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北斗side🌙
タクシーを降りてから、夜道を一人歩きながら今日のことを振り返す。
〇〇のきょもへ飯の誘いから始まった宴会、酔った〇〇を支え、二人きりのタクシー。
玄関まで送ったときの、少し酔って無防備な表情も思い出す。
今日も色々あったな。
キスはこれで三回目。
一回目はドラマの撮影中、役としてのキス。
二回目は飲みの場で、事故みたいなキス。
そして今回、口移しで水を渡すとき。
全部偶然のように見えて、少しずつ距離が縮まったことは間違いない。
口移しのときは正直、動揺した。あんなの、偶然じゃなくても困るだろう。
〇〇はまだ、俺のことを仲間としてしか見ていない。焦っても仕方ない。でも動くときは確実に動かないと。
膝枕で寄り添った瞬間も、タクシーで二人きりになった時間も、玄関でぎゅっと抱きついたときも、どれも大事な瞬間だった。
今日一日で、自分の気持ちはさらにはっきりした。〇〇ともっと近づきたい、少しでも側にいたいという気持ちは変わらない。
ーーーーーーーーー
☀️
〇〇side
朝、事務所に着くと風磨がすでにいて、資料に目を通している姿が見えた。昨日のことはほとんど覚えていないのに、膝枕で寝ていたことやタクシーで北斗と二人きりだったことが断片的に思い出され、胸の奥がざわつく。
〇〇は深呼吸をひとつして、自分の勇気を振り絞った。
昨日のことを北斗に確かめるべきか、それともなかったことにするべきか。頭の中でぐるぐる考える。
〇〇「ねえ、風磨…昨日のこと、北斗に聞いたほうがいいかな…」
風磨は肩をすくめて、少し笑いながら言った。
風磨「本人に聞けば?俺に聞かれても答えられないぞ」
〇〇「そ、そうだけど…ちょっと勇気が出なくて」
風磨は軽くため息をつき、〇〇の手を軽く引くようにして立たせる。
風磨「しょうがないな。俺が連れてってやるから、とりあえずSixTONESがいるスタジオまで行くぞ」
〇〇は少し戸惑いながらも、後ろをついていく。
胸の奥がドキドキして、昨日の膝枕やタクシーでの距離感を思い出すたびに、心臓の鼓動が速くなる。
〇〇(まさか昨日も…いや、そんなこと、覚えてないはず…)
廊下を歩きながら、〇〇は足元を気にして歩く。風磨は気さくに話しかけながらも、自然に背中を守るように距離を保ってくれる。
〇〇「…風磨、ありがとう」
風磨「いいって。本人に確認するしかないからな」
エレベーターの前に着くと、ボタンを押しながら〇〇は深呼吸する。
北斗と直接向き合うのは、思っていた以上に緊張する。昨日のことをほとんど覚えていないとはいえ、膝枕で寝てしまった自分、タクシーで二人きりになった自分の行動を思い出すだけで、心臓が早く打つ。
風磨は無言で先にエレベーターに乗り、少し間を置いて〇〇を促す。
〇〇は小さく息を吐き、覚悟を決めて中に入る。
エレベーターの中は静かで、少しの緊張が余計に意識を集中させる。
〇〇はスマホを握りしめ、昨日の断片的な記憶を頭の中で整理する。膝枕で寝たときの感触、タクシーで北斗の隣に座ったときの距離感、玄関で抱きついた瞬間の柔らかさ。どれも曖昧で、でも心の奥では強く印象に残っている。
〇〇(これって、もしかして…北斗に昨日のこと、ばれてるのかな…?)
そんなことを考えながら、エレベーターの扉が開き、スタジオのフロアに到着する。風磨は軽く〇〇の肩を押して歩き出す。
〇〇は少し足を早めてついていく。心臓の鼓動は止まらない。
スタジオの中には、SixTONESのメンバーたちがすでに準備をしていた。カメラや照明が整えられ、スタッフたちが忙しく動いている。北斗はその中で台本を確認している。
〇〇は一瞬足が止まる。北斗と向かい合う瞬間、昨日のことを思い出しかけて胸がざわつく。膝枕、タクシーでの二人きり…どれも断片的に頭に浮かぶ。
風磨が小さく肩を叩く。
風磨「行け。本人に聞け」
〇〇は深呼吸して、ゆっくりと北斗の前に歩み出す。
心臓がまだ早く打っている。昨日の自分の行動をほとんど覚えていないまま、でも確かめる必要があると感じる。 SixTONESのいるスタジオのドアノブに手をかける。
ーーーーー
スタジオにはすでにSixTONES全員が揃っていて、空気はいつも通り賑やかだった。
樹「お、〇〇じゃん」
ジェシー「おはよー!」
慎太郎「昨日ぶりー」
きょも「大丈夫?顔ちょっと疲れてるよ」
高地「飲みすぎたでしょ」
一気に視線が集まる。
〇〇は少しだけ苦笑いを浮かべた。
〇〇「ちょっとね…二日酔い」
その一言で、空気が一瞬だけ変わる。
メンバー同士がちらっと目を合わせる。
風磨は横でニヤッとする。
風磨「昨日のこと覚えてないらしいぞ」
〇〇「ちょっと風磨!」
樹「え、マジで?」
慎太郎「それはやばいな」
ジェシー「どこまで覚えてないの?」
〇〇は少し困った顔で答える。
〇〇「ほんとに途中からあんまり…」
その瞬間。
樹がゆっくり北斗を見る。
慎太郎もニヤニヤしながら北斗を見る。
ジェシーも楽しそうに視線を向ける。
完全に空気ができる。
樹「へぇ〜」
慎太郎「そうなんだ〜」
ジェシー「北斗〜?」
〇〇はその流れに気づいて、少しだけ戸惑う。
〇〇「え、なに…?」
風磨がわざとらしく肩をすくめる。
風磨「いや別に。なあ北斗?」
北斗は無表情のまま、台本を見ている。
北斗「…別に何もねぇよ」
樹「いやいやいや」
慎太郎「それは無理あるって」
ジェシー「言えよー北斗ー」
一気に盛り上がる。
〇〇「ちょっと、何があったの?」
北斗は軽くため息をつく。
北斗「だから何もねぇって言ってるだろ」
風磨「いやそれは逃げ」
樹「ちゃんと説明しろよ」
慎太郎「本人困ってんじゃん」
ジェシー「優しくね?」
きょもは笑いをこらえながら見ている。
高地は苦笑いしながらも止めない。
完全に逃げ道がなくなる。
北斗は一瞬だけ黙る。
〇〇はその様子を見て、少し不安そうに言う。
〇〇「…そんなにやばいことした?」
その言葉で、さらに空気がざわつく。
樹「やばいっちゃやばい」
慎太郎「まあまあだな」
ジェシー「レアではある」
〇〇「え、なにそれ…」
北斗は小さく息を吐く。
北斗「…ちょっと来い」
〇〇「え?」
北斗は立ち上がり、〇〇のほうに一歩近づく。
周りが一気に静かになる。
風磨が小さく笑う。
樹が腕を組んで見ている。
慎太郎はニヤニヤが止まらない。
北斗は〇〇のすぐ横に立つ。
距離が一気に近くなる。
〇〇「なに…?」
北斗は少しだけ顔を寄せる。
そして、周りには聞こえないくらいの声で――
北斗「…口移しで水、飲ませた」
一瞬、時間が止まる。
〇〇の思考が追いつかない。
〇〇「……え?」
北斗はすぐに離れる。
何事もなかったように元の位置に戻る。
周りはその反応を見て、一気に爆発する。
樹「言ったな!!」
慎太郎「おおおお!」
ジェシー「やば!!」
風磨「ほらな」
〇〇はその場で固まる。
さっきの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
口移し。
北斗が。
自分に。
〇〇の顔が一気に熱くなる。
〇〇「ちょっと待って…それ、ほんと…?」
北斗は淡々と答える。
北斗「お前が飲めなかったからだろ」
〇〇「いや、でも…」
言葉が続かない。
周りは完全に面白がっている。
慎太郎「しかもめっちゃ自然にやってたからな」
ジェシー「かっこよかったよ!」
樹「お前覚えてないのやばすぎ」
〇〇は完全にパニックになる。
〇〇「ちょっと待って無理無理無理…」
北斗はそんな様子を横目で見ながら、軽く肩をすくめる。
北斗「大げさ」
〇〇「大げさじゃない!」
そのやり取りに、また笑いが起きる。
でも〇〇の中では、確実に何かが変わり始めていた。
覚えていないはずなのに。
でも確かにあった出来事。
そして、それを当たり前みたいに言う北斗。
〇〇は少しだけ視線を下げる。
さっき耳元で言われた声が、まだ残っている。
近すぎた距離。
低い声。
心臓の音がうるさい。
〇〇は無意識に、北斗の方を見てしまう。
北斗はもう何事もなかったみたいに台本を見ている。
その温度差が、余計に意識させる。
〇〇(…なんでこんなに、ドキドキしてるの…)
スタジオの賑やかな空気の中で、
〇〇だけが少し違う感情に飲み込まれていた。
ーーーーーー
北斗side。
スタジオに入ると、もう全員揃っていた。
いつも通りの騒がしい空気。
その中に、〇〇が入ってくる。
一瞬で目に入る。
顔色が少し悪い。
歩き方もゆっくりで、昨日の酒が残っているのがすぐわかる。
視線を逸らすのが少し遅れた。
樹「お、〇〇じゃん」
ジェシー「おはよー!」
慎太郎「昨日ぶりー」
きょも「大丈夫?顔ちょっと疲れてるよ」
高地「飲みすぎたでしょ」
〇〇「ちょっとね…二日酔い」
その言葉で、全員が同じことを思い出したのがわかる。
風磨がすぐに口を開く。
風磨「昨日のこと覚えてないらしいぞ」
やっぱり、と思う。
〇〇「ちょっと風磨!」
樹「え、マジで?」
慎太郎「それはやばいな」
ジェシー「どこまで覚えてないの?」
〇〇「ほんとに途中からあんまり…」
北斗は台本を見たまま何も言わない。
けど、耳は全部拾っている。
覚えてない。
あれも、これも。
自分に寄りかかってきたことも、
距離も、
触れたことも。
全部。
樹「へぇ〜」
慎太郎「そうなんだ〜」
ジェシー「北斗〜?」
来ると思った。
めんどくさい流れ。
〇〇「え、なに…?」
風磨「いや別に。なあ北斗?」
北斗「…別に何もねぇよ」
即答する。
これ以上、余計なことを言う気はない。
樹「いやいやいや」
慎太郎「それは無理あるって」
ジェシー「言えよー北斗ー」
うるさい。
でも、止まらない。
〇〇「ちょっと、何があったの?」
その声に、少しだけ顔を上げる。
困ってる顔。
何も知らない顔。
北斗「だから何もねぇって言ってるだろ」
風磨「いやそれは逃げ」
樹「ちゃんと説明しろよ」
慎太郎「本人困ってんじゃん」
ジェシー「優しくね?」
完全に囲まれる。
〇〇「…そんなにやばいことした?」
やばいこと、ではない。
ただ――
自分にとっては、軽く流せるものでもない。
樹「やばいっちゃやばい」
慎太郎「まあまあだな」
ジェシー「レアではある」
〇〇がさらに困る。
北斗は一度だけ目を閉じて、小さく息を吐く。
このまま放っておくと、余計にこいつが不安になる。
北斗「…ちょっと来い」
〇〇「え?」
立ち上がって、〇〇の方へ行く。
近づくだけで、距離が一気に詰まる。
昨日と同じくらい近い。
無意識に、あの時の感覚がよみがえる。
〇〇「なに…?」
少しだけ顔を寄せる。
周りには聞こえないように、声を落とす。
北斗「…口移しで水、飲ませた」
言葉にした瞬間、少しだけ喉が引っかかる。
それでも表情は変えない。
すぐに離れる。
それ以上近くにいる理由はない。
席に戻る。
一拍遅れて、周りが爆発する。
樹「言ったな!!」
慎太郎「おおおお!」
ジェシー「やば!!」
風磨「ほらな」
〇〇は完全に固まっている。
顔が一気に赤くなる。
その反応に、少しだけ視線が止まる。
〇〇「ちょっと待って…それ、ほんと…?」
北斗「お前が飲めなかったからだろ」
事実だけを返す。
それ以上は言わない。
言えるわけがない。
〇〇「いや、でも…」
言葉に詰まる。
慎太郎「しかもめっちゃ自然にやってたからな」
ジェシー「かっこよかったよ!」
樹「お前覚えてないのやばすぎ」
〇〇「ちょっと待って無理無理無理…」
北斗は軽く肩をすくめる。
北斗「大げさ」
〇〇「大げさじゃない!」
笑いが起きる。
でも、その中で少しだけ目を細める。
さっきの距離。
耳元で話したときの反応。
ちゃんと、伝わってる。
少なくとも、何もない時よりは。
覚えていないのは都合がいい。
でも、何も残らないのは少しだけ引っかかる。
それでもいいと思っていたはずなのに。
〇〇はまだ何も知らない。
こっちがどう思ってるかも、全部。
それでいい。
そう思ってるのに。
さっきみたいに、少しでも意識された反応を見ると、
引く理由がわからなくなる。
北斗は台本に視線を落とす。
北斗「準備入るぞ」
声をかけて空気を戻す。
仕事に戻る。
でも、さっきの距離と表情は頭から離れない。
知らないままでいいと思ってた相手に、
少しでも気づかせたくなる。
そんな感情が、確実に強くなっていた。
ーーーーーー
スタッフ「SixTONESの皆さん、準備お願いします」
その声で空気が切り替わる。
樹「はーい」
ジェシー「行きまーす!」
慎太郎「よっしゃ」
きょも「じゃあね」
高地「またあとで」
それぞれ立ち上がって、撮影スペースの方へ向かっていく。
北斗も最後に立ち上がる。
一瞬だけ、〇〇の方を見る。
〇〇は咄嗟に目を逸らす。
何も言わず、そのまま北斗も離れていく。
スタジオに残るのは、〇〇と風磨、スタッフ数人だけ。
さっきまでの賑やかさが一気に静かになる。
〇〇はその場に立ったまま、固まる。
数秒。
そして――
〇〇「無理無理無理無理無理!!!」
一気に崩れる。
風磨「うるさ」
〇〇「ちょっとほんとどういうこと!?」
風磨は近くの椅子に座りながら、余裕の表情。
風磨「だから何が」
〇〇「口移しって何!?」
風磨「そのままだろ」
〇〇「そのままが一番やばいの!!!」
頭を抱える。
〇〇「聞いてないし!覚えてないし!なんでよりによって北斗なの!?」
風磨「お前が呼んだから」
〇〇「それさっきも言ってたけど納得いってない!」
風磨「じゃあどうしろと」
〇〇「止めてよ!!!」
即答。
風磨は思わず笑う。
風磨「いや無理だって」
〇〇「無理じゃないでしょ!」
風磨「いやあの空気で止めたら逆におかしいだろ」
〇〇「おかしくていいから止めてよ!!!」
完全に責任転嫁。
風磨は笑いながら首を振る。
風磨「なんで俺が悪いんだよ」
〇〇「悪いよ!!!」
〇〇はその場でしゃがみそうになりながら頭を押さえる。
〇〇「ほんと最悪なんだけど…」
風磨「そんなか?」
〇〇「そんなでしょ!!普通に考えて!」
少し間。
〇〇は小さく息を吐く。
〇〇「…てかさ」
風磨「ん?」
〇〇「北斗、普通すぎない?」
風磨は少しだけ視線を上げる。
〇〇「なんとも思ってなさそうじゃん」
風磨「まあな」
〇〇「いや“まあな”じゃなくて!」
〇〇は顔を覆う。
〇〇「こっちはこんなに恥ずかしいのに…」
風磨はその様子を見て、少しだけ口角を上げる。
風磨「お前さ」
〇〇「なに」
風磨「ほんとに何も気づいてないな」
〇〇「え?」
風磨は軽く肩をすくめる。
風磨「いや、別に」
〇〇「気になる言い方やめて」
風磨「気にすんなって」
〇〇「いや無理なんだけど」
〇〇はまだ顔を赤くしたまま、少しだけ視線を落とす。
頭の中では、さっきの北斗の声がずっと残っている。
あの距離。
あの低い声。
〇〇「…ほんと最悪」
風磨「顔赤いぞ」
〇〇「うるさい」
少しだけ静かになる。
風磨はふっと笑う。
風磨「まあでも」
〇〇「なに」
風磨は軽く前を見たまま、さらっと言う。
風磨「“事故”って思ってんの、お前だけかもな」
〇〇「……え?」
一瞬、言葉の意味が理解できない。
風磨はそれ以上何も言わない。
そのまま立ち上がる。
風磨「ほら、戻るぞ」
〇〇はその場に少しだけ立ち尽くす。
頭の中でさっきの言葉が何度も繰り返される。
事故じゃないかもしれない。
その可能性が、少しだけ胸に引っかかる。
〇〇は無意識に、撮影スペースの方を見る。
そこにいる北斗の姿を思い浮かべる。
〇〇(…なにそれ)
答えは出ないまま。
ただ、昨日と同じ気持ちではいられないことだけは、確かだった。
ーーーー
撮影スペースへ向かったはずのSixTONES。
しかし完全に離れたわけではなかった。
セットの裏。
壁一枚隔てた位置。
ちょうど声が少しだけ聞こえる距離。
慎太郎「……聞こえてね?」
樹「聞こえるな」
ジェシー「めっちゃ聞こえる!」
きょも「静かにして」
高地「いやこれまずいって」
その時。
〇〇の声がはっきり届く。
「無理無理無理無理無理!!!」
全員、動きが止まる。
慎太郎「きた」
樹「完全にきたな」
ジェシー「パニック!」
きょもは笑いをこらえている。
高地は頭を抱えている。
そのまま会話が続く。
「口移しって何!?」
一瞬、全員が北斗を見る。
北斗は無言。
樹「いやまあそうなるよな」
慎太郎「そりゃそうだろ」
きょも「覚えてないって強いね!」
北斗は軽くため息をつく。
北斗「…聞くなよ」
樹「無理」
即答。
また声が聞こえる。
「止めてよ!!!」
慎太郎「風磨責められてる」
ジェシー「かわいそう!」
樹「いや自業自得だろ」
きょも「でも気持ちはわかる」
北斗は壁にもたれながら、静かに聞いている。
全部聞こえている。
「なんでよりによって北斗なの!?」
その言葉で、空気が一瞬止まる。
慎太郎「うわ」
ジェシー「それ言う?」
樹はちらっと北斗を見る。
北斗は表情を変えない。
北斗「…別にいいだろ」
声はいつも通り。
でも、少しだけ間があった。
その後も声が続く。
「北斗、普通すぎない?」
樹「きたな」
慎太郎「ここ大事」
ジェシー「評価タイム!」
高地「やめろって」
北斗は目を伏せる。
確かに、普通にしている。
そうしないといけないから。
「なんとも思ってなさそうじゃん」
その言葉に、ほんの一瞬だけ眉が動く。
樹はそれを見逃さない。
樹「いや思ってるけどな」
小声でぼそっと言う。
北斗「うるせえ」
すぐ返す。
でも否定はしない。
その時、風磨の声が少し落ちる。
「“事故”って思ってんの、お前だけかもな」
全員、静かになる。
一瞬、空気が変わる。
慎太郎「おお…」
ジェシー「言ったね〜」
きょもは少しだけ笑いながら、でも真面目な顔。
高地「風磨、攻めるなあ」
樹は腕を組む。
樹「いいね、火つけにいってる」
その言葉のあと、向こうは静かになる。
会話が終わったのがわかる。
少しの沈黙。
そして――
慎太郎「で?」
ジェシー「で?」
樹「どうすんの北斗」
一斉に視線が集まる。
北斗は壁から体を離す。
少しだけ息を吐く。
北斗「…別に」
樹「いやそれはない」
慎太郎「今の聞いてそれはない」
きょも「チャンスだよ!」
高地「プレッシャーやめてあげて」
きょもは静かに北斗を見る。
きょも「でも、変わったよね」
北斗は少しだけ視線を動かす。
きょも「〇〇の方」
樹「わかる」
慎太郎「さっきの反応な」
ジェシー「完全に意識してる!」
北斗は何も言わない。
でも、さっきの顔は頭に残っている。
耳元で伝えたときの反応。
赤くなった顔。
確実に、前とは違う。
樹が少しだけ真面目な声になる。
樹「このまま行くと普通に誰かに持ってかれるぞ」
慎太郎「それな」
ジェシー「ライバル多いしね!」
高地「まあ実際ね…」
きょもは静かに言う。
きょも「待つだけじゃ、きついと思うよ」
その言葉に、少しだけ空気が締まる。
北斗は目を閉じる。
数秒。
そして、ゆっくり開ける。
北斗「……わかってる」
小さく、それだけ言う。
その一言に、全員が少しだけ表情を変える。
樹「珍しいな」
慎太郎「認めた」
ジェシー「進展!」
風磨たちが戻ってくる気配がする。
高地「来るぞ」
樹「はい通常モード」
一瞬で空気が切り替わる。
それぞれ何事もなかった顔に戻る。
北斗も同じように、いつもの表情に戻る。
でも内側では、確実に何かが動いていた。
さっきの言葉。
“事故だと思ってるのはお前だけ”
あれが、どこまで届いたのかはわからない。
けど――
少なくとも、もう何も変わらないままではいられない。
北斗は何も言わず、撮影位置へ歩き出した。
ーーーーーー
あれから時間は経ち、スタジオの端。
簡易的に置かれたテーブルに資料を広げながら、〇〇と風磨は向かい合って座っていた。
タイムレスの新曲についての打ち合わせ。
の、はず。
〇〇「……」
資料を見ている。
でも全く頭に入ってこない。
風磨「おい」
〇〇「んー…」
風磨「聞いてる?」
〇〇「聞いてる…たぶん」
完全に上の空。
ペンを持ったまま、ぼーっと一点を見つめている。
風磨は呆れたようにため息をつく。
風磨「無理だなこれ」
〇〇「無理…」
即答。
〇〇はそのまま机に突っ伏す。
〇〇「終わった…人生終わった…」
風磨「大げさ」
〇〇「大げさじゃないって…」
声に全く元気がない。
〇〇「口移しってなに…ほんと無理…」
風磨「まだ言ってる」
〇〇「だってさ…北斗だよ?」
風磨「だから?」
〇〇「だからってなるでしょ普通!」
顔を上げて抗議する。
でもすぐまた机に戻る。
〇〇「しかも覚えてないの最悪なんだけど…」
風磨は軽く笑う。
風磨「それはまあな」
〇〇「…謝ったほうがいいかな」
ポツッと呟く。
風磨は少しだけ視線を上げる。
風磨「好きにすれば」
〇〇「でも変じゃない?」
風磨「もう十分変だから大丈夫」
〇〇「うるさい」
その時。
ガチャ
ドアが開く。
SixTONESのメンバーたちが、撮影終わりで戻ってくる。
樹「終わったー」
慎太郎「疲れたー」
ジェシー「楽しかった!」
きょも「お疲れ」
高地「ふぅー」
一気に空気がまた賑やかになる。
そしてすぐ、〇〇に視線が集まる。
樹「お前どうした?」
慎太郎「顔死んでるぞ」
ジェシー「ゾンビみたい!」
〇〇「やめて」
即答。
でも否定する元気もない。
風磨が横で笑っている。
風磨「ずっとこれ」
〇〇「言わなくていい!」
慎太郎「まだ引きずってんの?」
ジェシー「かわいい笑」
樹「いや相当だろこれ」
きょもは少し優しく声をかける。
きょも「大丈夫?」
〇〇「大丈夫じゃない…」
正直すぎる返答に、また笑いが起きる。
高地「珍しいなここまで」
〇〇は顔を覆う。
〇〇「ほんと無理なんだけど…」
その時。
少し離れたところにいる北斗が視界に入る。
さっきまでよりも距離はあるのに、なぜかすごく近く感じる。
〇〇は少しだけ迷う。
でも、ゆっくり立ち上がる。
〇〇「…北斗」
声をかける。
周りが一瞬静かになる。
北斗は振り返る。
〇〇は少しだけ目を逸らしながら言う。
〇〇「昨日…その…ごめん」
北斗「何が」
いつも通りの声。
〇〇「迷惑かけたし…その…いろいろ」
言葉を濁す。
顔は少し赤いまま。
北斗は少しだけ間を置く。
北斗「別に」
短く返す。
〇〇「でも…」
北斗「気にすんなって言っただろ」
少しだけ強めに言われる。
でも、突き放す感じではない。
〇〇は一瞬だけ顔を上げる。
北斗の表情はいつも通り。
でも、どこか優しい。
〇〇「…そっか」
小さく頷く。
そのやり取りを、後ろで全員が見ている。
樹はニヤニヤ。
慎太郎もニヤニヤ。
ジェシーはわかりやすく楽しそう。
風磨は何も言わずに見ている。
〇〇はまた少しだけ視線を逸らす。
〇〇「ほんと、ごめん」
もう一度だけ言う。
北斗は軽く息を吐く。
北斗「だからいいって」
それだけ。
それ以上は何も言わない。
〇〇は少しだけ安心したように息を吐く。
そのまま、小さく頷く。
〇〇「…そっか。ありがと」
それだけ言って、軽く息を吐く。
次の瞬間。
〇〇「よし」
空気が変わる。
さっきまでの重さが、一気に消える。
風磨「…は?」
〇〇はくるっと風磨の方を向く。
〇〇「風磨、会議の続きしよ」
風磨「いや切り替え早すぎだろ」
〇〇「だってもう大丈夫だし」
さっきまでの絶望顔はどこにもない。
普通。
完全に通常モード。
〇〇はそのまま資料をパッと持ち上げる。
〇〇「さっきのサビ前の振り、もう一回考えよ」
風磨は一瞬言葉を失う。
風磨「…お前怖」
〇〇「なんで」
〇〇は本気で不思議そうな顔。
後ろでは――
樹「いや怖いって」
慎太郎「さっきまであれだったのに」
ジェシー「切り替えやばくね?」
高地「早すぎるだろ」
きょも「すごいな…」
全員ドン引き気味。
〇〇「何その反応」
樹「いやだって」
慎太郎「さっき“人生終わった”って言ってたやつと同一人物?」
ジェシー「別人だろこれ」
〇〇「うるさい」
さらっと返す。
そしてもう一度、風磨を見る。
〇〇「で、どこまで話したっけ?」
風磨はまだ納得いってない顔。
風磨「…マジで戻ったな」
〇〇「戻るでしょ普通」
風磨「普通じゃねえよ」
〇〇「仕事あるし」
即答。
その言い方に、少しだけ全員が黙る。
確かにその通りすぎる。
〇〇はもう北斗のことを見ていない。
さっきまであれだけ騒いでいたのに、
まるで何もなかったみたいに。
完全に仕事モード。
北斗はその様子を少しだけ見る。
何も言わない。
でも、ほんの少しだけ目が細くなる。
樹が小声で言う。
樹「切り替ええぐ」
慎太郎「さすがだな」
ジェシー「プロだわ」
高地「いやでもびっくりするって」
きょもは静かに笑う。
きょも「…北斗、大変だね」
北斗「うるせえ」
小さく返す。
〇〇はそんな空気にも気づかず、風磨と普通に話し始めている。
〇〇「ここのフォーメーションさ」
風磨「うん」
完全に別の話。
さっきの出来事が嘘みたいに消えている。
その様子を見ながら、周りはまだざわついている。
慎太郎「いやほんとすげえな」
ジェシー「メンタル強すぎ」
樹「いや強いっていうか…」
樹は少しだけ笑う。
樹「無自覚すぎるだけだろ」
その言葉に、少しだけ空気が変わる。
北斗は何も言わない。
ただ、少しだけ〇〇の方を見る。
さっきまであれだけ動いていた感情を、
もう何もなかったみたいにリセットしてる。
いつも通りの距離。
いつも通りの関係。
それが逆に、はっきりする。
北斗は視線を外す。
何も言わず、準備に戻る。
でも――
さっきよりも、少しだけ。
このままじゃいけないっていう感覚だけが、
強く残っていた。
ーーーーー
11:35
スタジオ。
風磨との会議がひと段落して、資料も一旦閉じる。
〇〇「はー、ちょっと休憩」
椅子に背中を預ける。
風磨「やっと終わったな」
〇〇「ね」
そのタイミングで、再び撮影を終えたSixTONESも合流してくる。
樹「終わったー」
慎太郎「腹減った」
ジェシー「疲れたなー」
高地「お疲れ」
きょも「どうだった?」
〇〇「まあまあ」
軽く答える。
誰かがぽつっと言う。
慎太郎「なんか話す?」
ジェシー「雑談タイムな」
〇〇がすぐ反応する。
〇〇「恋バナしよ」
即決。
風磨「出た」
樹「好きだなほんと」
〇〇「いいじゃん」
そのまま前のめりになる。
〇〇「最近の恋愛事情」
慎太郎「急だな」
ジェシー「いいよいいよ」
軽いノリで始まる。
でもその空気はどこか自然で、
誰も止めない。
〇〇「誰かないの?」
樹「お前から言えよ」
〇〇「えー」
少し考える。
でもすぐに口を開く。
〇〇「好きなタイプは変わってないかな」
風磨がニヤッとする。
風磨「この前言ってたやつ?」
〇〇「あーそうそれ」
〇〇「明るくて、ちょっとチャラいくらいで」
ジェシー「おー」
〇〇「あと子供好きな人」
慎太郎「いいじゃん」
〇〇「なんかさ、そういう人の方が楽じゃん」
軽いテンション。
深い意味はない。
でもその場の何人かは、一瞬だけ止まる。
〇〇は気づかないまま続ける。
〇〇「恋愛対象かは別だけど、風磨みたいな感じ」
風磨「それ言うの何回目?」
樹「出た」
慎太郎「それ言うと思った」
ジェシー「風磨かよ」
風磨は笑いながら首を振る。
風磨「俺はやめとけ」
〇〇「なんで」
風磨「ろくなことない」
〇〇「それはそう」
笑いが起きる。
場は完全に軽い空気。
でも――
北斗だけは、何も言わない。
視線も合わせない。
ただ静かに聞いている。
〇〇はそんなこと気にせず、さらに続ける。
〇〇「逆にさ、落ち着いてる人もいいけどさ」
少しだけ考えて、言葉を選ぶ。
〇〇「なんか気使っちゃうんだよね」
樹「へー」
〇〇「優しすぎる人とか、ちょっと距離感じる」
さらっと言う。
北斗の指が一瞬止まる。
でも誰も気づかない。
〇〇はそのまま話題を変える。
〇〇「てかさ」
自然な流れで。
〇〇「廉ってさ、けっこうそのバランス良かったよね」
空気が一瞬だけ止まる。
ほんの一瞬。
でも確実に変わる。
〇〇は全く気づいてない。
〇〇「明るいし、ちゃんと気も使えるし」
懐かしそうに笑う。
〇〇「一緒にいて楽だったなって思う」
風磨が横で軽く息を吐く。
樹は目線だけで周りを見る。
慎太郎は少しだけ黙る。
ジェシーも何も言わない。
きょもは静かに〇〇を見る。
北斗は――
何も言わない。
ただ、視線を落とす。
〇〇は気づかないまま続ける。
〇〇「まあでももう終わってるし」
軽い口調。
〇〇「今は別にいいかなって感じ」
あっさりしてる。
本当に。
〇〇の中ではもうこの前の北斗に相談したことで整理されてるつもり。
でも。
完全には消えてない温度が、
言葉の中に残る。
それを拾うのは、周りだけ。
風磨「お前さ」
〇〇「なに」
風磨「無自覚すぎ」
〇〇「何が」
本気でわかってない顔。
樹が笑いながら言う。
樹「いやほんとだよ」
慎太郎「やばいって」
高地「天然すぎるだろ」
〇〇「うるさいって」
笑いながら返す。
でもその空気の中で。
北斗だけが、静かにそこにいる。
何も言わない。
何も変えない。
ただ。
さっきの言葉だけが、残る。
“楽だった”
その一言が、
やけに引っかかる。
周りの笑い声が少し遠くなる。
でも、北斗は顔を上げる。
そしていつも通りの声で、短く言う。
北斗「次俺ら準備だろ」
樹「お、だな」
空気を戻すみたいに。
話を切る。
〇〇「もうそんな時間?」
ジェシー「早いな」
慎太郎「行くか」
空気はまた普通に戻る。
誰も何も言わない。
でも。
さっきの会話だけは、
確実に残ったまま。
北斗の中にだけ、少し深く。
コメント
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やばば…気になる、、、