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幻霧の村ネーヴェルに少しだけ行くことが出来た。
しかし、実際はドワーフしか行けない――というより、認められた者のみが入れるような感じに終わり、薬師のことについては有用なことは得られなかった。
だが、ルティが薬師の知識を得られたことだけは収穫と言えるだろう。
「ルティシア。そ~っと、そ~っとですよ? 私は彼女たちにも声をかけて来ますから、あなたは彼を」
「はい! 母さま」
「それと、樽は洗っておきましたから存分に」
「ありがとうございます!!」
濃い霧に包まれながら、おれの意識と体はいつの間にかロキュンテに戻されていた。戻されてすぐのことだが、誰かのやり取りが耳に届いた。
体と意識はまだ目覚めそうにないが誰かに何かをされてしまうのか――などと思っていたら全身が上下に揺らされている。こっそり抱きかかえられている時点で、ルティの仕業なのだと確信。
「えっほ、えっほ……もうすぐですからね~」
まるで重たい物でも運ぶように、威勢のいいルティの掛け声が聞こえた。しばらく揺りかごのように揺られていたが、急に賑やかな声に変わる。
「ウニャッ! ドワーフ、遅いのだ! 早くするのだ!」
「わらわも入りたいなの。でもでも、そばで見ているだけなの!」
「――っしょ、こいしょ~……ではでは、お待たせしました~! ご主人様、お目覚めくださ~い」
シーニャとフィーサそれぞれでおれを待ち構えているらしい。
だが――
「ぼごぁっ――!?」
な、何だ!?
目を開けようとしたその時だ。とてつもなく息が苦しく、それでいて熱い液体が体の中に流れ込んできた。
まさかと思うが……
……一連の流れは全て幻霧の村の仕業?
それとも実は彼女たちの幻聴を聞かせられた挙句、ロキュンテの熱湯にでも放り込まれたということなのだろうか。
【アック・イスティ ドワーフのお気に入り 業火耐性強化、刺激耐性】
あれ?
色々なことが脳裏に浮かぶも、どうやら業火の耐性が追加されるようなことをされたよう。
業火ということは火口のマグマにでも投げられたか?
「あぁぁっ!? お、溺れてますよぉぉぉ!! 早く早く引き上げて~!」
「任せるのだ! アック、シーニャにつかまれなのだ!」
彼女たちの慌てぶりを目の当たりにしてすぐにそうじゃないことに気付く。しかし何気に溺れかけ状態だった。
「ぬああっ!!」
おれは迷うことなくシーニャの声のする方に向かって、勢いよく飛び込んだ。
「フギャァァ!?」
視界がぼやける中、とにかく必死になってどこかにつかまり続けた。相当な熱湯を体内に含んでしまったことから、意識がもうろうとしている。その状態から収まるまでにかなり時間を要したようで、静寂が訪れるまで必死にしがみついた。
おれの両手は何かにしっかりしがみつき、離すことなく掴まりながら何かを力強く握りしめている状態だ。
「……う。んうう――?」
静寂の中、少しずつ目を開けるとそこに広がる光景は一面の霧だった。温かいものから立ち上る水蒸気が空気中で冷えて白く見える湯気のようにも見えている。
「も、もういいのだ? アック、放して欲しいのだ……フニャ」
そんな中、聞こえてきたのは戸惑ったようなシーニャの声だ。
「うん? そ、そうか。もしかして尻尾を掴んでいたのかな? ごめんな、シーニャ」
「い、いいのだ……シーニャ、アックの女なのだ。いつでも握っていいのだ」
何か様子がおかしい――そう感じ、ごしごしと目をこすって湯気が薄まっていくのを待った。次第に視界が鮮やかになり、直後にルティとフィーサの怒り狂った声が響く。
二人とも顔を真っ赤にして怒りを露わにしているようだが?
「あぁぁぁぁ……!! アック様! 何で何でシーニャなんですか~!!」
「わらわも人化していたら、あんなことやこんなことまでしてもらえたなの!!」
「何のことだ? おれがシーニャに何だって?」
「そんなこと、わたしが言うはずないじゃないですか!! 全く全く、アック様には本当に本当に~」
どういう理由で怒っているのか全く分からないが、呆れているようにも見える。
「ルティ、落ち着け。というより、お前その格好……」
どういうわけかルティの格好はどう見ても、温泉に入る直前の段階だ。
「もちろん準備万端に決まっていますよ!! うぅぅ~それなのに~」
「何の準備だよ……なぁ、シーニャ――」
「フニャゥ……」
な、何でシーニャが裸になっているんだ!?
普段の彼女は獣人らしく全身を毛皮のようなもので覆っている。だが今見えている彼女の全身はそれでは無く、あられもない姿そのものだ。
そうなるとおれが必死にしがみつき、両手で握っていたのは――。だが何かに抑制されているのか、それ以上の思考には及べない。まるで刺激耐性で抑制されているかのように。
シーニャにはとんでもないことをし続けていたみたいで、彼女は湯に浸かったままびくともしない。今後はそうさせない為にももっと気を引き締めなければならないな。