が締め付けられる。
僕はやっと本音を言う。
「……断れなかったの。 可哀想で、、
僕がいなきゃって思っちゃって」
若井が息を吐く。
怒りを飲み込むみたいに。
「…次から会わないで」
強い声。
「連絡先もブロックして」
僕が小さく頷く。
「俺が対応する」
その目は本気。
社会的に終わらせる覚悟の目。
元貴も珍しく怒ってる。
「人の優しさ踏みにじるとか最低」
僕は二人の間で、震えながら思う。
(僕、守られてるなぁ、)
情けない。
でも、安心する。
「……ごめん」
「謝らないで」
若井が即答。
「俺たちの役目は仲間を守ること」
元貴も頷く。
「次はちゃんと相談して」
僕は涙目で笑う。
「うん」
優しさは悪くない。
でも、僕には 守ってくれる人がいるから
ひとりで抱えなくていい。
side 大森
その夜、若井はずっと怒っていた。
涼ちゃんの前では抑えてたけど。
「絶対許さない」
小さく呟く。
その声は、本気だった。
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